2024/10/09

多様化するくらしのニーズを理解するためには、生活者とつながり続けるコミュニティが鍵となる!「My Kao メンバーサロン」

多様化するくらしのニーズを理解するためには、生活者とつながり続けるコミュニティが鍵となる!「My Kao メンバーサロン」
花王株式会社

DX戦略部門 インタラクティブプラットフォーム統括センター ダイレクトコミュニケーション部

岡田響様 / 的野愛様

運用のポイント
  • 多様化するくらしのニーズを理解するために、コミュニティで生活者・ファンと共創し、インサイトの解像度を向上

  • いち早くファーストパーティデータの重要性を理解し、コミュニティ活用により定量・定性の両データを蓄積

  • 「よきモノづくり」というぶれない信念により、生活者・ファンからの信頼を獲得

課題
  • 生活者の価値観やライフスタイルが多様化してきていることから、従来よりもインサイトが把握しにくくなってきている

期待する
効果
  • 全社員が生活者と直接つながるのが当たり前という状態を実現

  • 生活者との双方向コミュニケーションや共創を推進

ご自宅のあちらこちらに花王株式会社の商品があるのではないでしょうか。私たち生活者の身近なところで長年ブランドを築き上げてきた花王。その中でコミュニティの導入を推進していらっしゃるDX戦略部門インタラクティブプラットフォーム統括センターダイレクトコミュニケーション部の岡田響様、的野愛様にお話を伺っていきたいと思います。

生活者とつながり、対話によって、インサイトを掴む

ーーまずは、花王全体のマーケティング戦略を教えてください。
岡田様:弊社では、数年前からLIfe Value Solution Marketing(ライフバリュー・ソリューション・マーケティング、以下LVSM)という言葉を掲げています。弊社は様々な商品やブランドを展開していますが、機能的な使いやすさだけでなく、ライフバリュー(生活価値)を提供し、その結果として人々の心豊かな生活の実現を目指しています。生活価値という言葉には気持ちや感情的な価値のほかに、社会にとってどうあるべきかという社会的価値といったものも含まれています。

ーー御社らしさが詰まった言葉ですね。LVSMという考え方は社内に浸透しているのでしょうか?
岡田様:花王は、創業当初から生活者の課題解決に取り組んできた歴史があります。商品開発フローの中でも、その商品の生活価値が何なのかという部分を意識してコミュニケーションをとっています。LVSMの考え方は社内の共通認識になっていますね。生活価値を把握するには、生活者を深く理解している必要があります。だからこそ、生活者と直接つながり、対話をしながらインサイトをつかむことが大切だと感じています。

コミュニティによって、定量・定性の両面から生活者を深く知ることができる

ーー企業と生活者や顧客の関係は、つながり続けることが非常に重要ですよね。まさにコミュニティは打ってつけの選択肢です。コミュニティ開設前に抱えていた課題について、教えてください。

岡田様:生活者の価値観やライフスタイルがますます多様化してきていることから、従来よりもインサイトが把握しにくくなってきているという課題があり、より深いデータが求められるようになりました。そこで、さまざまなデータとの紐付けができる自社で入手した生活者や顧客のデータ、いわゆるファーストパーティデータの重要性が増してきていたのではないかと感じています。

ーーこれからの時代は、「深さ」がひとつのキーワードになりそうですよね。その中で、やはりコミュニティだと、生活者との関係性が深くなりやすいというイメージがありますか?
岡田様:すごくありますね。弊社では2013年から会員制コミュニティサイトを運営し、生活者や花王ファンとの共創に取り組んできました。生活者と直接つながることで、定量・定性の両面から生活者を深く知ることができ、想定外の価値発掘や仮説創出が得られると実感しています。

ーー約10年前からコミュニティを運営しているというのは先進的ですね。その当時抱えていた課題は今と同じだったのでしょうか?

