企業が利益を追求する方法はさまざまですが、最近では「顧客体験設計(UXD)」が注目されています。未導入の企業は、消費者ニーズが多様化する現代の消費行動に対応しきれないかもしれません。本記事では、顧客体験設計の基本から、具体的な取り組みまで解説します。
顧客体験(CX)とは
顧客体験設計の前に、まずは「顧客体験」の理解を深めるところからスタートしましょう。
顧客体験(CX)とは「顧客が製品やサービスを購入する前」、「購入するとき」、「利用しているとき」、「利用した後」に経験する一連の体験のことを指した言葉です。
サービスを利用したときの体験と勘違いされることが多いですが、購入前や購入時などサービスに関わる一連の流れ全てが顧客体験と呼ばれます。
顧客体験設計(ユーザーエクスペリエンスデザイン)とは
「顧客体験設計」とは、顧客が製品・サービスに関わることで得られる全ての体験(行動・思考・感情)を、その製品・サービスを提供する側(企業)がデザインすることです。ユーザーが「この製品(サービス)で何をしよう?」と想像するのではなく、あくまでも提供する側である企業が、顧客の体験をあらかじめ設計したうえで製品・サービスを提供することをいいます。
顧客体験設計が目指すもの
顧客体験設計では、顧客を徹底的に観察することで「顧客が何を欲しているのか」を知り、期待以上の体験を提供することを目標とします。顧客のニーズを把握して、製品・サービスに触れる前の段階からのすべての顧客体験において、満足度を生み出すための顧客の期待値を上回るためにさまざまな施策を実施します。
なぜ顧客体験が注目されるのか
冒頭でも少し触れていますが、顧客体験を設計することは企業が売上を伸ばすために重要な事柄です。その理由を、以下で解説します。
モノから体験への価値の変化
消費者の行動は「モノ」から「体験」へと、その価値を変化させています。
何かを利用したいと思うとき、以前であれば該当する製品を購入し、利用することが求められました。しかし、現在ではモノを所有することよりも「いかに優れた体験ができるか?」ということが重要視されています。従来の「モノを所有することで得られた価値」では感じられない体験自体が価値を見出す対象になったのです。
「所有から利用」を目的としたビジネスモデルの増加
消費行動の傾向が「所有⇒利用」へと変化したことも顧客体験が注目された大きな理由です。
以前であれば「高品質な製品・サービスを利用する」ことが一種のステータスとして重視されており、高級車などはその代表格でした。しかし、現在では「所有すること」よりも「利用すること」のほうに主眼が置かれています。
そのような消費者心理をもとに「サブスクリプション型サービス」が登場しました。月や年単位でサービスを利用する権利を購入するビジネスモデルです。さまざまな業種で同ビジネスモデルの製品・サービスが登場しています。
サブスクリプション型のように、継続的に料金が発生するビジネスモデルの場合「どれだけ長くサービスを使い続けてもらえるか」によって、LTV(顧客生涯価値)が大きく変動します。顧客を満足させ、いかに継続率を高めるかが企業の売上を伸ばすために重要となったことで、顧客体験という新しい概念が注目されるようになったのです。
利用者の意見の重要性が高まった
企業と顧客の接点が増加したことも無視できない要因の1つとなっています。
スマホなどの情報端末が普及し、一昔前と比較してインターネットがより身近になった現代、消費者は検索ボックスにキーワードを打ち込むことで膨大な情報を検索できるようになりました。興味がある製品・サービスがあれば、検索ボックスに打ち込んで情報検索することで、関連するさまざまな製品・サービスを含んだ数多くの情報を得られるようになったのです。
特に「SNS」を通じた情報流通は、企業活動においても無視できない巨大マーケットへと成長しました。SNSでは数多くの情報が発信され、それが拡散されることでより多くのユーザーの目に情報が留まるようになりました。
「検索した情報から得られる体験」をもとにサービスの購入が検討されるようになり、多少無理やりにでも売ってしまえばいいという考えは通用しなくなっているため、顧客の成功体験を入念に設計した質の高いサービスを提供することが求められています。
顧客満足との違い
