【ついに解禁】SaaSトップランナー、サイボウズのカスタマーサクセスを徹底解剖

2023-07-24 イベント

2020年7月29日に開催したオンライン対談イベント『【ついに解禁】SaaSトップランナー、サイボウズのカスタマーサクセスを徹底解剖』では、サイボウズ株式会社カスタマーサクセス部より大脇 一起 氏が登壇し、モデレータの株式会社Asobicaの小父内 信也 氏と対談していただきました。

イベントではサイボウズ社のカスタマーサクセスの歴史や取り組みについてお話しいただいております。
今回イベントに参加いただけなかった方にもお楽しみいただけるよう、本レポートではイベントの内容をダイジェストでお届けします。

大脇一起 氏 (以下、大脇) @ik_pockle_
サイボウズ株式会社 カスタマーサクセス部

小父内信也 氏 (以下、小父内) @obushin
株式会社Asobica CCO 兼 Sansan株式会社 Eightコミュニティマネージャー

大脇:
まず自己紹介をさせてください。

私は、2014年に新卒で地元の電力会社に入社し、そこでの業務改善経験からより多くの人の業務改善に貢献したいと思い、2018年5月にサイボウズに転職しました。

最初はダイレクトマーケティング部に配属となり、既存ユーザーとの接点作り~ファン化の施策や導入支援を担当し、今年の1月からカスタマーサクセス(CS)部の立ち上げメンバーとなりました。

私自身がハイタッチの対応に入ったり、コールセンターを活用したCSコールやセミナー参加者フォローのハンドリング、ヘルススコアの設計などを現在行っております。

(大脇氏作成スライド資料より)

本日は、kintone という業務アプリ構築をおこなう製品のカスタマーサクセスについてお話します。

kintone は、プログラミングの知識が無い方でも、マウス操作でパーツを並べることで、簡単に業務システムが作れる製品です。

サイボウズは、元々オンプレミスのサービスを提供していましたが、2012年頃から kintone を始めとしたクラウドにシフトしており、ここ数年で、クラウドの売上がオンプレミスを上回りました。

また、売上げの伸びとあわせて、kintone コミュニティも変化しています。

立ち上げ当初は開発者向けのコミュニティをメインにスタートしましたが、製品の拡大に伴い、ユーザー向けのコミュニティにも近年注力しています。総じて、CSの必要性がより高まってきたという流れもあり、今年の1月からCS部を正式に立ち上げ開始しました。

(大脇氏作成スライド資料より)

縦横に広がるkintoneのカスタマーサクセス

大脇:
これは僕の解釈が含まれますが、CS組織の立ち上げにあたって、他社では、最初はハイタッチのオンボーディング強化(Phase1)から始めて、ユーザーが増えていくタイミングで、セミナーの実施、Webコンテンツの拡充など、ロータッチ・テックタッチの強化(Phase2)に移っていき、その後、Expantionやコミュニティに着手(Phase3)しながら、「アップセルは営業に」「コミュニティ運営は専属部隊に」という風に徐々にPhase3の役割分担がされていく(Phase4)というケースが多いのではないかと感じています。

(大脇氏作成スライド資料より)

それに対して、kintoneは顧客数14,500社以上(2020年1月時点)の状態からCSを立ち上げているので、このPhase1〜4を順番にやるのではなく、同時多発的に立ち上げているような状態です。

そうすると、当然CS単体で進めるのが難しい場面が沢山出てくるので、他部署とのコミュニケーションが非常に大事になってきます。

僕もPMM(サイボウズではBPM=ビジネスプロダクトマネージャーと呼びます)や、営業・プロモーション・開発のメンバー等と、日々密にコミュニケーションをとりながら進めています。

例えば「そもそもCSとはどういうことか」という概念や役割の整理をしたり、どこからどこまでをCSが担って、どこから他部署にパスを出すべきかという線引きなどを調整しているイメージです。

(大脇氏作成スライド資料より)

小父内:
Phase4の役割分担の話で、各部署の役割責任を大脇さん含めて整備しているところなんですね。

大脇:
そうですね。各部署の交通整理はPMM(BPM)が中心となってやってくれているので、その会話に加わっている感じです。CSとしては、Phase1やPhase2も立ち上げつつ、そういうところも同時にやっているような状況です。

小父内:
サイボウズさんは元々サポートがものすごく手厚い印象があり、ノウハウや知見はかなりお持ちだと思うんです。

そういう今までの連携の仕方や工夫みたいなところが、CSに転用されているものだと思っていたんですが、そういう部分はありますか?

