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ROIは利益額と投資額に着目し、企業が取り組む施策の費用対効果を示す指標です。広告に関する費用対効果を表すROASと異なり、ROIはさまざまな事業や施策の分析に活用できます。
この記事では、ROIの定義や計算式、類似の指標との違い、ROIの改善・向上のポイントを解説します。
ROIとは
ROIは「Return On Investment」の略称で、費用に対する利益の割合を表す指標です。投資資本利益率や投資利益率と、呼ばれる場合もあります。ROIの数値が高いほど、対象となるプロジェクトやプロダクトの投資対効果が良いと判断できます。
ROIの数値が良い状況を把握することで、自社が注力すべき領域を見定めることが可能です。また、効果が低い事業やサービスに資源を配分するなどの経営の無駄を抑えられます。
ROIを正しく把握・管理することで、ビジネス上の戦略やプロジェクトの成功に役立つ効果的な意思決定ができます。
ROIが重要な理由
ROIは企業の健全かつ安定な経営の実現に向けて、不可欠な指標です。インターネットが高度に発展した現在、デジタルマーケティングに用いるチャネルは以前より複雑・多様化しています。
マーケティングの手法にも複数の選択肢があるなか、最も費用対効果が優れる方法を明らかにするにはデータの可視化が不可欠です。施策や広告にROIをはじめとしたさまざまな指標を比較して事実に基づく意思決定が必要です。
インターネット広告は、従来のマス広告よりも数値データの収集・分析がしやすい特徴があります。
データ管理に使えるBI(ビジネス・インテリジェンスツール)の発展や普及も相まって、先進的な技術力を有する企業のみならず、多くの会社が容易にデータを観測できる環境が整いました。
数値に基づく経営判断は、経営陣やベテラン社員の経験に基づく主観的な判断を排除して、全員が納得できる方向性や戦略の決定に役立ちます。
デジタルマーケティングの手法が多様化して数値の解析が容易になった現在、ROIの算定・分析は企業にとって不可欠な活動の一つです。
ROIの計算方法
ROIの計算方法は次のとおりです。
- ROI(%) = 利益 ÷ 投資額 × 100
たとえば、300万円を投資して1,500万円の利益が出たケースの場合、計算結果は次のとおりです。
- 1,500万円 ÷ 300万円 × 100 = 500%
また、100万円を投資して1,000万円の利益が出た場合は以下ように計算できます。
- 1,000万円 ÷ 100 万円 × 100 = 1000 %。
1つ目の例と2つ目の例を比較検討すると、利益額は1つ目のケースの方が大きいものの、費用対効果が良いのは投資額に対して利益が多い、2つ目のケースです。
なお、ROIの算出における利益とは、売上から売上原価や投資額を差し引いた後の金額です。
たとえば、売上2,000万円、売上原価500万円、販売管理費100万円、投資額500万円のケースにおける利益額は以下のとおりです。
- 2000万円-500万円-100万円-500万円=900万円
利益と投資額に含める範囲によっては、計算結果が変わることに注意が必要です。
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ROIのメリット
ROIが優れているのは、売上額にとどまらない実質的な費用対効果を算出できるためです。また、コストを労働時間に換算することで、業務改善に注力すべき作業の特定が可能です。ROIのメリットについて詳しく解説します。
事業・施策の効果測定や効果の比較ができる
ROI を求めることによって、事業やプロジェクトの成果を客観的な数値に基づいて判断できます。
ROIを用いることで、実質的な投資効果を可視化することが可能です。規模や種類が異なる事業や施策の比較・検討ができるのは、誤りのない判断が求められるビジネスシーンでは有用です。
たとえば、複数の事業を展開する企業において事業Aと事業BのROIを比較することで、どちらの事業に資源を重点的に投下するか、あるいはどちらを縮小、撤退するべきか判断しやすくなります。
売上が小規模で全体に及ぼす影響が小さい事業でも、ROIの数値が高ければ投資を続けて行う価値があるといえるでしょう。一方で、金額ベースの売上が大きくてもROIの数値が低いときは、事業規模の縮小や撤退の判断を検討した方が良いと判断できます。
業務改善に取り組むきっかけにつながる
ROIは業務の生産性を可視化する指標としても活用できます。現状の作業工程が利益に貢献しているのか、それともコスト増大につながっているのかを客観的に評価できるため、業務改善につなげやすくなるでしょう。
トータルの利益が同じでも、作業時間自体が少なくなれば費用対効果は改善します。たとえば、従業員の総労働時間が100時間で1,000万円の売上であった状況を、AIツールを導入して雇用を縮小した結果、50時間に減少できれば、経営の効率性が高くなります。
ROIを細かく分析して作業ごとに労働時間と利益の割合を算出すれば、費用対効果の悪い作業工程が明らかになり、非効率な工程の業務改善に取り組むきっかけが得られます。
ROIのデメリット
