CS未経験の男が日本最大級のCS組織を作った話 ~トレジャーデータのカスタマーサクセスを大解剖~

2023-07-24 イベント

2021年7月7日に開催したオンライン対談イベント『CS未経験の男が日本最大級のCS組織を作った話 ~トレジャーデータのカスタマーサクセスを大解剖~』では、トレジャーデータ株式会社よりカスタマーサクセス担当執行役員の重原洋祐氏にご登壇いただき、株式会社Asobicaより小父内信也氏がモデレーターを務めました。

今回イベントに参加できなかった方にもお楽しみいただけるよう、本レポートではイベントの内容をダイジェストでお届けします。

重原洋祐 氏(以下、重原)
トレジャーデータ株式会社 カスタマーサクセス担当執行役員

小父内信也 氏(以下、小父内)
株式会社Asobica 取締役CCO

会社概要

重原:トレジャーデータは「Treasure Data CDP」という顧客データ統合プラットフォームを提供している会社です。オンライン・オフラインに跨がる様々なデータを収集・統合・分析し、それらのデータをマーケティング施策ツールと連携するハブとしてご活用いただいています。

本国アメリカも含めて400社以上のお客様がいらっしゃいます。古くはオンラインサービスやアドテクノロジーのバックエンドなど、特定のサービスの裏側の集計処理基盤として利用いただく企業様が多かったのですが、2016年頃からはマーケティングでの活用が広がり、今では現在ではカスタマーデータプラットフォームという形でサービスを展開し、お客様のDX推進を支えるエコシステムとしてサービスを提供しています。

アメリカでは米SIIA(ソフトウェア&インフォメーション インダストリー アソシエーション)の2020年CODiEアワードで、ベストマーケティングソリューションに選定、8000ほどあるマーケティングソリューションの中でNo.1をいただくなど高い評価を受けています。

Treasure Data CDPのサポート体制

我々のサポート体制は、サポートエンジニア、ソリューションアーキテクト、カスタマーサクセスの3つに大きく分かれます。

サポートエンジニアは、技術的な問い合わせ対応を担当します。Treasure Data CDPではチャットのサポート窓口をご用意しており、サポートエンジニアは、ログイン後のチャット窓口に寄せられる様々な技術的なお問い合わせに対してオンラインでサポートします。

また、Treasure Data CDPを使い始める際には、お客様のデータ基盤・会員システムや、お客様が他にご利用になるマーケティングオートメーションとの接続など、ビジネス全体を捉えたアーキテクチャ設計が必要になります。そうした課題をFace to Faceでサポートしているのがソリューションアーキテクトです。

そして、私が担当しているカスタマーサクセスでは、マーケティング全般のサポートをしています。

トレジャーデータには、いわゆるCSM(カスタマーサクセスマネージャー)という肩書きの人間は存在していません。お客様の利用フェーズやメンバーのケイパビリティ別にチームを細かく編成しています。

私がCSの統括に就任する前は、カスタマーサクセスチームというたった1つのチームで運営をしていました。しかし、お客様をサポートする中で、広く色々なケイパビリティを持った人間が必要だと気づき、採用活動を進めながら現在のような細かく分けられたチーム構成になっています。

オンボーディングからセールスと連携し、長期的にお客様をサポート

CSの業務フローについてご説明します。

SaaSのソリューションを提供している企業様の中には、オンボーディングを課題と感じている方が多いのではないでしょうか。トレジャーデータもオンボーディングは非常に重要なフェーズだと考えており、オンボーディング専門のチームが存在します。

お客様にご提案する段階からセールスと連携し、利用開始時にプロジェクトが提案内容と合致するようCS側でサポートしています。利用開始後に担当がアサインされ、セールスフォースとの連携やTreasure Data CDPの環境開設をしながら、お客様とコミュニケーションをとり、キックオフ前にプロジェクトの目的をすり合わせています。

また、キックオフには必ず決裁権限者の同席をお願いし、プロジェクトのゴールをきちんと握ることで方向性がブレないようにしています。

我々のソリューションはデータを収集、統合してアウトプットにつなげるというシンプルなものですが、お客様が100社いれば100通り以上の使い方があり、運用が始まるとお客様を個別にサポートすることも多いです。社内の情報共有やお客様とのコミュニケーションを綿密にとることで、長期にわたりご利用いただいています。