大脇:
実は今年から、全社的にも「今まで以上に既存顧客にもっと注力しよう」という動きの変化がありました。

なので、今までの連携の仕方や工夫を活かしつつも、それ以上に多角的に連携できるように進めている状況かなと思います。なので、今回のイベントタイトルに「徹底解剖」とつけていただきましたが、まだまだ立ち上げ途中という状態でもあります。

小父内:
Phaseの説明のなかに、ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチがありましたが、CSチームの中で役割が分かれているのでしょうか?

大脇:
そうですね。CS 内では、ハイタッチとロータッチで別れていて、テックタッチに関しては、プロモーションのチームやヘルプのチームが別にいます。

(大脇氏作成スライド資料より)

大脇:
ただ、サイボウズではセグメントで区切るというよりは、相互にしっかり循環させることを大事にしています。

例えば、10人ハイタッチ対応したときに、5人に同じ説明を30分したなら、それは標準的な内容だからセミナーに展開した方が良いと判断します。(ハイタッチからロータッチへ)

他にも、セミナーは申込をしてもらえないとリーチできないので、例えばセミナーで反響が大きかった内容などは、テックタッチに落としてメール配信や郵送コンテンツなどでマス向けにプッシュで届けることなども企画しています。(ロータッチからテックタッチへ)

サイボウズ流「想いの伝わる施策」

(大脇氏作成スライド資料より)

大脇:
今行っている実際の施策は、4つあります。

まずコールセンターを活用した「CSコール」です。これは、毎月契約していただいたユーザーの2週間分のアクセスログをとって、そこから8つにグルーピングをし、上手く活用出来ていなさそうなグループにコールセンターのメンバーからアプローチをするというものです。

実際電話をかけたときに何か支援が必要であれば、機能的なアドバイスをしたり、運用の相談に乗っています。

更にもう少し深い相談が必要ということであれば、CSメンバーに繋ぎ、Web会議ツールでお客様の画面を見せていただきながら、機能説明やアプリ作成の支援を行うということをしています。

参加者:
コールセンターの方のスキルや対応品質等はどのように管理・教育や向上されていますか?

大脇:
今CSに関わっているコールセンターのメンバーは、テクニカルサポート経験のあるメンバーでして、元々テクニカルサポート部門では定期的な品質評価を行っているので、その部分での対応品質は保たれています。

また、コールセンターのメンバーに限らず、CSメンバーのスキル整理や教育研修も重要だと思っています。製品に詳しくなるのと併せて顧客理解を深めることは最低限必要と感じますが、CSという新しい分野に関する一般的な概念や知識も学び続けないと、向かう方向を間違えてしまうこともあると思うんです。

目の前の顧客対応が好きということだけでは、なかなかマクロな視点で考えられないと思うので、チーム内でのレベルの底上げや認識の統一のために、定期的に勉強会を実施しています。

(大脇氏作成スライド資料より)

大脇:
2つ目の施策は、「活用支援セミナー」という既存ユーザー向けのセミナーです。

1~6月で3種類のセミナーを全7回開催し、合計610人の方にご参加いただきました。この参加者のアンケート結果をもとに、「支援が必要そう」という方をグルーピングし、CSメンバーからコールをかけています。

そこから更に継続支援が必要な方がいた場合、Web会議ツールを用いた継続支援へ誘導しています。

セミナーにご参加いただいている方なので、何かに困っていたり、もっとやりたいことがあるという方が多く、通電率や支援に繋がる割合が結構高いなと感じています。

7月以降は月4回程のペースでやっているので、7~12月は更に増えていくのではと思います。

(大脇氏作成スライド資料より)

大脇:
3つ目の施策がテックタッチの部分です。実はこれは、CS部ではなく他部門でやっている施策になります。具体的には、月1のメルマガ送信や、契約時のサンクスレター郵送、ヘルプサイトの構築などですね。また、既存ユーザー向けには「kintone MAGAZINE」という紙媒体を郵送し、イベント告知や旬な情報、活用に役立つ情報などもお届けしています。

小父内:
なるほど。「kintone MAGAZINE」は既存ユーザー向けですか?

大脇:
はい、既存ユーザー向け媒体です。

上記施策はプロモーションチームが担当してくれているので、CS部とプロモーションチームでも定期的に打ち合わせをし、「どんな内容を送ったらより活用促進に繋がりそうか」「マス向けと個別対応ではそれぞれどこに目標をおくべきか」等々を話し合っています。

参加者:
契約締結時のサンクスレターの内容はどういった内容でしょうか?

