より効率よく売り上げを伸ばすには、新規顧客の獲得よりもずっとコストが低いとされる既存顧客へのアプローチが重要です。
なかでも自社の製品やサービスの熱狂的なユーザーは「ファン」と呼ばれ、売り上げを支える基盤となっています。
人口減少の進む日本において、既存顧客の“ファン化”を目指すファンマーケティングは、今や多くの企業が手がける売り上げ拡大の手法の1つです。
この記事では、企業においてファンを増やすことの重要性やマーケティング手法、達成するためのポイントなどを解説します。
ファンを増やす「ファンマーケティング」とは
「ファン」とは、特定の製品やサービスを熱狂的に支持してくれる顧客の総称です。企業にとってファンが増えるほど、売り上げは安定しやすくなります。ファンマーケティングとは、このようなファンを中長期的に増やし、顧客層を拡大する手法です。
たとえば、スマートフォン市場においてAppleは、iPhoneを通じて「アップル信者」と呼ばれる多くの熱狂的なファンに支えられています。
さらに低価格の新製品が、次々と登場するスマートフォン市場においてアップル信者=Appleファンは、他の製品に目移りすることはありません。
ファンマーケティングによって自社の製品・サービスのファンを増やすことができれば、高い売上単価や利益率の確保もできます。より安定した売り上げのため、多くの企業が注目しているマーケティング手法の1つなのです。
ファンを増やす重要性とは
ファンマーケティングが重要視されている理由は、大きく分けると2つあります。
1つは、そもそも売り上げの多くをファンが占めているという現実です。ビジネスの現場でよく聞く「パレートの法則(80:20の法則)」によると、「売り上げの8割は2割の既存顧客によってもたらされている」といわれます。
売り上げを伸ばすには、コストのかかる新規顧客獲得より、すでにいる2割の既存顧客をしっかり育てる方がより確実かつ効果的です。
もう1つは、ファンは自社の製品やサービスの情報を自ら率先して発信し、さらに他の消費者に信頼されやすいことです。企業が発信する情報より、消費者がSNSなどを使って発信した情報を参考にする消費者が増えています。
企業に比べ、消費者が製品・サービスの売り上げ拡大による恩恵を受けないと考えられるための「信頼度の高さ」が理由です。
これらは、ファンが増えることで売り上げの基盤を拡大できる、製品・サービスのポジティブな評価の発信者が増えるというメリットにつながることを示しています。
ファンを増やすマーケティング手法5つ
ファンを増やすためのマーケティング手法はいくつかありますが、どれでも取りかかれば同じ効果が得られるわけではありません。大切なのは、自社の製品・サービスや顧客の特徴や傾向、規模に合わせた手法を選ぶことです。
ここでは、ファンを増やすための代表的なマーケティング手法を5つ紹介します。今採用するに相応しいマーケティング手法はどれか、より具体的に検討してみましょう。
ファンミーティングの実施
ファンミーティングとは、製品やサービスを提供する企業が直接顧客と交流するための場所を提供する手法です。
「ファン」ミーティングの名前どおり、参加できるのは顧客の中でもとくに熱狂的に支持しているファンであり、招待されている顧客のみに限っている場合もあります。
企業にとってファンミーティングは、日頃顔の見えない顧客の評価を直接得られる得難い機会です。一方、顧客にとっては企業に直接評価や感謝の意を伝える場であるとともに、招待制であれば参加する=招待されたことそのものに対してプレミアム感が得られます。
ファンコミュニティの構築
ファンコミュニティは、ファンミーティングとは違い、基本的に提供する企業が介在しない、ファン同士の交流の場です。交流する中でファンは、製品・サービスに対するポジティブな意見や情報をやり取りする傾向があります。
ファンコミュニティは、参加する顧客が他の顧客の声を聞くことによって、さらに製品やサービス、提供する企業への帰属意識を高めていく場です。企業が介在しないからこそ、より純粋に、顧客の評価に価値がある場ともいえるでしょう。
SNSでユーザーと交流
SNSを使ったユーザーとの交流には、オンラインではあるもののファンミーティングとファンコミュニティの両方の特徴を備えています。
いわゆる「中の人」として企業が参加できる一方、投稿のシェアやDMによるやり取りはファン同士の交流です。スマートフォンを使った手軽なコミュニケーションとして、より頻繁な交流が期待できます。
またSNSは期待できる効果の割に、運用にあたってあまり大きなコストがかからないこともメリットです。適切に運用し続けることでフォロワーが増えれば、強力な広告媒体にもなるため、手間暇をかけて育てる価値のある手法といえます。
会員制サービスの構築
