「濃口UGC」で購買を動かし、CM予算半減を目指す。ミツカン「Fibee腸内会」が実現する顧客共創型マーケティング
コミュニケーション本部 ダイレクトマーケティング部
藤崎 友依子様
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フェーズ分けした戦略的な運営(基盤作り→UGC創出→拡散)で段階的に成果を創出
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社員が直接コミュニケーションを取り、「初めての方大歓迎」の温かい雰囲気を醸成
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ファンミーティングなど、オンライン×オフラインの施策で参加ハードルを下げる
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新ブランドのため、熱量の高いファン育成が必要
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PR付き投稿は量的な効果は見込めたが、購買につながる実体験に基づいた「濃口UGC」が不足していた
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健康商品の価値実現には継続利用が必要で、売り切り型のビジネスモデルでは限界があった
効果
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データで実証された説得力のある「濃口UGC」による購買促
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ファンとの共創による商品開発とマーケティング施策の精度向上
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ミツカンIDとの連携による顧客データの統合分析と施策立案
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将来的にCMからUGC中心のマーケティングへの転換
220年以上の歴史を持つ株式会社Mizkan(以下、ミツカン)は、2024年3月に“発酵性食物繊維”に着目したブランド『Fibee(ファイビー)』を立ち上げ、新規事業として「即食×健康実現」という新たな価値提供に挑戦しています。
しかし新ブランドゆえに既存ファンが少なく、立ち上げと同時に展開した「アンバサダー」を活用した取り組みでは、「#PR」付投稿は増え、一定の認知につながったものの、購買につながる「濃口UGC」の創出には至りませんでした。
そこで同社はAsobicaのホンネデータプラットフォーム「coorum(コーラム)」を活用し、Fibeeの発売1周年を機に公式コミュニティサイト「Fibee腸内会」を立ち上げました。ミツカンIDとのシングルサインオン(SSO)連携と、コミュニティ運営を超えた顧客分析に基づく総合的な提案力が決め手となりました。
運営開始から半年で、これまで投稿を控えていた「サイレント層」のユーザーが活性化し、新規投稿が大幅に増加。ファンミーティングでの新商品試食会など、顧客との共創も実現。同社は将来的に、CM依存度を下げ、UGC中心のマーケティングへの転換を目指しています。
今回は、Fibeeのプロモーション施策全般を担当する藤崎氏に、詳しく伺いました。
INDEX
220年の歴史を持つミツカンが挑む、UGC起点のマーケティング改革

──まずは藤崎様の役割と、Fibeeブランドの位置づけについてお聞かせください。
藤崎様:Fibeeのプロモーション、コミュニケーション施策を遂行するチームに所属しています。Web広告、デジタル・リアルでのプロモーション施策、そして「Fibee腸内会」の運営など、Fibeeに関わるコミュニケーション施策全般を担当しています。
Fibeeは2024年3月にローンチした新ブランドで、まだ1年半ほどの若いブランドです(取材:2025年9月)。調理人口の減少や食の多様化という市場環境の変化に対応するため、「即食」で「健康実現」を目指す新しいカテゴリーの商品です。
発酵性食物繊維を活用したワッフルやカレーなど、従来の調味料とはまったく異なる商品ラインナップを展開しています。『味ぽん®』など他の商品チームとも連動しながらも、Fibeeブランドとして独立して動いている状況です。
──ミツカンのマーケティング組織は、商品をPRする取り組みにおいて何を重要視されているのでしょうか。
藤崎様:執行役員の林がよく話しているのですが、ミツカンには年間数百万のトラフィックがあるウェブサイトや、多くの方が訪れるミュージアムがあります。しかし、その多くが「一期一会」で終わってしまっている。メニューを検索してサイトを見て、その後他のレシピサイトに流れていく。この状況はもったいないなと考えています。
