ファンが集い語らう街「ヱビスビアタウン」で本音が聞ける理由と運用のポイント
ヱビスファンが集い自由に語り合える街「ヱビスビアタウン」を運営するサッポロビール株式会社。オープンから半年ほどで会員数7万人と多数のファンが集うオンラインコミュニティへと成長しています。その立ち上げ経緯や運営のポイントを、サッポロビール株式会社の福吉様と、コミュニティ運営に携わっている株式会社電通デジタルの高木様に伺いました。モデレータは、株式会社Asobica取締役CCOの小父内信也です。
INDEX
担当者紹介
福吉敬様
サッポロビール株式会社 ビール&RTD事業部 ヱビスブランドグループ シニア メディア プランニング マネージャー
1972年北九州市生まれ。多摩美術大学卒。国内酒類メーカーから外資メーカーを経て、2014年サッポロビール株式会社に入社。 2015年9月より、宣伝室のデジタル担当に着任。2021年4月より、ヱビスブランドにジョインし、ヱビスのコミュニケーションプランニングを担う立場となる。デジタルメディアを主要フィールドとし、複層的メディアプランニングから分析設計、イベントPRまで多岐にわたる業務を担当。直近は、コンテンツコミュニケーション、ファンコミュニケーションに力点を置いたプランを展開中。
2021年秋より、DAS株式会社にてクライアントサイドのプランナー視点からの海外新規プロダクトの日本市場定着のためのアドバイザーとしても活動。
高木惠様
株式会社電通デジタル クリエイティブ領域 オウンドメディアエクスペリエンス部門 プランナー
1994年生まれ。コンテンツプロダクション、出版社を経て、電通デジタルに入社。編集者経験を経て、現在はプロジェクトマネージャー兼プランナーとしてオウンドメディアにおけるコミュニケーションを支援。課題発見からコミュニケーションの戦略設計、制作、実行、運用までを一気通貫して行い、さまざまなソリューションを実行している。
小父内信也
株式会社Asobica 取締役CCO
ファンマーケティング/コミュニティのスペシャリスト。2005年、大手電子機器メーカーへ入社。その後、中小企業診断士を取得。2010年、創業初期の名刺管理システムを提供するSansan株式会社に入社。全社MVPの受賞、最年少での幹部への昇格を経験。約7年のデータ化部門責任者を経て、名刺アプリEightのコミュニティマネージャーへ。2019年に株式会社Asobicaに取締役CCOとして参画。これまで約100社のファンコミュニティの立ち上げ、および支援に携わる。
共通言語を持つ仲間だからこそ、会話が弾む
小父内:今回はお時間をいただきありがとうございます。まずはブランドにおける福吉さんの役割をお聞かせください。
福吉様:元々の役割でいうとメディアプランニングマネージャーといって、ヱビスビールのメディアプランを立てることが私の業務になります。実際はそこにとどまらず、ソーシャルリスニングや分析、文章を書いたり、サイトのラフ案を書いたり、更にはディレクションをしたりとデジタルメディアに関わる業務に幅広く携わっています。
会社から与えられた役割を果たしていれば既定課題はクリアできるかもしれませんが、その一歩前に出ることはなかなかできません。代理店の方に丸投げするというのはよくある話ですが、それだとやっぱりいいものはできませんよね。
自分がハブにもなって、一緒に考えて、共同体に入って仕事をするってことをやっているので、ほとんどが社外の人と顔を合わせて仕事をしている状態です。たまにどこの社員ですか?と聞かれることもあるくらいです。(笑)
小父内:ヱビスビアタウンとはどのようなサービスですか?
福吉様:一言でいうならコミュニティですね。会話する場所であり、発話が生まれる場所だと思っています。純広告であれば商品自体の告知をして、認知、理解してもらうところを一方通行で行うものだと思いますし、SNS公式アカウントからの発信も、コメントに対してリアクションをするという行為は発生しているものの、コミュニケーションまではたどり着けない印象があるんです。
そんななかでヱビスビアタウンはユーザーともっと近くなって、直接声を伺いたいし、同じ目線で伝えたいと思っています。もちろんブランドを一番伝えたいのですが、生活の中にあるものなので、ビールを飲んでいない瞬間も含めて気軽に投稿して会話ができる。そこにいる人はみんなヱビスビールが好きという共通のベースがあって安心してコミュニケーションを取れる街(タウン)という言い方をしています。
2022年9月に本格始動。この街からコミュニティエリア他、さまざまな情報にアクセスすることができる。
小父内:SNSではなくコミュニティだとコミュニケーションがより生まれるのはどうしてなのでしょうか?