顧客体験は、言葉の響きから「顧客満足」と似ているように感じらますが、両者は違う概念であることをしっかりと理解しておく必要があります。
対象となる時間軸の違い
顧客体験と顧客満足は、その評価の対象となる「時間軸」に大きな違いがあります。
顧客満足は、製品やサービスを「手に入れてから」が対象となります。つまり、顧客満足は製品やサービスについて情報を得た段階や、選定の段階では評価の対象にならないのです。
一方で顧客体験は、製品やサービスに「興味を持ってから利用し続けるまで」が対象となります。つまり、顧客満足が製品・サービスを手に入れないと対象にならないところが、顧客体験の対象は「興味を持った段階からスタートする」という点において大きな違いがあるのです。
ミッションの違い
顧客体験と顧客満足は、達成すべき「ミッション(目的)」にも大きな違いがあります。
顧客満足のミッションは「顧客の不満を取り除く」ことです。顧客が製品・サービスに対して感じている不満を取り除くことで満足度を高めます。しかしながら、不満を解決するだけでは、企業の利益に大きく直結しません。
一方、顧客体験のミッションは「顧客が期待する以上の体験を提供する」ことです。顧客の感動は購買行動や宣伝行為へと結びつくため、企業の利益に大きく直結するでしょう。
顧客体験設計の3ステップ
企業が顧客体験設計を行う意味について把握したところで、具体的に顧客体験設計のために何をするべきなのかを3つのステップに分けて解説します。
1.現状の顧客体験を整理する
まずは、現状の顧客体験を把握し、どのような顧客接点があるのかを時系列で整理するところからスタートします。顧客体験は、大きく分けると以下の3つのフェイズに分類できます。
- 情報収集(購入前の情報収集)
- 購入(来店~会計・決済まで)
- 利用(商品の利用~次回の利用についての案内まで)
これを時系列順に並べることで、どの段階でどのような顧客体験が実現されているかを把握することができるのです。
2.課題を洗い出す
次に、明確にしたそれぞれの顧客との接点において考えうる課題を明確にします。
現状で発生している顧客の不満を解消するだけでは、上手に顧客体験を設計できているとは言えません。顧客の真のニーズは何か、企業にできることは何か、現状の問題は何かと、より具体的に掘り下げた思考をして、課題を設定する必要があります。
また、この段階では「解約・キャンセルしたユーザー」の意見も参考になります。なぜ解約やキャンセルをしたのか、その理由を明らかにすることでより高い水準での顧客体験の設計ができるでしょう。
3.KPIを設定する
課題が明確になったら、設計するべき顧客体験に必要な項目を数値化して具体的な目標を設定します。数値化には「NPS」や「購入金額」、「サービス利用期間(離脱率)」などが利用できるでしょう。
数値化することで具体的な目標を明確にでき、全社で課題や認識を共有化しやすくなりますし、PDCAサイクルを回しやすくなることで施策の精度が高まります。さらに、顧客体験に関わるさまざまなフェイズに関連する従業員ごとに目標を設定してあげれば、「全従業員で取り組む」という姿勢作れるでしょう。
顧客体験を設計するにあたっての注意点
最後に、顧客体験設計を実施するにあたって注意するべき2つのポイントについて解説します。
組織全体で取り組むこと
顧客体験設計など顧客体験に関わる施策は「組織全体で取り組む」ことが重要です。
顧客体験の向上活動は、一部の部署で行っても効果が上がりにくいのです。例えば「販売時のサービスは良かったが、ユーザーサポートの対応は最悪だった」とユーザーが感じたのであれば、販売時のスタッフの努力は水の泡になるでしょう。
顧客体験設計は、組織全体で認識を共有化し、全体で一丸となって取り組む環境を作る必要があるのです。すべての従業員が同じ目標を掲げて一貫性のある行動を心がけましょう。
顧客の心理を見極める
顧客体験を設計するにあたって「顧客の心理を見極める」ことは欠かせません。
「良い体験設計」とは、単なる快適・簡単・便利を提供することではありません。顧客の表に出ない「本音・無意識の欲求」にまで踏み込んでこそ、顧客体験を設計する意味があるのです。逆に言えば、顧客が求めていないニーズを満たしたところで、良い体験設計になることはありません。
顧客の心理を見極めるためには、従業員の徹底した教育することやサービスをニーズに合わせて改良することが必要不可欠です。