岡田様:今と同じでしたね。当時すでにインターネットやSNSが浸透し、生活者の価値観・購買行動のパターンが多様化・複雑化してきていたので、生活者・ファンと直接つながれるコミュニティを活用し、生活者理解や共創に取り組んできました。

ーー今のようにツールも整っていない当時、コミュニティを始めるのは大変だったと思います。やはり双方向のコミュニケーションということが重要ですよね。
岡田様:弊社は「花王ウェイ」という企業理念を掲げており、その中のビジョンに「人をよく理解し期待の先いく企業に」という言葉があります。生活者とのつながりを持ち続けることで、その人の生活を全体から捉え、その人となりや価値観をしっかりと理解した上で商品・サービスを開発することが重要と考えています。

その実現のために、新たに「My Kao」という双方向デジタルプラットフォームを2022年12月に立ち上げました。「My Kao」では、生活者により深く商品やブランドを理解していただいたり、信頼できる情報をオウンドメディアとして発信していく企業責任があるとの考えから、毎日くらしに役立つ情報を発信しています。そして、双方向コミュニケーションを実現する機能のひとつとして、「My Kao メンバーサロン」という会員様と直接対話ができるコミュニティを2023年9月にプレオープンしました。

一人ひとりのKirei-Lifeを共創する双方向デジタルプラットフォーム
「My Kao」(2022年12月オープン)

 

「My Kao」の主要機能のひとつである会員制コミュニティ
「My Kao メンバーサロン」(2023年9月プレオープン)

コミュニティを通じて、生活者理解と共創価値を最大化

ーー新たに開設した「My Kao メンバーサロン」誕生の経緯、狙いについて教えてください。
岡田様:従来のコミュニティで培った共創ノウハウがあったので、さらにスケールアップさせることが必要だと考えました。従来は我々のような推進部門が事務局となって事業担当者と会員様の間をつないでいましたが、「My Kao メンバーサロン」では新たに「ROOMオーナー制」を導入しました。事業担当者自らがROOM(個々のコミュニティ)のオーナーとなって会員様とリアルタイムに対話をすることで、スピーディな生活者理解と共創価値の最大化が期待できると考えました。

個々のROOMの共創目的や世界観も、事業担当者が自由に設定できるようにしました。コミュニティをゼロから立ち上げるとコストも労力もかかるので、我々DX戦略部門が社内プラットフォーマーとなり、生活者とつながれる場の環境整備と運営体制づくりを推進しています。自社内の複数のコミュニティをひとつのプラットフォームで運用している点で、新しいコミュニティの形だと思いますね。

ーーたしかに、ひとつのプラットフォームで複数のコミュニティを運営しているのは珍しいかもしれません。それも、多くのブランドを有する花王全体ならでは、と言えそうです。
岡田様:「花王ウェイ」の中にもあるのですが、花王は創業以来ずっと「よきモノづくり」を掲げており、モノをつくることに対しての想いがとても強い会社です。今後は「My Kao」を通じて、”モノをつくる”にとどまらず、新たなサービスや体験価値を生活者やファンと一緒に共創していきたいと考えています。

ーー「よきモノづくり」という考え、信念があるからこそ、花王さんの商品は、多くの方に愛され続けているのでしょうね。
岡田様:実は、花王の歴史は石鹸から始まっています。創業者の長瀬富郎は、石鹸といえば高価な舶来品か安価でも質の良くない国産品しかなかった時代に、良質の国産石鹸をつくるとの思いから、「花王石鹸」をつくりました。それが花王の「よきモノづくり」の原点であり、今もその想いを受け継いでいます。

ファン待望の「共創コミュニティ」

ーー既存のコミュニティをスケールアップされるにあたり、弊社のコミュニティプラットフォーム「coorum」を導入いただいた理由についても、お聞かせいただけますか?

岡田様:「My Kao」におけるコミュニティのプラットフォーム開発の検討が始まり、最初は自社によるスクラッチ開発も視野に入れていたのですが、コスト面やスピード面を考慮し、外部サービスを探しました。いくつか検討させていただいたなかで、コミュニケーション機能が充実しており、運用者側のUIの使い勝手も良かったことから「coorum」の導入を決めました。また、機能をカスタマイズできる点も魅力でしたね。

ーーありがとうございます。コミュニティでは、どのような施策を展開されているのでしょうか?
的野様:先ほど岡田からお話があったとおり、「My Kao メンバーサロン」は2023年9月にプレオープンしたばかりなのですが、現在(2023年12月)2つのROOMが立ち上がっています。1つ目はスキンケアブランドのROOMです。スキンケアブランドのファンコミュニティになっており、ブランド担当者とブランドファンの会員様が直接コミュニケーションをとっています。2つ目は「みんなの準備室」です。従来のコミュニティを楽しんでくださっていた会員様を中心にご参加いただき、新しいコミュニティを共創するという目的で運営を行っています。