福吉様:ヱビスビアタウンでなぜ普通に会話が発生するかというと、自分たちが仲間だという意識があるからだと思うんですね。共通言語を持つ仲間だから会話が弾むんです。もともとSNSもヱビスビアタウンのようなことを目指してやっていました。例えば初期の頃のFacebookは、招待制でクローズドなコミュニティだったので限られた人しかおらず、特定の会話しか生まれない環境でした。沢山の人が入ってくるようになるとオープンな場なので、様々な情報が行き交うようになり、関係値が希薄になってしまいました。ヱビスが好きという人が集まることに意味があり、そんな仲間が集まるようなコミュニティを作る仕組みが良かったなと思っています。
自由な場づくりをし、ファンの本当の姿を知る
小父内:ヱビスビアタウン設立の背景を教えていただけますか?
福吉様:以前からSNSは運用していたんですが、一方通行感は否めないと感じていました。とはいえ、一からコミュニティを立ち上げるのには体力も必要。そもそもユーザーから本当に求められているのか? という疑問もあったんです。そこでメルマガで尋ねてみたんですね。すると、「みんなが知っているおすすめのお店情報が知りたい」「他の人が自宅でどんな料理とヱビスを合わせているのか知りたい」と、ファンやブランドと繋がりたいというお声をたくさんいただきました。
ということで、「SNSと比較して飛躍的に濃度の高い新しいコミュニケーションの場を立ち上げよう」と設立が決まりました。そしてパートナー候補としてcoorumさんにお声がけをしました。
僕は注文が多いところがあるので、既存のシステムをそのまま使うというメリットがあるのは理解しつつも、一緒に歩んで一緒に進化してくれる方たちとやったほうがいいだろうなと思ったんです。そこで正式にcoorumさんとビアタウンを立ち上げることになりました。
小父内:コミュニティ運営にあたって、どんなことを意識されていますか?
福吉様:お客様に本気で向き合いたいという気持ちがあるので、いいことも悪いこともご意見をお伺いしたいなと思っています。「あの商品、また販売してもらえませんか」と言っていただくのもうれしいし、「味が変わってすごく不満だ」という声もやっぱり伺いたい。僕はいいねやコメントをせずに投稿を見に行くことがよくあります。お客様がどんな思いで我々のブランドと向き合っているのか、どんな生活をしているのか、どんなシーンで飲んでくれているのかとかいろんなことをつぶさに観察して理解できて、それに応えていくのが使命だと思っているからです。
実は、僕はヱビスビアタウンでビールに関することやブランドについての投稿をほとんどしないんです。それは、こちらから枠を作ってしまって、投稿や発話に制限がかかってしまうのを避けたいからです。ヱビスビール以外のことも自由に投稿できる場にすることで、住民の皆さんにも新しい発見があると考えています。
また、「ヱビスブランドの担当者が何を考えているか知りたい」というファンの方の声にも応えています。
例えば前回行った「ヱビスビアカレッジ」というオンラインイベントでは、ドイツに出張している購買部の社員に「ヱビスのホップをどのように選定するか」などについて仕事現場から話してもらう海外中継を実施しました。
こういったイベントの前例はなかったのですが、購買部の部長に交渉をしたところ「出演者が不安にならないようにリハーサルをちゃんとやってくれるならいいよ」と応援してくれて、結果とても良い機会にできたと思っています。
ファンのみなさんが見たいブランドのコンテンツを用意しつつ、コミュニティは自由な空間にする、これによって良いバランスが保てていると思っています。
会員数は半年で7万人以上に。ファンとブランドが直につながる場として成長
小父内:お二人にとって、ヱビスビアタウンはどんな場所になっていますか?