オンボーディングチームは約半年〜1年のスコープで構成しています。2年目以降はいわゆるCSMに近いカスタマーエンゲージメントチームが引き継いでサポートします。

以後状況に応じてコンサルティングチームやアナリティクスチーム、カスタマーデータマネージメントチームがサポートする体制になっています。

チーム全体では現在44名のメンバーがおり、ここ2年ほどで約4倍に人数が増えました。2021年度には73名にする予定です。サブスクリプションのビジネスをする以上、新規の契約をとる営業ももちろん重要ですが、長期的にお客様にご利用いただくためにCSがきちんとサポートする体制を強化したいと考えています。

なぜCS未経験の男がCS組織を作ったのか

ここからは現在に至るまでについてお話しします。

私は、長い間デジタル関係の仕事に携わってきました。2002年にデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムに入社し、広告は10年以上のキャリアを持っています。

2012年にパブリックDMPである”AudienceOne”の開発及び事業に従事し、そこからデータビジネスに深く携わっています。その後数人で起業をし、そこでTreasure Data CDPの利活用についてお客様に提案する外部コンサルをしていました。元々はパートナー企業としてトレジャーデータに関わっていたのですが、2019年にCSとは異なる別のチーム組成をするためにトレジャーデータに入社いたしました。

では、なぜ入社時にCSを担当するつもりが全くなかったのにも関わらずCSをやっているのか、というお話をします。

ニーズの変化とそれに応じた新しいチーム構成

元々我々はビッグデータプラットフォームとしてソリューションを提案しており、お客様のシステムのバックエンドで動くツールとしてビジネスを展開していました。そのためお客様のニーズが顕在化されていることが多く、その問題の解決を求めている方が多い状態でした。つまり、お客様が求める一定の技術的サポートができていればお客様が自走していただけるような状態で、活用サポートをそれほどプロアクティブに行う必要がありませんでした。

しかし、マーケティングに活用するお客様が増えるに伴い、お客様の課題が変化してきたのです。データの活用に課題感を持ってはいるものの実際にどうすべきかがわからずお困りになる方が増えてきました。そのため、プロアクティブな技術サポートは引き続き行いつつ、活用サポートもプロアクティブに対応し、サポート体制を進化させる必要が出てきました。

我々がお客様をサポートする際には、まずTreasure Data CDPに関する知識を誰よりも持っていなければなりません。また、お客様のビジネス全体を理解する必要があります。お客様の中期経営計画を見ながらお話しするシーンもあるため、お客様がどういうビジネスゴールに向かっているのかを理解する力が必要になります。加えて課題に対しての洞察力や、打ち手への理解、データから打ち手へ繋げることのできる一定の技術的知見、お客様とのコミュニケーション能力などが重要になります。データを扱う以上、ベンダーのサポートチームよりもお客様のビジネスに対する理解力が一層求められます。

ただ、これら全てを持ち合わせるスーパーマンはなかなかいないので、チームを細かく構成することで幅広くサポートしています。チーム全体として、どのようなサポートをしているのかを表したものがこちらの図です。

(重原さん作成資料より、抜粋)

いわゆるベンダーとして機能を提供するだけではなく、お客様がどんなデータを持っているかの確認や、利用するにあたっての環境の整備、お客様の戦略やコミュニケーションプランの設計、そしてそれを実行するためのマーケティングオートメーションの知見、施策の分析などが必要になります。それらを軸にチームを構成することを初期に行いました。

その結果として、プロフェッショナルサービスチーム(以下PSチーム)を作りました。当初の大きな目標は、データを活用したビジネス拡大の事例を作ることでした。Treasure Data CDPは活用の幅が広いがゆえに、最先端の事例が出来にくい状態だったからです。機能だけの提供ではお客様のビジネス全体のサポートが難しく、お客様だけではリソースが足りず活用が広がりにくいことも背景としてありました。当時はパートナー企業もCDPへの取り組みを強化し始めた段階で、ナレッジを提供していくにあたってトレジャーデータ自体がお客様のビジネス全体へのサポートを強化していくべきだと考えました。こうして、SaaS企業の枠を超えてお客様のビジネスを最大化できるサポート組織としてのPSチームができました。

チーム運営は5人からスタートしました。それぞれが持っているケイパビリティが少しずつ異なっていたため、人を少しずつ増やし、得意分野を伸ばす形でチームを拡充していきました。

