CES(カスタマーエフォートスコア)とは?測定方法と改善方法

2024-01-11 2024-01-11 コラム

とくに競争の激しい業界では、顧客の抱える課題もよりスムーズな解決が求められます。
ただ解決には企業だけでなく、顧客もある程度の労力を費やさなくてはなりません。
この「顧客が課題を解決するために要する労力」の程度を表すのが、CES(Customer Effort Score:カスタマーエフォートスコア)です。
この記事ではCESの概要だけでなく、測定する方法や改善するためのポイントなどを、実際の現場への活用を踏まえて解説します。

カスタマーエフォートスコア(CES)と

CESを日本語に直訳すれば、「顧客の努力指標」といえるでしょう。CESは顧客が、顧客自身の持つ課題を、商品・サービスの購入または利用によって解決するまでに費やした、労力の程度を表す指標です。

たとえば、商品のユーザー登録ができないという課題を解決するため、次のような手順がかかった場合を考えてみましょう。

①ユーザー登録の手順を商品に同梱されている書類で確認する
②手順書に掲載されている写真と実際が違うため、問い合わせ先を探す
③問い合わせて事情を説明し、回答を得る
④回答の手順を試してみたがうまくいかず、再度問い合わせる
⑤回答の手順でうまくいかないことを説明し、別の回答を得る
⑥別の回答でユーザー登録が完了できた

通常、顧客はできるだけかかる労力をかけたくないと考えます。上記の手順で②の写真が適切であれば問い合わせ自体、する必要がありません。また③で得た回答が正しいものであれば、④以降の労力はかからなかった可能性があります。

上記において顧客がかけた労力は、②や③の手順の手直しによって、減らせるまたはなくせるかもしれません。うまく減らせたとき、これを「CESを下げた」または「改善した」と表現します。

CESとは、企業が提供する体験にかかる手間を、できるだけ減らすために把握する指標といえるでしょう。

CESとCSATの違い

CESと似たイメージを持つ可能性があるCSATは、顧客満足度(Customer Satisfaction)を意味しています。CSATが表すのは、商品やサービスの購入または利用、カスタマーサポートへの問い合わせに対する、その時点での満足度です。CESとは違い、かかった労力の程度ではありません。

別の見方をすれば、CSATが顧客の満足というポジティブさを測ることに対して、CESはどちらかといえば顧客の望まない「労力がかかる」というネガティブさを測る違いがあるといえるでしょう。

CESとNPSとの違い

もう1つ似たイメージを持ちやすい用語に、NPS(Net Promoter Score:ネットプロモータースコア)があります。NPSは企業やブランドに対する信頼や愛着、ロイヤリティの程度を表す指標です。

NPSを使いこなして業務改善!基礎知識から実践までを徹底解説

これらの要素は、企業の持続的な成長や成功には欠かせません。企業活動を評価する上で重要な指標といえますが、CESとは性質がまったく異なります。

CESは企業の商品・サービスの利用に対するストレスや不満を明確にするための指標です。CSATと同様NPSは、商品やサービスをCESとは異なる視点で示すものだといえるでしょう。

CESが重要である理由

CESは商品・サービスに対して抱く顧客のストレスや不満を明確にします。一見するとネガティブな要素だけに注目しているように思えますが、CESは企業活動にとってCSATやNPSなどと同様重要な指標です。

ただCESの表す指標が改善できれば、商品・サービスのメリットが増えるのは間違いありません。ここではCESが重要である理由を、3つの視点からみていきましょう。

顧客ロイヤリティの向上につながる

CESによって判明する顧客の不満やストレスは、改善すれば顧客はより利用しやすくなるため、顧客ロイヤリティの向上につながります。もともと利用している商品・サービスが、より利用しやすく、課題がより解決しやすくなるものです。むしろ、利用しなくなる理由が少ないといえるでしょう。