会員制サービスは、会員顧客だけが利用できる限定セールや限定商品の提供といった特別なサービスを提供する手法です。
顧客にとって、会員であることのメリットやプレミアム感が得られるとともに、いよいよ製品・サービスや企業、ブランドへの愛着をより深めてもらえる方法でもあります。
さまざまなサービスでみられるようになったサブスクリプション型サービスも、会員制サービスの一種です。利用を始めることで他社への乗り換えを防げる上、売り上げも確保できるため、継続的な提供が可能なサービスに適した、優れた会員サービスといえます。
サンプリングによる商品・サービスの体験
サンプリングとは、顧客へ製品のサンプルを送り実際に使ってもらう手法です。SNSやモニターサイトなどを通じて応募を募るため、体験者を製品に興味がある顧客に絞れるというメリットがあります。
製品やサービスを実際に利用すれば理解を深めてもられるとともに、その体験はSNSなどを使って拡散してもらうことも可能です。
サンプリングは、製品・サービスの認知度を上げたいときによく用いられます。既存顧客の認知度を上げられる一方、ポジティブな口コミの拡散によって新規顧客の獲得も期待できる手法です。
ファンマーケティングを行うメリット
ファンを増やすためのファンマーケティングには、より安定的な売り上げが期待できる、広告にかかる費用を抑えられるといったこと以外にもさまざまなメリットがあります。実際にファンマーケティングを行うなら、メリットについてしっかり把握することが大切です。
ここでは、ファンマーケティングによって得られるメリットを4つ、紹介します。
顧客満足度の向上につなげられる
ファンマーケティングのさまざまな手法によって得られる情報は、製品・サービスに愛着を持つ熱烈な支持者によってもたらされます。情報は、ポジティブなものだけではありません。それほどの支持者でさえ感じる、不満といったネガティブなものも含まれます。
ポジティブな情報は自社の強みとして引き続き堅持しますが、ネガティブなものは調査・分析による改善が必要です。とはいえ、顧客満足度の維持または向上につなげられます。顧客満足度が上がれば、さらなるファンの拡大も可能です。
口コミやSNSで良い評価を拡散してもらえる
製品・サービスの熱烈な支持者は、そのポジティブな評価をさまざまな場面で拡散してくれる貴重な存在です。実際の生活圏内はもちろん、ブログやSNSを通じて発信すればその評価は、インターネット全体に拡散されます。
しかも、拡散されるのはただの「よい」「悪い」という評価だけでなく、実際に利用したからこそわかるような具体的な情報です。
別ルートでフォローしていたユーザーがたまたま目にして興味を持ち、新規顧客となる可能性も十分にあります。しかもこの過程でかかった費用はSNSの活用、運用にかかったものだけです。費用対効果の面でも、メリットは大いに期待できます。
質の高いフィードバックをもらえる
熱狂的なファンは、製品やサービスを頻繁に、さまざまな場面で利用しているため、企業側が想定していなかった利点や改善点に気づいていることがあります。
これらの利点や改善点は、今後さらによい製品を開発するにあたり大いに活用できる情報です。ファンマーケティングは、このような質の高いフィードバックがもらえるチャンスを作れます。
こうしてよりよい製品を開発し、ファンマーケティングによって情報を拡散できれば、新規顧客の獲得も可能です。
アップセル・クロスセルにつながる
ファンマーケティングは、さらなる売り上げが期待できるアップセルやクロスセルにつなげやすいというメリットもあります。
アップセルとは、顧客の売り上げ単価をアップさせるための営業手法です。10万円のパソコンユーザーに、より幅広い機能を持つ15万円の上位機種に買い替えてもらう、サブスクリプションサービスを無料のプランから、機能が追加される有料プランに変更してもらうといったことが、アップセルにあたります。
クロスセルは、ある製品・サービスの購入にあたり、別の製品・サービスをセットまたは別途単体で購入してもらう手法です。スマートフォンを買うと同時に買う充電器や、画面保護フィルムなどはクロスセルのよい例といえます。
アップセルやクロスセルのベースとなっているのは、もともとの製品・サービスに対する信頼です。ファンマーケティングによる、信頼があるからこそのメリットといえるでしょう。
ファンマーケティングを行うデメリット
さまざまなメリットのあるファンマーケティングですが、なかにはデメリットとなるような注意すべき点もあります。ファンマーケティングでは、顧客の「愛着」という感情に関わる手法であるため、その影響に対しては十分な配慮が必要です。
ここでは、ファンマーケティングを行う上でのデメリットを解説します。
ファンを増やすためには時間がかかる