PSチームとCSチームは、お客様のビジネスをTreasure Data CDPを用いて成功に導くことは共通しています。その上で、PSチームはお客様に深くサービス提供していくチームとして、時にはお客様の代わりとなってビジネスを設計したり、プロジェクトメンバーの一員として推進していくモデルです。一方CSはあくまでもベンダーのビジネスサポートとして、お客様主導で考えていただいたことに対して、それを実現するためのアドバイスやサポートをする立ち位置でした。

PSチームでは外部の人材を積極的に採用していました。例えばマーケティングストラテジストは総合広告代理店、ビジネス面だとコンサルティング会社、システムアーキテクトだとマーケティングツールベンダーというように、求められるバックグラウンドがイメージされると思います。

しかしプロジェクトをリードしていくにあたっては、やはりTreasure Data CDPについての知見が必要になるため、プロジェクトマネージャーの採用が課題でした。

一方でCSが持っていた課題は、当時300社以上のお客様を10名のCSがフォローする体制になっており、社内できちんとナレッジ共有ができていなかったことです。ビッグデータだけでなくマーケティングソリューションとしてご利用いただくことが増えた中で、お客様のマーケティング領域のサポートに課題も生まれていました。オンボーディングのプロセスも殆どなく、解約抑止も十分でない中、強引にアップセルを目標に動くようなこともありました。

CDPというソリューションを様々な目的でご利用されるお客様が増えるに従って、我々の組織力の強化が必要になってきたのです。

PSチームとCSチームが統合し、サポート体制が進化

そこで、2つのチームを統合して運営をすることにしました。PSチームのノウハウをCSチームが持つことで、より一層お客様をサポートする体制が整い、またPSチームに足りなかったTreasure Data CDPとお客様の課題への理解をCSチームが補えると考えたからです。

(重原さん作成資料より、抜粋)

小父内:この旧CSチームのカスタマーレプレゼンタティブというのはサポートに近いものですか?

重原:当時はサポートのような状態で、メンバーが少なかったこともありどうしてもリアクティブな対応になっていました。

プロアクティブなサポートに変えるためにもPSチームと統合しました。お客様の利活用を広げられるように、時にはコンサルティング担当をつけてお客様に提案したり、お客様がエンジニアのリソースを揃えられない時に我々のエンジニアをスポット的に割り当てたりもしました。

CSはポストセールスの役割を担うと一般的に認識されることが多いですが、セールスのKPIが大きすぎるとお客様に必要のないアップセルを要求してしまうことがあると思います。我々のメインミッションはお客様の満足度を向上し長期的にご利用いただくことなので、一旦ポストセールスの役割を排除して、チームの目標を再設計しました。

オンボーディングや定期レビューの重要性を再認識し、業務フローを改善

業務フローをどう改善したかについて、今はこのような(上の図)フローになっていますが、もとはこれだけ(下の図)しかありませんでした。(画像参照)

(現在のCS業務フロー)
(当時のCS業務フロー)

当時は案件が決まると担当をアサインし、そのままキックオフを行なって、ご利用いただくような体制で、その後は適宜お客様からの質問に答えたり、ユーザーイベントにご招待するなどして関係を深め、契約更新に繋げていました。

しかし、そうした中でオンボーディングのプロセスの重要性を再認識し、定期的にレビューをとる必要があると感じて、今ではこのような細かいプロセスを組み込んでいます。

“個人よりも組織”のKPI

我々CSのKPについては、ビジネス全体のKPIとしてNet Revenue Retention(売上継続率)を掲げていたため、当時はアップセルも重要な要素でした。

しかし、アップセルとはお客様の満足度や利活用が推進した結果自然に発生するものであり、無理矢理するものではないと考えています。そのため、2020年の段階では、まずは解約だけを個人のKPIとして見るように設計しました。

その後、まずは「お客様の満足度を上げていく」ということと、「どうすれば解約を抑止できるのかを考えて動く」よう意識改善を促した上で、今年からアップセルをKPIとして復活させました。

また、CSの成果はどうしても定量的に測れる部分だけではないので、定性的な行動やお客様の満足度スコアを年次評価で加点にする評価設計をしました。

CSは組織戦がとても重要であると考えています。CSに求められるケイパビリティは一人では持ち合わせていないことが多く、組織でカバーすることが重要になります。また、担当がどれだけ頑張ってもお客様の経営状況などが原因で解約するケースがあるのは事実です。そのため組織的にどう守っていくかを考える必要があります。時には組織としてのKPIを達成するために個人のKPIを後回しにせざるを得ないこともあったりするので、そのための意識改革も行いました。