顧客ロイヤリティを向上させるには、新しいサービスや機能を提供するのも有効です。しかし、この方法ではコストがかかる上、思うような効果を得られない可能性があります。

CESが示すのは、今の商品・サービスの快適な利用を妨げる要素です。これらの要素を把握し改善することで、顧客の商品・サービス体験をより高品質にさせることもできます。

顧客ロイヤリティを測る指標や、向上させるためのポイントなどより詳しく知りたいときは、以下の記事を参照してください。

顧客ロイヤリティとは?ロイヤルティを向上させるポイントや事例を紹介

リテンション率の向上につながる

リテンション率とは、商品やサービスの利用における顧客の定着率や継続率をいいます。CESとリテンション率には相関関係があり、たとえばCESが上がる(労力が増す)とそれを嫌う顧客が離脱するため、リテンション率は下がります。

リテンション率は、より継続的な企業活動に大きく影響する重要な指標です。商品・サービスの利用そのものの価値と同様、維持・向上が求められます。

高品質な顧客体験の提供につながる

低いCESの状態を維持できれば、それは顧客が「より品質の高い体験をしている」ことを意味します。高品質な顧客体験とは、満足度が高く不満やストレスが低い、顧客が求めている、より理想に近い体験です。

より高品質な顧客体験は、CESによって明確になる顧客の不満やストレスに直接アプローチするからこそ実現できます。商品・サービスが優れているだけでは、難しいかもしれません。CESは、商品・サービスの価値を間接的に向上させるための指標といえます。

CESを測定する方法

CESは一般に、アンケートなどを使って顧客に直接答えてもらうことで測定します。ただより正確に答えてもらうには「よかった」「悪かった」のような二択ではなく、その間にある微妙なレベルをできるだけ細かく答えられるアンケートが必要です。

そのためCESの測定には、リッカート尺度など複数の程度を表す選択肢から選ぶアンケートを用います。よく用いられるのは、回答の選択肢が7段階設けられているアンケートです。労力がかかったかどうかを尋ねる場合、たとえば次のように選択肢を設けます。

①とても労力がかかった
②労力がかかった
③少し労力がかかった
④普通だった
⑤あまり労力はかからなかった
⑥労力はかからなかった
⑦まったく労力がかからなかった

選択肢ごとの割合がわかったら、①、②、③の「労力がかかった」側の合計数値を、⑤、⑥、⑦の「労力がかからなかった」側の合計数値から差し引きます。そうして得られたプラス100からマイナス100の間の数字がCESです。プラス100に近いほど顧客満足度が高く、マイナス100に近いほど満足度は低いことを表しています。

CESが高くなる原因

CESをみれば、今の商品・サービスに対する顧客の満足度がわかります。もしCESが高ければ、顧客はなんらかの不満やストレスを抱えており、改善すれば顧客体験の質を上げ、業績も向上させることも可能です。

ただCESの値だけでは、どのような問題があるのかわかりにくいこともあります。そこでここでは、CESが高くなってしまう原因を5つに分けて、詳しくみていきましょう。

そもそも使い方がわからない・わかりにくい

アンケートに回答していることは、すでに該当する商品・サービスを利用していることです。そのためには得られた情報によって興味を持ち、しかるべき手続きを経て対価を払うという手間をかけた上、さらに使い方がわからない、またはわかりにくいという面倒があると考えれば、それは大きなストレス・不満となっても不思議ではありません。

この問題には、適切なマニュアルを用意するという方法が有効です。しかし、マニュアルの内容が適切でなかったりわかりにくかったりすると、電話やメール、インターネット検索など余計な手間がかかり、さらに大きなストレスとなる可能性があります。

問い合わせ方法が少ない・わかりにくい

すでに使い方がわからない、またはわかりにくいという問題があるのに、問題を解決するための方法がわかりにくい、電話番号などの問い合わせ先がわかりづらいと、顧客のストレスはさらに増してしまいます。

また問い合わせても返答が的を射ていない、専門用語ばかりでわかりづらいといった対応の問題も同様です。商品が使えないことより、問い合わせられないことに対するクレームになってしまう可能性さえあります。

