マーケティングオートメーションツール「SATORI」を開発・提供しているSATORI株式会社。1,000社導入を達成したSATORIの躍進を支えたのが、カスタマーサクセスチームです。
社員の1/4がカスタマーサクセスを主な業務としていながらも、カスタマーサクセスとしての独立した組織は構成されていないとのこと。そこには、カスタマーサクセスに対するある思いが込められていました。
カスタマーサクセス立ち上げ当初からマーケティング営業部を統括されている高橋さまに、カスタマーサクセスの役割と意義について、お話を伺いました。
SATORI株式会社 マーケティング営業部部長 高橋 美絵氏 メール配信システムベンダー、CDNサービスベンダーにてマーケティング全般のキャリアを構築し、2016年9月にSATORIへ参画。同年12月より、事業部長としてマーケティング・インサイドセールス・フィールドセールス・代理店支援部門、カスタマーサクセスを統轄。SATORI社内一人目の産休・育休取得者でもあり、多様な働き方を推進するSATORI社員のロールモデルを目指す。 |
当記事は連載「成長中SaaSのカスタマーサクセスをのぞいてみよう」第2弾としてお届けします。
CS Profile@SATORI
立ち上げ当初は全くの手探り
― カスタマーサクセス部門ができた頃のお話を聞かせてください。
最初は、営業やマーケティングなど、それぞれの機能を1人か2人で担う体制で、まだ業務は仕組み化されていませんでした。その後、カスタマーサクセス担当として採用活動を始め、3人ぐらい入社したところでカスタマーサクセスチームを立ち上げることになりました。それが、2017年の秋頃です。
お客様と向き合いながら、コストをどれぐらいかけられるか、どこまでハイタッチなことができるのか、手探りで進めていきました。
特に、オンボーディングには力を入れました。解約せずに使ってもらうためには、導入直後の半年が非常に重要です。「最初の半年でツールが通常業務に入り込んでいなければ、継続していただくのは難しい」という仮説を立て、オンボーディングに注力しました。
当時はまだそこまでお客様が多くなかったので、お客様に直接会いに行ったり、最初に使って欲しい資料を送ったり。また、有償のサポートを希望される声もあったので、安価な形で有償サポートも始めました。それは、結構なニーズがありました。サポートでお客様と対話する中で、どのような取り組みが必要なのかを情報として蓄積していきました。
そこで分かったのは、オンボーディングの仕組みとして重要なのは、「なるべくコストをかけずに、でもなるべくハイタッチに」ということでした。かなり前から既存顧客向けのセミナーを行っていたので、それと導入直後の打ち合わせをプログラム化して、オンボーディングプログラムにしました。
カスタマーサクセスは全社で取り組むべきもの
― マーケティング営業部の組織構成はどのようになっていますか?
マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、代理店支援部門、カスタマーサクセスと、機能ごとに領域を分けてはいますが、それぞれが組織として独立しているわけではありません。組織としてはマーケティング営業部があるだけで、部内でグループやチームを編成しています。
カスタマーサクセスは担当部門だけがやることではなく、全社をあげて取り組むべきことだと思っています。お客様との最初の接点から、すでにカスタマーサクセスが始まっているはずですから。
特定の部門が担う役割ではなく「みんなで取り組むもの」という認識を持ってほしかったので、あえてカスタマーサクセスを組織名とせず、部門として独立させることはしませんでした。
― カスタマーサクセスを担当されている方は、何名ぐらいいらっしゃるのですか?
全社員95名のうち、マーケティング営業部に75名いて、そのうちの25名がカスタマーサクセス領域を担当しています。
お客様との最前線に出て日々打ち合わせをしているメンバーだけではありませんが、既存顧客の担当やサービス運営を担っている人数はそのぐらいです。
― カスタマーサクセス領域内での役割分担はどのようになっていますか?