ーー実際に運営をスタートしてみて、会員様の反応はいかがでしたか?
的野様:従来のコミュニティにご参加いただいていた会員様は、花王が好きな方が多いので、熱量が非常に高かったです。「My Kao メンバーサロン」への移行を進めていく上で、会員様の中には「My Kao」のことも知らない方もおり、まずは「My Kao」を知ってもらうことが重要でした。「My Kaoで興味のあるコンテンツを教えてください」という投票企画を実施したところ、200近くの投票と、150件近くのコメントをいただきました。とても励みになるコメントが多かったので、社内のコンテンツ担当者にフィードバックし、担当者からの返事を掲載したところ、会員様から「花王らしさを感じる」との感想をいただき、共創コミュニティはファンのみなさまも待ち望んでくれていたのだと感じています。

ーーまさに待望の瞬間だったのですね。ちなみに、社内のメンバーからはどのような反応がありましたか?
的野様:スキンケアブランドのROOMの担当者からは、ブランドファンの会員様の生の声やリクエストが聞けて、直接会員様とつながる醍醐味を感じることができたと聞いています。また、今後はブランドファンの会員様との対話を重ねて、さまざまな共創プロジェクトに挑戦したい、との声もありました。

ーーコミュニティに参加されている会員様には、どのような方がいらっしゃるのでしょうか?
的野様:弊社の現役社員が知らないような昔の商品について話してくださる会員様がいました。昔から花王が会員様に愛されていたのだなと感じることができました。結局、先輩社員もOB・OGも、その商品について知っている者がおらず、とても驚いたことを覚えています。

ーー今の商品に関することではなくて、現役社員も知らない、そんな昔の商品についてお話ししてくれるファンがいるというのも、歴史ある御社ならではのエピソードですね。
的野様:そういう情報を募集しているわけでもないのに、自発的に教えてくださる方がいるということに驚きましたね。花王が愛され続けているのを強く感じましたし、今後も引き継いでいきたいと思えた出来事でした。

コミュニティの定性的な情報を定量的なデータと掛け合わせて、生活者理解、ファン拡大につなげる

ーー「生活者・ファンと共創」を掲げられている花王さんですが、これまでのコミュニティを見てきたなかで印象的だったエピソードがあれば教えてください。
的野様:コミュニティ内で花王商品とのエピソードを募集したところ、多くの会員様から素敵なエピソードをいただくことができました。投稿されたエピソードには感動的なものも、クスリと笑えるようなものもあり、その中でも印象的だったエピソードをピックアップして漫画を制作しました。まさに会員様とコンテンツを共創するというチャレンジができたと思っています。

ーー漫画ですか!企業サイドがそこまでしてくれるとは、エピソードを投稿した会員様も非常に喜ばれたと思います。コミュニティ内では、多様なデータが取得できますが、どのような分析を行っているか教えてください。
的野様:「My Kao」はマーケティングを支える基盤としての役割も担っているため、サイト訪問者や会員様の「My Kao」上での閲覧・購買行動を分析し、会員様一人ひとりの理解を深める活動を実施しています。また、コミュニティでは定性的な情報を得ることもできるので、定量的なデータとうまく組み合わせて生活者への理解を深めるとともに、花王ファンの拡大にも貢献できたらと思っています。

ーーSNSでも定性的な情報は得られますが、コミュニティとの違いはどのような部分だと思いますか?
岡田様:コミュニティの中では普段は人に見せないようなリアルな投稿を見ることができます。弊社では洗濯や掃除に使う商品なども幅広く展開しているので、そこからインサイトが見つかるケースがあります。コミュニティを通じて生活者・ファンの声を集めるというのはそういった点でも重要なことだと思っています。

ーーコミュニティメンバーの声は、ファンの声ですから、濃度が違いますね。
岡田様:また、従来のコミュニティの話ですが、弊社では複数の日焼け止めシリーズを展開しており、特に、レジャーやスポーツシーンなどでお勧めしていた日焼け止めを会員様に使用体験していただいたところ、ある地域の祭りに踊り手として参加する女性からの支持が高いとの結果が出ました。そこから屋外イベント時のメイク崩れ対策ニーズがあるとわかり、祭りやダンスイベントに協賛してサンプリングする話が出るなど、まさに多様な生活者に寄り添った提案につなげることができました。そのようなことが起きるのも、コミュニティの大きな魅力ですね。