顧客側の必要な操作や手順が多い

そもそも該当の商品またはサービスを利用するために必要な、顧客側の操作や手順があまりに多いと、CESは上がる傾向があります。

顧客が想定している以上に手順が多いと、マニュアルを参照しなければならなかったり、問い合わせなくてはならなかったりといった手間がかかるだけでなく、これらの手順がうまく機能しないストレスにもなりかねません。

対応が遅い・時間がかかっている

商品・サービスの使い方がよくわからず、やっとの思いで探し出した問い合わせ先に連絡したのに、電話での長時間保留やメールやチャットでは返信が遅い、または時間がかかる、別の連絡先へ連絡しなくてはならなくなるといった手間がかかれば、CESが高くなっても仕方ないかもしれません。

このような問題は、単に対応するオペレーターの数が不足している以外にも、社内の連携がうまく取れていないことでも発生します。より専門的な対応を担当する部署との情報共有や引き継ぎの迅速さが十分でない場合、CESは高くなってしまうでしょう。

問い合わせ対応時間が短い

電話などによる問い合わせでは、対応するオペレーターによる不適切な応対もストレスや不満になりやすい要素です。たとえば、じっくり考えて尋ねたいのに「他にお尋ねはありませんか」と急がせたり、安易に他部署に回され結果としてたらい回しにされたりすれば、CESは高くなってしまうでしょう。

単にオペレーターが「すごい早口」で応対するのも、問題になる可能性があります。問い合わせの数は多く、限られたオペレーターの数で応対するには仕方がないかもしれませんが、顧客はその他大勢ではなく、たった一人の大切なユーザーです。適切な時間はかかるものと考え、その範囲で丁寧に、効率よく回答することが求められます。

CESを改善する・下げるためのポイント

CESを高くしてしまう原因が把握できたら、次はそれを改善する、CESを下げるために対処する段階です。CESを改善する施策は商品・サービスの性質や顧客層によってさまざまですが、共通して取り入れられる考え方やポイントがあります。

ここではCESを下げる、改善するために押さえておきたい5つのポイントをみてみましょう。

オンボーディングなどで使い方をわかりやすく伝える

商品やサービスが社会においてあまり一般的ではないもの、または革新的なものであるほど、顧客はその使い方や得られるメリットがわかりにくいものです。CESを下げるため、まずはオンボーディングなどによって使い方をわかりやすく伝える必要があります。

オンボーディングとは、商品やサービスを使い始めた顧客に対して、少しでも早く使い方や機能を把握し、メリットを感じてもらえるようサポートすることです。適切な使い方がわからなければ、顧客は大きなストレスを感じますが、適切にサポートすれば顧客も迷うことなく、スムーズに利用し続けることもできるでしょう。

メリットが理解できないことによる利用中止や解約を防ぐだけでなく、顧客に対して商品やサービスの魅力をより適切に伝える意味でも、非常に重要なステップだといえます。

オンボーディングについては、下記記事に詳しい内容が記載されているため、より深く知りたい場合は参照してみてください。

カスタマーサクセスでのオンボーディングとは?進める上でのポイントを解説

問い合わせ方法を充実させる

商品・サービスの性質によっては、顧客が問い合わせるであろうさまざまな場面、状況に見合った問い合わせ方法を充実させる必要があります。

たとえば、電車はバスなどによる通勤・通学の途中で、または職場や病院といった声を出せない環境での問い合わせは、電話では難しいでしょう。チャットやメールといったテキスト形式での問い合わせ方法が必要です。テキスト形式の問い合わせは他にも、公式LINEアカウントやWebサイトの問い合わせフォームなどがあります。

問い合わせ方法は、ただ「設けてあればいい」というわけではありません。問い合わせ可能な時間帯が平日昼間だけであれば、仕事の関係上問い合わせが不可能という場合もあるでしょう。CESを改善する場合は、顧客の都合や状況にも十分配慮する必要があるのです。