そこで重要なのが「つながりの再構築」です。一期一会ではなく、持続的な関係を作る。特にロイヤリティの高い既存のお客様とのつながりを強化することで、どういう方がどういう商品を使い続けてくださるのか理解できますし、何よりそういった方々による口コミ、つまりUGCが商品の強力な後押しになります。
林は「CMで実現していた顧客との接点を、UGCに変えていく」と大きく舵を切っています。実際、会社全体でUGC起点の成長サイクルを重要KPIにすることが、2025年度から全商品の担当者に共通認識として浸透しています。UGCを生み出すための手段としてコミュニティに注目しているんです。
──そういった背景の中で、新ブランドFibeeはどのような課題を抱えていたのですか。
藤崎様:まさにその「つながり」や「UGC」を作ることが、新ブランドゆえに最も難しかったんです。『味ぽん®』なら長年のファンがいますが、Fibeeにはまだ長年継続利用してくれているファンが少ない。でも会社の方針として、UGC中心のマーケティングを実現しなければならない。そのギャップをどう埋めるかが大きな課題でした。
「#PR」投稿の限界から見えた“濃口”UGCの必要性

──そうした課題を解決するために、最初はどのような取り組みをされたのですか。
藤崎様:Fibee発売と同時期から約1年間、「アンバサダー」を活用した取り組みを実施していました。インフルエンサーに近い一般の方々にご協力いただいて、ハッシュタグ#PRをつけたSNS投稿でFibeeを広める活動です。
1年間で生まれたFibeeに関するSNS投稿の約30%はアンバサダーによるもので、Fibeeの名前を広めるという意味では成果がありました。しかし、PR付きの投稿は、どうしても見る側が「どうせPR」という先入観を持ってしまいます。社内では「薄口のUGC」と呼んでいますが、誰が発信してもPR投稿という時点で購買につながる力が弱い。
一方、実際に商品を愛用している方の実体験に基づいた「濃口UGC」の発話こそが、他ユーザーの購買行動につながることが、1年やってみて明確になりました。
──そこからなぜコミュニティマーケティングという選択をされたのですか。
藤崎様:先ほどお話しした通り、ミツカンのウェブサイトには年間数百万のトラフィックがあります。メニューを検索して訪れてくださる方々は、ミツカンの商品や健康的な食生活に関心を持っている貴重なお客様です。でも現状は、レシピを見て他のサイトに流れていく「一期一会」で終わってしまっている。
林はこれを「自ら集まる場所」に変えていく必要があると言っています。つまり、検索でたまたま訪れるのではなく、お客様が定期的に、自発的に訪れたくなる場所。そこでお客様同士が交流し、商品の使い方や健康体験を共有することで、自然にUGCが生まれる。企業が一方的に情報発信するのではなく、お客様が主役となって価値を生み出していく場所です。
コミュニティなら、単なる情報提供の場ではなくエンタメ性があって、同じような悩みや思想を持つ仲間と楽しめる場所になります。SNSも一方的な商品情報の発信から、対話型・参加型に変えていく。そうすることで習慣的に訪れてもらえるようになり、そこから自然にUGCが生まれてくる。
実際、ミツカンには「ミツカン365」という先行事例もありました。ECレビューとは違って、自社のオウンドメディアとしてユーザーの声を蓄積できる場所という意味で、コミュニティが最適だという共通認識が社内にありました。
──D2Cビジネスとの相性も良かったと。
藤崎様:まさにそうです。Fibeeは健康実現を目指す商品なので、継続していただくことで価値を提供できる。売り切り型ではなく、定期購入で長くお付き合いいただく。コミュニティはその関係構築に最適でした。
顧客データ分析とワンストップ支援がcoorum選定の決め手に
──数あるコミュニティツールの中から、coorumを選んでいただいた理由をお聞かせください。
藤崎様:大きく2つあります。1つ目は、ミツカンIDという既存の会員基盤とSSO連携できることです。ミツカン365と共通のIDで統合管理することで、お客様一人ひとりと1to1でコミュニケーションを取ることを、なるべく早く実現したかった。その実績があるcoorumであれば、スムーズに導入できると判断しました。
2つ目は、コミュニティ運営を超えた総合的な提案力です。coorumはコミュニティだけでなく、researchとinsightというツールも含めて顧客分析ができる。コミュニティデータと統合した会員データを掛け合わせて、一人ひとりのカスタマージャーニーを詳細に分析し、そこから商品開発やマーケティング施策への具体的な活用方法まで提案いただきました。
藤崎様:「コミュニティで集めた声を、次の商品企画会議でこう使えます」「このセグメントのお客様にはこういうアプローチが効果的です」といった、かなり踏み込んだ提案でした。