ーーまさに生活者・ファンの声をヒントに新たな動きへつながりが生まれているのですね。数珠にコミュニティを活用されている御社ですが、運営面では、どのようなKPIを設定されているのでしょうか。
的野様:KPIとしては、量を追い求めるというよりは質をしっかりと上げていきたいと考えています。具体的にはROOMごとの質を上げたいと考えており、アクション率やアクティブ率を上げていきたいです。また、社内でどれだけコミュニティを活用してもらうのかということも重要なポイントになってきます。事業担当者と会員様が共創して新たな価値を生み出すという流れができていくことを期待してます。

コミュニティによって、「いっしょにつくる、うれしいくらし」を実現したい

ーー「My Kao メンバーサロン」の今後の展望についてお聞かせください。
岡田様:「My Kao メンバーサロン」は2024年に本オープンを予定しているので、どんどんROOMを増やしていきたいですね。社内でのコミュニティ活用が普及し、全社員が生活者と直接つながるのが当たり前という状態を実現したいと考えています。ROOMごとにさまざまな共創の形があると思いますので、成功事例を横展開しながら進めていきたいですね。生活者と花王が「いっしょにつくる、うれしいくらし」という「My Kao」のコンセプトを「My Kao メンバーサロン」を通じて実現していきたいです。

ーー「いっしょにつくる、うれしいくらし」は素敵なコンセプトですし、御社ならきっと実現されるのではないでしょうか。そこには、生活者・顧客想いの花王さんらしさが溢れていますね。弊社も「顧客中心の経営」を掲げており、通じるものがあるように思いました。
岡田様:先ほども「花王ウェイ」の話をさせてもらいましたが、弊社は100年以上にわたって「よきモノづくり」を続けており、すべての仕事の起点が生活者になっています。そのため、まさに顧客中心の経営をしていると考えています。生活者との双方向コミュニケーションや共創を推進することで、その考えをさらに加速させていきたいと思います。

的野様:コミュニティでは生活者と直接つながれますし、会員様から教えていただくことも多くあります。コミュニティの立ち上げを検討する際、ネガティブなコメントがたくさん来るのではないかという不安を感じる方も多いかと思いますが、実際にはそのようなことはほとんどなく、想像以上に温かいコメントばかりでした。コミュニティを継続的に運営する覚悟さえあれば、まずは始めてみるのがいいのではないかと思います。一歩踏み出してみると大きな学びがあるので、ぜひチャレンジしてみてください。

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小父内 信也 CCO
2010年、名刺管理システムのSansan株式会社に入社。データ化部門責任者を経て、名刺アプリEightのコミュニティマネージャーへ。 2019年に株式会社Asobicaに取締役CCOとして参画。
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金光 佑樹 カスタマーサクセスグループマネージャー
医療業界特化の人材紹介会社にて営業責任者・人事責任者を歴任後、ITベンチャー企業にてフィールドセールスに従事。 2022年に株式会社Asobicaに入社。 現在はCSMとしエンタープライズ企業を中心にコミュニティの立ち上げ支援を行う。
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上原 明子 カスタマーサクセスグループマネージャー
札幌のコワーキング・ゲストハウス・シェアハウスを運営するコミュニティ系不動産に新卒で入社。東南アジアを中心にバックパッカーをしながら、海外営業/新規店舗の立ち上げを経験。 その後ライブ配信プラットフォームにてCX関連の部署に所属し、オンラインイベントの企画/実施や新機能設計、効果分析などを担当した経歴を持つ。
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平川 貴詞 カスタマーサクセスグループマネージャー
早稲田大学人間科学部卒業。新卒で株式会社リクルートスタッフィングに入社し、大手通信企業向けのセールスを担当。 その後人材系ベンチャー企業に所属し、主にセールスとして中途・新卒採用の採用支援を経験した後、学生向け記事メディアの編集・マーケティングを担当。現在はCSMとして外食・メーカー企業を中心に幅広いお客様を支援。

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