大脇:
サンクスレターは、その名の通り「ご契約ありがとうございます」という社長のメッセージ付きのお手紙を導入いただいたユーザーの皆さまへ送付している施策になります。

また、「迷った時にどこをみればいいのか」が分かるよう、カスタマーサポートのロードマップのようなものも一緒にお送りしています。

そこでは、サポートセンターへの問い合わせだけでなく、ヘルプやコミュニティ、イベント、セミナーのように様々なチャネルへの誘導を行っています。

小父内:
全員へ送っているのは凄いですね。

CSって「部門がやるモノじゃなくて会社がやるモノ」と僕は考えていて、全員がCSメンバーという気持ちで取り組んで良いのではと思っているんですよ。

テックタッチとしてプロモーションやダイレクトマーケティングのチームがあるわけですよね。そしてチームのハブとして、本当に CS部門が活躍しているんだなと思いながら聞いていました。

会社全体でCSに取り組まれているので、本当に凄いなと思います。

大脇:
ありがとうございます。「kintone MAGAZINE」については、MAGAZINEというだけあって雑誌のような内容になっていて、見せてもらったときに「すごく面白いな!」と感じました。

一般的なメールでの連絡とはまた一味違った、ポップな見栄えや楽しいコンテンツが好きなユーザーも多いと思うので、そうした工夫がされて、kintoneの面白さが伝わるものになっていると思います。

(大脇氏作成スライド資料より)

大脇:
最後4つ目の施策はコミュニティやユーザーイベントの実施です。スライド掲載の4つについて、それぞれご説明します。

上段左「kintone hive/kintone AWARD」は、kintoneユーザーの方々に「kintoneを使って、こんな風に業務改善をして成功しました」という自社の活用事例を発表していただいています。地区大会からスタートし、各地区を勝ち抜いた方の中から本戦を行い、全国チャンピオンを決める大会になっています。

下段左の「kintone Evangelist」は、サイボウズが一定の基準を満たす”kintone愛溢れる”方々をエバンジェリストとして公式に認定させていただき、その方々に、kintoneの可能性をオープンな場で、公開・発信し続けていただくと共に、その支援をサイボウズとしてさせていただいております。

上段右「kintone Cafe」は、ユーザー主導で動いていただいている勉強会です。

札幌のユーザーの方が、地元のkintoneユーザーを集めて勉強会をしようとなり、それに共感した方がどんどん増えて、今では全国各地で自発的に勉強会を開催していただいています。

下段右下「キンスキ.com」は kintone を好き過ぎる社員が「キンスキ」というキャラクターで活動をしており、

ブログやYouTube、リアルイベントを通じて、ユーザーやパートナーの紹介や、インタビュー等を行っています。

また、現在ユーザー向けのオンラインコミュニティも絶賛準備中です。

(大脇氏作成スライド資料より)

大脇:
これら各施策の元となるヘルススコアの設計は、絶賛作成中なので確定ではないのですが、大きく「活用度」「行動力」「浸透度」という3つの軸を置いてみたいなと思っています。

「活用度」は、kintone から取得するアクセスログで、ログインの頻度や、アプリをどれだけ作っているのか等を測ります。

「行動力」は、セミナーに何回参加してくださっているのか、サイボウズからのメールをどれだけクリックしてくださっているか、サポートへ問い合わせをしてくださっているか等、ユーザーの自発的な動きを測っていきたいと考えています。

最後は「浸透度」なのですが、実際にライセンスが付与されている登録ユーザー数に対し、何割の人が実際にログインし、活用してくださっているかを測っていく予定です。

このユーザーのヘルススコアが総合的に良くなってくると、おそらく中長期的には解約率やNRRといった指標も上向いてくると思うので、このスコアを早いサイクルでしっかり作っていきたいと思っています。

また、他にも今感じている課題が3つあります。1つ目は「社内浸透」です。解約理由として大きな割合を占めている一方、まだアプローチできていない部分なので、ここの支援を深めるべく、7月から新たな企画を進めています。

2つ目は、先ほど触れたヘルススコアの作成や見直しを行い、施策の効果検証やKPIの設定に繋げていきたいと思っています。

3つ目は、人員体制の拡大についてです。まだまだ人が足りず、支援できていないユーザーや、カバーできてない施策があるので、ここを埋めていきたいと思っています。

小父内:
ちなみに今は、CS体制は何名でやられてるんですか?