単にUGCを集めるだけでなく、それをどう分析して、どう事業成長につなげるか。コミュニティ運営の先にある価値まで見せていただいたことで、私たちも納得感を持って導入を決められたと感じています。
腸活ダイアリーとファンミーティングでサイレント層が活性化

──実際のコミュニティ運営では、どのような工夫をされているのでしょうか。
藤崎様:Fibeeに興味がある方と、腸活などの健康情報に関心がある方、この2つのセグメントに向けて、最新情報の提供と、お客様同士の交流促進を軸に運営しています。ただ、立ち上げ当初から順調だったわけではありません。
戦略的にフェーズを3つに分けて進めてきました。最初の3〜4ヶ月は「基盤作り期」として、運営側が情報発信に慣れることを重視しています。次の3〜4ヶ月は「UGC創出期」として、お客様の投稿を促す施策へシフト。そしてその後は「拡散期」として、SNSへの展開も視野に入れています。
──具体的にどのような施策で効果や変化が表れましたか。
藤崎様:転機となったのは、Asobicaさんから提案いただいたcoorum researchの活用です。コミュニティで投稿するハードルは高いけれど、クイズや投票なら気軽に参加できる。この施策により、これまで一度も投稿したことがなかった「サイレント層」のユーザーが次々と投稿を始め、月間ログイン回数も約140%上昇しました。
もう一つ効果的だったのが「腸活ダイアリー」です。日々の腸活を記録できる機能で、コミュニティに訪れるきっかけになっています。オフラインでのファンミーティングの場でも、「とても使ってます」という声をいただきました。
──ファンミーティングも重要な施策ですね。
藤崎様:月1回程度開催していますが、直接対面することでユーザーさん同士がFibeeという共通の話題で盛り上がり、終了後は投稿が明らかに増えます。新規参加率も40%と、新規の方の参加度合いも良好です。
例えばワッフルの試食会では、「もう少し甘い方がいい」といったフィードバックを直接いただき、実際に調整しました。グッズのデザインも投票で種類を決め、ファンミーティングでデザインを決定。「自分たちで作った」という実感を持っていただけたと思います。
──コミュニティの運営体制についても教えてください。
藤崎様:私を含む2名のメインスタッフと、サポート1名で運営しています。重要なのは、社員が直接コミュニケーションを取ること。「初めての方大歓迎」という雰囲気づくりを徹底しています。
実際、既存ユーザーの方が自発的に新規ユーザーに「ようこそ」とコメントしてくださることも増えました。私たちより早く歓迎してくださるんです。そうした場作りのかいもあって、「このコミュニティはすごく温かい」という評価をいただけるようになりました。
CMからUGCへ、データで実証する次世代マーケティングへの転換

──今後、「Fibee腸内会」をどのように発展させていきたいとお考えですか。
藤崎様:これからは、コミュニティ内で生まれたUGCをいかに外に広げていくかが重要になります。皆さんの投稿を見て「私も一緒にやってみよう」という流れを作り、SNSでも自然に発話が生まれる仕組みを作りたいです。コミュニティ内の温かい雰囲気を保ちながら、外への発信力も高める。
この両立は簡単ではありませんが、Asobicaさんにはコミュニティ分析から施策提案まで伴走いただき、特に拡散フェーズでのSNS連携施策を一緒に設計していただければと期待しています。
今後はcoorum insightを本格活用して、ミツカンIDと統合した分析が可能になります。コミュニティの本音データと会員データや行動データを掛け合わせ、どんな方がどういう意識で商品を購入し、どのように使い続けてくださるのか。こうした分析から得られる示唆を、次の施策立案に活かしていきたいです。
──最後に、「Fibee腸内会」の良い傾向も踏まえて、今後のマーケティング戦略をどう描いているのか教えてください。
藤崎様:社内でデータを分析してみると、興味深い傾向が見えています。実際のユーザーの声であるUGCの方が、購買行動により結びつきやすいという社内分析結果が出ているんです。これは林もよく話していることですが、やはり実体験に基づいた口コミの方が説得力があるということだと思います。
将来的には、CMへの依存度を下げて、UGC中心のコミュニケーションへ転換していく。質の高いUGCを増やしていけば、それが事業成長の確実なドライバーになる。CM予算を今の半分にしても、UGCで十分補える、そんな状態を目指しています。
「Fibee腸内会」での成功事例は、きっと他のブランドでも応用できるはずです。
ミツカンには「ミツカン365」という全商品を対象としたコミュニティもありますから、そちらでの展開も視野に入れています。220年の歴史を持つミツカンが、UGCでブランドコミュニケーションを根本から変えていく。そんな挑戦を、引き続きAsobicaさんと共に進めていければと思います。