顧客で必要な操作を減らすなど顧客の負担を減らす

もしCESで「顧客が負担と感じている操作が多い」ことがわかったら、今の手順をすべて洗い出し、必要とされている操作を減らせないか検討することから始めてみましょう。必要な操作が多いと、それを負担ととらえる顧客も増えていく可能性があります。

たとえば、顧客がWebサイトで商品を探し始めてから支払いを完了するまで、操作する手数が多ければ多いほど「面倒だ」と感じるでしょう。それは商品の選択や届け先情報、決済情報など、必須とされている情報の入力でさえ例外ではありません。

操作を減らすには、CESの結果からどの操作を負担と感じているかを明確にする必要があります。たとえば入力する情報の代わりに、顧客がすでに持っているGoogleアカウントや、電子決済サービスと連携させられれば、負担は大きく軽減できるでしょう。

自力で問題解決できるようにFA&Qなどを充実させる

商品・サービスの使い方がわからないとき、参照できる情報が多く的確なほど、自力で問題解決しやすくなります。ただ冊子のマニュアルだとページ数が増えて探しづらくなる上、保管場所も取るため顧客にはあまり歓迎されないかもしれません。また、問題が起こるたびに問い合わせて、回答が来るまで待つのも顧客には大きな負担です。

ぜひ活用したいのが、「よくある質問(FAQ)」の充実です。サポートセンターに寄せられた問い合わせを統計的に分析し、文字どおり「よくある質問」をピックアップし、疑問にしっかり答えるような返答を掲載して、顧客が自由に閲覧できる環境を整えます。

ただFAQは一度作って掲載を続けるのではなく、定期的に見直すことが大切です。より正確に、少しでも幅広い顧客に理解してもらえるよう、常に改善が求められます。

24時間問い合わせに対応できる仕組みを作る

顧客によっては、さまざまな事情から日中の問い合わせができない場合もあるでしょう。このとき顧客は、「受付時間まで待たないといけない」「受付時間が終わるため明日にしか回答してもらえない」といったストレスにさらされます。

このような負担を避けるには、問い合わせ対応できる時間を「24時間」とすることが必要です。その前に「よくある質問」を充実させておけば、顧客が自身で解決しやすくなるため、問い合わせ流という負荷そのものを減らせます。

また問い合わせでのやりとりが電話である必要はなく、情報だけが得られればよいようなら、24時間受付可能なチャットを導入するのも有効です。チャットは電話に比べ多少のラグは許容される傾向があります。一方で、顧客にとってチャットは「リアルタイムの応対」に近いため、どちらかというとストレスと感じにくい方法です。

「24時間受付サポート」は使うことがなかったとしても、顧客は商品・サービスを利用する上での安心できる要素にもなり得ます。総合的に顧客の満足度を上げるためにも、有効な方法といえるでしょう。

CESを意識して顧客満足度を高めよう

顧客満足度を表すSATや、ロイヤルティの程度を測るNPSとは違い、CESは商品・サービスを利用する際にかかった労力を数値で表します。

そのためCESは、よりよい商品・サービスを目指すための指針というより、現状の商品・サービスにある不満を改めることで、より使いやすくするためのヒントとなる数値といえるでしょう。

CESは高い数値であるほどかかる労力が多い、つまり顧客の不満となりやすいことを表します。そのためCESが上がるときは、使い方のわかりにくさや、わからないときの問い合わせのしにくさ、対応にかかる時間が長いことなどが原因です。

ただCESで判明したポイントに1つずつ対処すれば、最終的に顧客の満足度を上げられます。CESとはみて一喜一憂するものではなく、より顧客に満足してもらうためのヒントです。しっかりと受け止めて分析し、改善には大いに役立てましょう。

cxin

株式会社Asobica cxin編集部。
コミュニティやファンマーケティングに関するノウハウから、コミュニティの第一人者へのインタビュー記事などを発信。

関連記事

おすすめ記事

顧客起点マーケティングを実施するなら

ロイヤル顧客プラットフォームcoorum

ユーザーコミュニティ施策に関するお問い合わせやご検討中の方はお気軽に資料請求下さい。