福吉様:マーケティングをやっていると、調査やデータを見る機会は多くありますが、そこから“本当の声”を聞くことはできないんです。アンケートや分析ツールで見るデータにももちろん良さがありますが、やはりそれだけでは限界がある。
ヱビスビアタウンは“本当の声”が聞ける場所として、とても上手く機能していると思います。
高木様:2022年の9月16日にオープンしてからジェットコースターのようにいろいろな施策に取り組み、ヱビスビアタウンの会員は7万人まで成長しました。会員数を伸ばせた要因は、福吉さんがおっしゃった通り、構想時から自由な場を目指してきたからだと考えています。ヱビスビールの話しかできない環境であれば、ここまで会員数は伸びなかったでしょうし、投稿数も右肩下がりになりかねなかったと感じています。
先日、地震があった際に、直後に「地震ですね。大丈夫ですか?」という投稿をしてくださった方がいて、そういったシチュエーションで一番に投稿しに来る場所がここなんだと驚きました。もちろん今日あった良かったことやふと写真に撮った風景など、暮らしにまつわることも日々投稿されています。ヱビスを好きな人が、自らの人柄を伝えあいながら、心地よく繋がることができる空間になっている。これは、今後の大きな成果にも繋がると感じています。
福吉様:さらに、僕たちのリアルな声を伝えることもできる場になっています。会社から公式に見解を出すと重くて硬くなってしまうような事柄も、僕がどう考えているかを僕の文章で書いて出せば、温度感をもって伝えられるんです。そういう仕組みを提供してもらえているのは本当にありがたいことだと思っています。
高木様:ビアタウンには、「ヱビス担当者」として、ブランドマネージャーや商品企画、研究・開発、飲食店のオーナーなど、さまざまな立場の方が参加しています。「お客様の声を聞きたい」と思った時に気軽に活用することができるこの場はかけがえない環境だと思っています。
1ヶ月で1.8万人以上の会員登録や、4800件以上の投票を集める記録的施策も
小父内:印象に残っている施策はありますか?
高木様:23年1月に「新春くじ」というキャンペーンを行い、約18,000人の会員登録数を残せたことが印象に残っています。
会員制のサイトでは、商品が当たるキャンペーンを実施し、登録を促進することが多いと思いますが、キャンペーン目的で集まったユーザーはその後定着しないことが多い。このキャンペーンでは、登録だけでなく終了後の定着も目指して、とにかく期間中に濃いコミュニケーションをすることを意識して設計しました。それが、「毎日引くと楽しいくじ」という仕組みです。
基本はインスタントウィン式のくじですが、鳥獣戯画テイストの親しみやすいうさぎのイラストを沢山用意し、くじの結果画面で毎日違うイラストが出るようにしました。くじが外れても、毎日違うイラストをシェアできる仕組みを持たせたのです。これにより、多くの方に楽しんでいただくことができました。
福吉様:毎日参加できるようにしたところがうまくいったポイントになりましたね。くじを引くのが目的で来るんだけど、せっかく来たんだからと別の投稿なんかを見て面白いなと思ってもらえる。また次の日は別のところを見てと繰り返しているうちに楽しくなってヱビスビアタウンに来るのが習慣になった人もいたのかなと思っています。
小父内:ファンの方との共同開発施策として行われている「ヱビスものづくりプロジェクト」も人気だと伺っています。
福吉様:最終的にはビールを一緒に作りたいと思っているんですが、その前段階として一緒につくる企画をやりたいなということで協議した結果、東京の工芸品工房と取り組めるように交渉して頂いたんです。
ヱビスものづくりプロジェクト/ヱビスと東京の工芸品のコラボレーション施策。人気投票では、4,809件の投票が集まった
ヱビスビール記念館に携わっていたときに、なんとなく良いものではだめで、しっかりとした由来があるグッズが売れる傾向にあったんです。そんな経験があったので、東京生まれのビールだからこそ、東京と歴史を持っている人と一緒にコラボできないかなと考えました。
特注の工芸品になるので1つあたり1万円を超えるような商品になってしまって、反響がなかったらどうしようと思っていたのですが、いざ始めてみたら4,800人もの方から投票があって、うれしい悲鳴を上げているところです。ECの準備や決済会社との契約などを必死に進めています。
ファンの要望をコミュニケーションに落とし込んでいく
小父内:今後の展望についてお聞かせください。
高木様:次なるチャレンジは、飲食店との繋がりを強めることだと思っています。飲食店でどの銘柄のビールが飲めるかというのは、ちゃんと調べないと分からなかったりしますが、ヱビスビアタウンに集うファンのみなさんは、きっととっておきのヱビスなお店情報をお持ちのはず。これはまさに信頼できる口コミ情報です。そんな情報を蓄積することで、お店探しができたり、飲食店側の方が活用できたりするようになったらいいなと思っています。
福吉:お客様の声を反映していくということをやりたいので、ヱビスビアタウンの中で上がってきた要望や求められていることをコミュニケーションに落とし込んでいきたいですね。
あとは、ファンの方とリアルで会って乾杯したいですね! ファンの方から求められていることでもありますし、僕としてもやりたいことです。オンラインで繋いでいくことの間にリアルがあると思っているので、ぜひお会いして絆を深めたいと思っています。