対応状況の記録と共有

これまでは担当のCSがナレッジとして持っていたお客様情報を、Confluenceを使って社内wikiのような形でお客様の導入背景や現状の利用状況などを全社で一元的に管理できるようにしました。自動翻訳も可能なので、本国のメンバーも常に最新の情報を見ることができます。

データの活用

さらに、我々自身がTreasure Data CDPを活用してデータを統合しました。セールスフォースやZendeskなど様々なサービスを利用しているため、データが散在していました。CSのTreasure Data CDPの中でそれらのデータを統合し、Tableau(タブロー)を使ってお客様の契約状況をダッシュボードで細かく見られるよう可視化したり、機械学習で解約の可能性を算出するモデルを構築し、データを元にサポートをしました。

コミュニケーションチャネルの開発

コミュニケーションチャネルを増やす取り組みも進めています。担当一人一人がお客様対応を行うには限界があります。そのため、お客様が能動的に情報を収集、接触する機会を創出するべく、ユーザー会の運営や、既存のお客様向けにポータルサイトの運営を開始しました。ポータルサイトでは、メンバーが2ヶ月に1回記事を公開しています。現在150本以上の記事が公開されています。ここでは検索してもなかなか出てこないようなデータの活用方法や、マーケティングに関するナレッジなどを提供しています。半年ほどかけて継続しており、契約企業の30%くらいに見ていただけるようになりました。

データを統合したことでお客様がそれぞれどの記事を読んでいるかという情報も取得できるようになりました。そのデータからお客様のお困りごとを把握してCSの行動に生かしています。

また、お客様の上層部とのコミュニケーションの場を設けたり、お客様の満足度を調査したり、定期的にクオーターレビューを実施してお客様とのロードマップのすり合わせをきちんと行っていきました。

更なるチームの進化

その後、将来的な解約率の押し下げや複数年利用に繋げることを目的として、オンボーディング専門のチームを発足させました。

また、お客様にプロアクティブに利活用の提案をしていくチームとしてアクセラレーションサポートチームをつくりました。

現在ではこのような構成になっています。

(重原さん作成資料より、抜粋)

メンバーのケイパビリティ別に分けた上でさらにお客様のフェーズごとに構成しています。

CSとして心掛けていること

CSとして心掛けていることをいくつかご紹介します。

1.自分よりいい人を採用する

トレジャーデータは社内に浸透する格言として“Hire people better than you,”という言葉があります。文字通り自分よりいい人を採用しようという言葉ですが、これを常日頃からCSの採用においても心がけています。

2.営業は敵ではない

CSにとって営業は敵ではなく会社のレベニューを作る上で全員がOne Teamなので、カジュアルに「No」と言える関係性を作ることは非常に重要だと思います。また、どんな案件でも効果を出せるCSチームを作ることを心掛けています。

パートナー企業との連携にも力を入れています。我々はSaaSベンダーとしてサブスクリプションサービスを提供しており、コンサル会社になるつもりは全くありません。我々単体でのサポート数には限界がありますし、パートナー企業に幅広くナレッジを提供することで、お客様へのサポートの範囲をパートナー企業と共同で拡大していくことが真のお客様満足度向上のためには重要です。パートナー企業と連携してどのようにCSが培ったナレッジを提供していくかが今後の鍵だと考えています。

3.メンバーの意識改革・モチベーション管理

CSの行動は定量的に測りにくいところがあるので、何のための仕事なのかをブレイクダウンしたり、組織として週次で定量的な成果も細かくモニタリングしています。

また、刺激になるメンバーやお客様を巻き込んで組織としてのモチベーションの底上げを狙ったり、月次でのMVP選定、常にチャレンジできる文化作り、コロナ禍での社内コミュニケーションの機会を作るなど、モチベーションを保つための仕掛けも行っています。

最後に

マーケットの変化に応じて常に組織は進化していくものであり、あくまで現状は通過点だと考えています。メンバーのモチベーション管理とゴールの共通化ができていればメンバーは円滑に自走します。今もこれからも、そうしたチーム作りを心掛けています。

 Treasure Data CDPのサービスサイトはこちら

cxin

株式会社Asobica cxin編集部。
コミュニティやファンマーケティングに関するノウハウから、コミュニティの第一人者へのインタビュー記事などを発信。

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