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ROIは決して万能な指標ではなく、活用が難しい分野や不向きな領域が存在します。具体的なデメリットは数値化できない利益の評価が難しいこと、長期的な視点での分析には不向きなことです。それぞれ詳しく解説します。
数値化できない利益の評価が難しい
利益額と投資額をベースに算出するROIは、数値化できない施策の評価には適していません。企業のマーケティング活動には、顧客ロイヤリティの向上といった数値で成果を表すのは難しい取り組みもあります。
直接的に利益をもたらす施策ではないものの、お客様の感情面に訴求して購買意欲を喚起できる、企業イメージの向上につながるといった効果が出ている場合も少なくありません。
ROIによる分析は、成果の測定しにくい施策を費用対効果が悪いものだと切り捨てる、間違った判断につながるリスクがあります。
ROIは、事業の方向性や適切な資源配分を決める際に有用な指標なのは間違いありません。しかし、活用できる領域は限定的のため、ROIにこだわり過ぎず複数の指標を比較検討して判断する必要があります。
長期的な視点での評価には不向き
ROIの算出に用いる利益額と投資額は、計測時点での数値をもとに計算されるものです。したがって、現状の把握には適していますが、長期的な観測には不向きといわざるを得ません。
現時点ではROIの数値が悪くても、将来的に改善の余地がある事業を「採算性が悪い」と見切りをつけてしまうリスクがあります。ROIのみの分析では、今後の成長や追加投資の必要性を十分に考慮できません。
事業やプロジェクトを開始した時期によっては、利益が少なくても仕方ない局面もあります。始めたばかりの施策をROIが低いからと中止することで、将来の成果を得るチャンスを逃す可能性があります。
ROIは、長期的な視点を必要とする事業の評価には不向きである点には注意が必要です。
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ROIの目安
ROIは、利益と投資額が等しくなる100%が目安になります。
100%を超える場合、利益が投資や費用を上回り施策が効果的だと判断できるためです。反対に、100%を下回る場合は投じたコスト以上の成果を上げられていない状態だといえます。
ROIは個々の施策の成果を評価する指標のため、業界や企業ごとに平均値を示すのは難しいのが実情です。そのため、一定期間にわたってROIを計測し、自社内でデータを蓄積することが重要です。一定期間計測を続けてデータがたまれば、施策同士の比較検討や傾向の把握もできます。
基本的にはROIが100%を超えれば投資は順調、100%を下回れば方向性の転換や撤退を検討する状況だと考えるとよいでしょう。
ROIと類似する用語との違い
ROIと類似する用語やROI以外にも費用対効果を測る指標として下記が挙げられます。
- ROAS
- ROA
- ROIC
- ROE
- CPA
各指標の特徴やROIと違いについて紹介します。
ROAS
ROAS(Return On Advertising Spend)は「広告の費用対効果」と訳される用語で、広告費用の回収率を表しています。ROIとの明確な違いは、広告の効果測定に特化した指標であることです。
また、ROI は利益をもとに算出するのに対して、ROAS は売上ベースで算出されます。ROASの計算式は以下のとおりです。
- ROAS(%)=広告による売上 ÷ 広告費用 × 100
投じた広告費に対する売上を測定することで、広告効果の客観的な把握を可能とします。
ROASの数値が高いほど広告施策の効果の高い状態を表し、数値が低いほど広告活動の改善が必要な状態にあると判断できます。
ROIの分析だけでは、実施した広告が成果を挙げているか判断できません。広告の効果を正しく測定し、適切な広告施策を講じるにはROASの測定も不可欠です。
ROA
ROA(Return On Assets)は総資産利益率を表す用語で、下記の計算式で求められます。
- ROA(%)=当期純利益 ÷ 総資産 × 100
ROAは企業全体の経営効率の把握に用いる指標です。ROAは機械や設備、土地など商品を生み出す資産と利益額の割合を示しており、資産以上に利益が多ければROAの数値は高くなります。
ROAが良い企業は、少ない資本で多くの利益を出す収益性の優れた会社だと判断できます。なお、総資産には借入金や社内など自己資本以外の負債も含む点に注意が必要です。
ROIC
ROIC(Return On Invested Capital)は「投下資本利益率」を表す指標です。計算式は以下のとおりです。
- ROIC(%)=営業利益 ×(1 − 実効税率)÷ 投下資本 × 100
ROICは企業全体の収益性を表します。調達資金の効率的な運用の程度を測定する指標として活用できます。
ROIの算出式で登場する実効税率は、法人税や法人住民税、法人事業税などの税率を合計したものです。ROICは資金調達の観点から、企業全体の収益性を測る指標だと考えましょう。
ROE
「自己資本利益率」を意味するROEは、下記の計算式で算出できます。
- 自己資本利益率(%)=当期純利益 ÷ 自己資本 × 100
ROEは主に企業の稼ぐ能力を判断する際に用いる指標です。