役割分担としては、現在、大きく5つに分かれています。
オンボーディングチーム
一つが、オンボーディングです。これは、契約当初の打ち合わせから、事前に合意したオンボーディングプロセスが完了したと互いに確認できるまで。そこまでを二人三脚で支援していくものになります。最もハイタッチな部門のひとつです。
コンテンツ&コミュニティチーム
同時に、オンボーディングにも関わりながらテックタッチ部分も担う、コンテンツとコミュニティを担当するチームがあります。
ここは既存の契約者向けの活用Tipsやノウハウを公開しているサイトを運営しています。また、セミナーの運営も行います。セミナー資料を作ったりコンテンツを動画にして配信できるようにしたり。あとは、ユーザー会の運営も担当しています。
先ほどのオンボーディングチームは1:1で対応しますが、コンテンツ&コミュニティ担当チームは1:Nでの対応になります。
テクニカルサポートチーム
もう一つ、ロータッチなところで、テクニカルサポートのチームがあります。ここでは基本的にメールでお客様とやりとりしながら課題解決していきます。また、オンラインマニュアルの運営も担っています。
一般的に「サポート」と呼ばれる役割と近い仕事をしていますが、開発とかなり密にやりとりをし、「SATORI」の仕様や技術的な部分に一番詳しいチームです。
コンサルティングチーム
もう一つ、カスタマーサクセスとセールスを合わせたようなコンサルティングチームがあります。オンボーディングが完了した既存顧客に対して、活用提案を通じたアップセルやアカウント拡大を行うチームです。オンボーディングチームと同じく、最もハイタッチなチームです。
サービスマネジメントチーム
最後が、サービスマネジメントチームです。ここでは、サービスの運営やカスタマーサクセス部門内の業務の効率化を担当しています。お客様がサービスをスムーズに利用できるようにするための契約や請求周りのサポートに加え、業務フローなどもここで作っています。
この5つのチーム体制で今は動いています。
カスタマーサクセスの重要性を社内に浸透させるには
― 社員の1/4がカスタマーサクセスを担当されているということは、全社的にカスタマーサクセスの重要性が理解されているのですね。
そうですね。どこのSaaS企業もそうだと思いますが、LTVをどれだけ上げられるか、これが将来に向けて売り上げを作っていく基礎になるので。
お客様との向き合い方が、将来の売り上げを作っていく。評判を作っていく。未来のお客様を連れてくるためにも、今のお客様としっかり向き合う必要がある。このことが、社内で共有できているように思います。
― カスタマーサクセスの重要性が社内に浸透していない企業さんでは、担当者が社員を啓蒙していく必要があると思うのですが、その場合、どのようにしていけばよいと思われますか?
数字で見せるのが一番分かりやすいと思います。SaaS企業であれば、解約率を見ることで、将来の売上がどれぐらいの伸び率になるのかが分かります。「解約率を何%以下に抑えることができれば、売上はこれぐらいの率で伸びます」と数値で出せると説得力がありますよね。その上で、「現状、月何件ある解約を、何件まで下げる必要がある」とか、「そのためにはここがボトルネックになっているので、ここに注力する必要がある」といったことを示す。カスタマーサクセスは、売上に対するインパクトの大きい仕事なので、数値を出すことで論理的に重要性を伝えることができると思います。
一方、SaaS企業でない場合は、なかなか数値で示すのは難しいと思います。新しいことを始めるとき、必ずしも組織の全員が前向きに理解しているとは限りません。そういう場合には、スモールステップでいいので、早く何かしら目に見える成果を出すことに注力したほうがよいと思います。
「SATORI」導入時、お客様に対してお伝えしている4つのステップがあります。MAツールを社内にどう浸透させていくか、という考えで作ったものですが、何かしら新しい取り組みを社内へ拡大させていく際にも使えるものだと思います。
ステップ1は、小さくてもいいので分かりやすい成果を早く出すことです。
ステップ2は、ステップ1であげた小さな成果によって恩恵を受ける部門があるはずなので、そこに協力者を1人作ります。そして、その人と協力して、今度はもう少し大きな成果を出します。
ステップ3は、その成果をもとに、自分と協力者それぞれの組織で協力者の輪を広げます。
そして、ステップ4で、1人:1人だった協力関係を、部門:部門の協力関係にしていく。二つの部門が協力して大きな成果を出せば、自然と社内でも注目されるようになりますから。
すると、組織全体でその取り組みが共有され、みんなが協力したくなる。そんな正のスパイラルができていきます。
まずは、とにかく早く成果を出して、協力者を見つけることです。
指標は常に改善させていく
― カスタマーサクセス部門ではどのような指標を追っていますか?