大脇:
コールセンターの方を除くと10〜15名ぐらいですが、まだ足りない印象ですね。

現在1人何件という案件管理はしていないですが、全体の対応件数は管理しており、毎月、倍々というようにCSの対応件数は増えていっています。

今後カスタマーサクセスが目指す姿

大脇:
kintone は、導入後ユーザーがサクセスするまでに、様々なコストがメリットを大きく上回ってしまい、負担が掛かるフェーズがあると考えています。

kintone は自分で考えてアプリケーションを作っていくツールなので、最初は学習コスト・ライセンスコスト・アプリ構築コストなど、どうしても導入直後のコストが大きくなってしまいます。

ただ、この最初のフェーズを抜けると、アプリを作れば作るほどメリットが大きくなっていくフェーズに入ります。CSとしてはいかに最初の辛い時期を短くできるよう支援するか、Time to first valueを追求していきたいなと思っています。

SIパートナーに有償で開発を依頼するという方法もありますので、CSの支援としてはこのマイナスの期間を”ユーザー自身の力で”乗り越えてもらえるようサポートし、ユーザー自身の自走力を上げてもらうことを大事にしています。

そのため、現在この4つ(スライド参照)のフェーズへの施策を手厚くしている状況です。

(大脇氏作成スライド資料より)

サイボウズのCSを大解剖

小父内:
今日聞いていてテックタッチの部分が秀逸で良いなと思いました。

「サンクスレターは何で導入したのですか?顧客インサイトがあって始められたのですか?」という質問があったんですが、始めた経緯はご存知ですか?

大脇:
もともとは「ファンづくり」の施策として、カスタマーの心理ロイヤルティというか、エンゲージメントを高めたいという目的があって、これを送るとユーザーの皆さまに喜んでもらえるんじゃないか?という想いから始まりました。勿論、裏には戦略もあったかもしれないですが、担当者としては想いの方が大きかったんじゃないかな・・・と思います。

これはCSを考える上で個人的に大事だなと思ってるんですが、CSではユーザーに「喜んでもらう」「成功してもらう」ことを第一に置かないといけないと感じます。

自社の利益に繋がるのはあくまで副次的な効果として捉えていて、あまり過度に戦略や打算を持って顧客に向かうとCSの本質から外れてしまうのではと思っています。

CSに関わる以上は、会社の利益よりも顧客の利益を第一に考えるぐらいでも良いんじゃないかな、と最近は考えることがありますね。

小父内:
そうですよね。トータルのブランディングもそうですけど、サイボウズさんは特に「お客さんを大事にする」空気が強いと思います。ただ、セールスの方は当然KPI・KGIあるので、当然売りたくなると思いますが、その部分でCSとぶつかることはないのでしょうか?

大脇:
衝突はしていないですね。CS部が立ち上がった当初は「何してる部署なの?」という状態だったかもしれないですが、定期的にコミュニケーションをしているので、ちゃんと理解・共感をしてもらえていると思います。

小父内:
参加者の方から「連携が凄く密ですね」というコメントがありましたが、確かにそこを丁寧にすることで、各部門がそれぞれCSをしてるというイメージを改めて感じました。

参加者:
オンボーディングでフォローするか否かは、具体的にどのように判断をされているのですか?

大脇:
今後、ヘルススコアをしっかり作り込んでからは、より定量的に判断していきたいなと思っています。

ただ、今はユーザーと同じ方向を向けるかどうかが大事だなと思っています。こちらがフォローしたくてもお客さんはフォローを必要としていない場合など、活用に前向きじゃない方は支援をするにもコストがかかってしまいます。

なので、今は「うまく使いたいけど使えていない」というユーザーを定性的に判断し、この人は支援が必要そうだな、と判断していますね。

小父内:
そこでもちゃんと「想い」があるんですね。

ちなみに、ヘルススコアはどのぐらいの期間で完成させようとかはありますか?

大脇:
今はまだゴールを置けていないのですが、8月・9月ぐらいには第一段階を終わらせたいですね。

小父内:
スピード感をもってPDCAをまわしていくしかないので、仮決めであてていくのは良いと僕も思います。ただ、変数が凄く多い部分だと困りますよね。

大脇:
そうですね。定量的に測りにくいところはあります。例えば、アプリを沢山作っているからサクセスしてるかというと、実はテンプレートを沢山落としていただけだったということもあるので、判断が難しく、凄く悩ましいですね。

小父内:
NPSはどれくらいの頻度でとられていますか?とられている場合、ヘルススコアへの組み込みはしているのでしょうか?

大脇:
NPSの頻度は、年1、2回アンケートをとっています。

ただ、今のところヘルススコアには入れてはいないですね。

今のヘルススコアは契約直後にフォーカスしていますが、NPS調査は契約してから1年以上使ってくれている方がメインターゲットなので、ここの組み込みは今後やっていきたいと思います。

※1
2018年ニック・メータ (著), ダン・スタインマン (著), リンカーン・マーフィー (著), バーチャレクス・コンサルティング (翻訳)出版『カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則』

Shinya Kojiuchi

株式会社Asobica CCO
2010年、名刺管理システムのSansan株式会社に入社。データ化部門責任者を経て、名刺アプリEightのコミュニティマネージャーへ。現在は、株式会社AsobicaにCCOとして参画中。

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