ROEの分析の主体は投資家や株主となり、将来性の高い投資先を見極める際に使用します。また、売上や利益だけでなく負債も含めた分析が可能なことから、実質的な収益性の判断に適しています。
一方ROIは、社内の人間が施策の費用対効果を明らかにするために用いるケースが一般的です。
CPA
CPA(Cost per Acquisition)は、コンバージョンを得るのに投じた広告費用を表す用語です。計算式は以下のとおりです。
- CPA=広告費用 ÷ コンバージョン数
ROIは投資に対する利益率を求めるために用いる指標であるのに対し、CPAは1件のコンバージョンを獲得するためのコストを算出するための指標です。
CPAは数値が低いほど企業にとって好ましく、少ないコストで問い合わせや資料請求、契約などのコンバージョンを獲得できていることを示しています。
CPAの高低はターゲットの購入意欲にも左右され、ニーズが顕在化しておらず広告費用のかさむ潜在層への訴求では数値が高くなる傾向があります。
CPAを算出してコンバージョンに要したコストを明らかにすることで、広告施策を評価したうえで適切な予算配分が可能です。
しかし、単一の分析では不十分なため、ROIやROASといった他の指標とあわせて分析して広告の費用対効果を総合的に判断する必要があります。
ROIを改善・向上させるポイント
ROIを向上させるには、顧客体験の向上とコスト削減への取り組みが不可欠です。利益をベースに算出する指標のため収益性の改善に注力すれば、自然に数値が改善します。ROIの向上を実現する具体的なポイントは、次のとおりです。
顧客体験を向上させる
ROIを向上させるには、土台となる売上をアップする必要があります。売上増加に効果的な対策が、顧客体験(CX)の向上です。
顧客が商品の購入を通じて価格以上の満足感を得られれば、リピーターの増加につながり、売上アップが期待できます。
顧客体験の向上には、十分な顧客理解が欠かせません。継続して商品を購入する顧客がどのような体験を求めているか、また実際に継続購入している顧客がどのような心理を持っているかを理解する必要があります。
顧客と継続的に接点を持つ方法としては、アプリ・WEBサイトなど定期的に顧客にアクションを起こさせる仕組みを設けたり、顧客同士や企業と交流できるオンラインコミュニティなどが挙げられます。顧客が能動的に意見を発信することで、より質の高いニーズの調査や施策の効果を検証できます。
気軽にWeb広告を出稿できる現在、マーケティング活動の一環でデータ分析に取り組む企業が増えましたが、一方で数値では測定しきれないお客様の本心(インサイト)を知る必要性も高まっています。
ユーザーと直に接触でき、かつ能動的に発信してくれる場をオンライン上に設けるのは、顧客理解の促進に極めて効果的です。
広告費や仕入原価などを見直す
各種コストを減らすことでROIが高まり、収益性の改善に結びつきます。たとえ売上額が同じでもコストが低下すればROIの数値は改善します。
費用を削減する具体的な方法は次のとおりです。
- 適切な広告費の設定
- 余分な在庫の削減
- 仕入原価や販売原価の抑制
- 生産工程の効率化
- エネルギーコストの改善
ROIの改善を目的にコストの削減に取り組む場合、顧客体験の向上の取り組みを並行して行うことが大切です。費用の削減に成功しても顧客満足度や品質の低下を招いては意味がありません。
たとえば、コストダウンに注力するあまり、お客様対応に割く余裕がなくなれば売上の低下を引き起こします。あくまでも最終的な目標はROIの最大化だと念頭において、サービスの品質に影響を与えない範囲で取り組みましょう。
MAやCRMなどのツールで効率化を行う
MA(マーケティングオートメーション)ツールやコミュニケーションツールを用いた、業務の効率化もROIの向上には効果的です。各種ツールを導入して業務効率を向上させれば、結果的にコストの削減につながります。
たとえば、MAツールを活用した、データに基づくメルマガの適切な配信が挙げられます。一人ひとりのニーズに応じたOne to Oneのマーケティングを促進すれば、新規顧客の獲得やリピート率の向上を期待できます。
チャットツールの導入によるリモートワークの促進も、一つの手法です。メールと比べて従業員同士やクライアントとのコミュニケーションが容易になるため、業務効率が改善して労務費の削減が可能です。
coorumを活用してROIを向上させよう
投資の費用対効果を客観的に把握できるROIは、効率的な事業活動を目指すうえで重要な指標です。ROIを高めるポイントは、顧客体験の向上とコスト削減を実施することです。顧客がマーケティング施策に対して自ら進んでアクションを起こす仕組みを構築することで、より施策の効果を高めることができるでしょう。
coorum(コーラム)はコーディングなしで利用できる顧客の本音を引き出す仕組みを構築し、収集・分析が可能なプラットフォームです。
また、特定の参加者・顧客層に向けてプロモーションを行う機能があります。将来的にマス層への訴求を検討する施策について精度が高い効果検証を実現します。興味がある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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