ファンマーケティングは、さまざまな手法があるものの、どれも即効性が期待できないことはデメリットといえます。無理に急いでも余計なコストがかかったり、顧客の愛着が十分に育っていなかったりすれば、思うような効果が得られないでしょう。
製品やサービスのファンとなるには、特定の製品・サービスをさまざまな場面で使う時間、考え感じる時間が必要です。一刻も早くファンを増やしたい気持ちはわかりますが、効果が現れるまでには時間がかかるものだと認識しておく必要があります。
マーケティングを行う上で炎上する可能性もある
ファンマーケティングは、他のマーケティング手法に比べ顧客との距離が近いという特徴があります。顧客も同様に感じていることが多く、だからこそ愛着が湧きやすい、自発的に情報発信してもらいやすいともいえるでしょう。
だからといって、顧客は親しい友達でも親戚でもありません。企業と顧客という関係に配慮を欠いてしまうと、発言者の考えや思想が意図せず強く出てしまい、一部の顧客から反感を買う、つまり炎上してしまう可能性があります。
しかし、一方で顧客は、顧客対企業といった堅い関係ではなく、一歩踏み込んだ少し身近な関係を求めがちです。ファンマーケティングの運用には堅すぎず、かといってなれなれしくない絶妙なバランスが求められます。発言や態度に、繊細な気配りが必要です。
ファンの中にヒエラルキーを発生させる可能性がある
特定の製品やサービスのファンが集まるコミュニティは、閉鎖的になりがちです。そのため企業が意図しない独自のルールや文化が形成され、独特の社会を形作ってしまう可能性があります。
たとえば、新規加入のファンに対して、すでにいるファンが偏見を持って接するようなことです。あまりに独特で閉鎖的な場合、新規顧客が心理的になじめず、離脱してしまう可能性があります。
これは、ファンマーケティングが意図しない影響です。ファンの中にヒエラルキーが発生する事態は、なんとかして避けなくてはなりません。
企業側はホストとして架空のキャラクターを参加させたり、交流スペースを複数設けたりなど適切に対策しておく必要があります。
ファンを増やすために重要な3つのポイント
今の既存顧客からファンを育て、トータルでファンを増やしていくには、ファンにはどうあって欲しいかというイメージを、常に明確にしておくことが大切です。ファンがもともと、どのような存在なのかと考えると見えてくるでしょう。
ここではファンを増やすために、企業側が常に明確にしておきたい重要ポイントを3つ、解説します。
共感してもらう
1つめは、自社の製品やサービスのよさや独特の価値を明確に示し、顧客に「共感」してもらうことです。この価値に共感するからこそ、製品・サービスを利用するのであり、ファンであり続けられます。
ファンは企業側に立っていない、顧客側の存在です。そのようなファンのコメントは企業のコマーシャルより信頼性が高く、社会にある自社の製品・サービスに対する不安の払拭にも役立ちます。
新規顧客を獲得し、共感の輪が広がれば自社はさらに成長できるでしょう。
愛着を持ってもらう
2つめは、独特の価値を持つ自社の製品やサービスに、心から「愛着」を持ってもらうことです。愛着を持ってもらうには、その製品・サービスの開発されてきた背景や思い、泥臭い試行錯誤といったストーリーを伝えます。
これらのストーリーは、ファンが自発的に発信する情報に含めると、まだ知らない人々が製品・サービスに注目するきっかけにもなり得るテーマです。
また製品・サービスを知らない人々に対して、じかに触れる、体験する機会を提供することも、愛着を持つきっかけになります。製品・サービスそのもののよさだけに頼るのではなく、よい製品・サービスだからこそ人々のタッチポイントを増やすことが大切です。
信頼を得る
3つめは、独特の価値を作り出す企業として、社会の一員として広く「信頼」を得ることです。
そのためには製品・サービスの品質や量に対してはもちろん、その製造や制作の過程におけるごく細やかな部分までの情報を、広く人々に見てもらえる状況を整える必要があります。
信頼は、目先の利益を優先してしまうなど、顧客全体に対して不誠実になるとあっという間に失われるデリケートなものです。トラブルなどが発生した場合、信頼を回復するために、徹底した誠実な対応が求められます。
ファンを増やして事業を成功に導こう
ファンとは、自社にとって売り上げの基礎をなす、企業活動にとってなくてはならない存在です。ファンは多いほど安定した売り上げが期待できるだけでなく、質の高いフィードバックが得られるため、将来に向けた安定した商品戦略にも役立ちます。
ただファンは、黙っていて生まれるものではありません。ファンミーティングやファンコミュニティ、会員サービスの構築など、企業のやるべきことも多くあります。
自社の製品・サービスに対する共感や愛着、信頼を得てファンの増加を狙い、企業としてより成長していきたいものです。