最も大きなKGIとして、売上継続率を見ています。多少解約があったとしても、従量課金やオプション、アカウントの増加などで結果的に売上を伸ばすことができれば、提供した価値の総量が増えたといえます。解約率も重要ですが、単体ではお客様へ届けた価値の総量に着目できない指標なので、売上継続率をKGIとしています。
NPS(ネット・プロモーター・スコア:顧客ロイヤルティの指標)についても重視していますし、その先行指標として、カスタマー・エンゲージメント・スコアという指標を開発し、これを伸ばしていこうと、現在、企画しています。あとは、満足度ですね。セミナーやユーザー会の満足度を、アンケートなどで細かく見ています。
もちろん、解約率やアップセルの金額といった項目についても、細かく見ています。
大きくは売上継続率とNPSを見ながら、その他についても細かく多様なKPIを追っている感じです。
― 追いかけなければいけない指標はたくさんあると思いますが、その中でどれを重視するのかは、どのようにして決定しているのでしょうか?
追うべき指標については、完成することはなく、常に改善していくものだと思っています。
以前、解約件数を大きな指標としていた時期がありました。しかし、数値を追うことはできたものの、動いてから結果が出るまでにとても時間がかかってしまう。そして、お客様の数も多い中で、なかなか追いづらい指標でもありました。さらには、ご担当者様の異動や退職など、お客様側の都合もあって解約自体をゼロにすることはできないことも実感しました。
そこで、解約防止だけに取り組むのではなく、お客様の感じてくださる価値を伸ばすことにフォーカスするため、売上継続率に着目することにしました。
― KPI、KGIを達成するために重要なことは何でしょうか?
カスタマーサクセスは、とにかく泥臭い仕事です。オペレーションの集合体で、本当に日々の積み重ねがモノを言います。ですから、仕組み作りに手を抜かないことが大切だと考えています。
社内で決められた手順通りお客様に動いていただきたくても、なかなか思うようにはいきません。ツールを導入したといっても、ご本人としては上から「これを使え」と言われただけで、そこまで乗り気ではないかもしれません。
お客様ごとに、コンディションや社内の事情、コストのかけ方、期待する成果などは異なります。そこをうまく期待値調整しながら進めていく必要があります。
一方で、正確に処理すべき手順の決まった仕事も多くあります。これらについてはマニュアル化し、なるべく負荷を減らしながら一定水準を担保したいと考えています。こうすることで、手続きに手戻りが発生せず、結果的にお客様と向き合うことに時間を使えるようになります。
― 御社としてのミッションと、カスタマーサクセスとしてのミッションを教えてください。
全社のミッションは、「あなたのマーケティング活動を一歩先へ」です。「企業の」や「自分たちの」ではなく、目の前にいる「あなた」が一歩先に進む。これをミッションにしています。
カスタマーサクセスも、ご担当の方がスキルを身に付けてくれることを目標にしています。顧客企業のサクセスのために、目の前の一人を支援します。
不可欠な資質は、マーケティングへの興味と顧客志向
― カスタマーサクセスとして大切な心構えはありますか?
カスタマーサクセスは、バランスの難しい職種だと思います。お客様の支援をするわけですが、業務を代行するわけにはいきません。お客様自身に覚えていただく、考え方を身につけていただくことが重要ですから。
SATORIを使いこなすのは、お客様にとって難易度の高いことである場合もあります。しかし、成果の再現性を高めるためには、長期的に見ればスキルを身につけていただくことが重要ですし、お客様自身の市場価値を高めることにも繋がります。
ときには、「きちんと考えてください」と突き放さなければいけない。そのバランスが大切だし、なかなか難しいところですね。
― どのような人材を求めていますか?
マーケティングやITに対して、やる気を持てる方、自ら学習を進められる方を求めています。
お客様はマーケティング担当者であり、我々はお客様にとってマーケティングの先生になるわけですから。マーケティングに興味を持っている方に来てほしいですね。
あと、一番大事なのは、「お客様を成功させたい」「お客様に価値を提供したい」という顧客志向を持っていること。
最近、カスタマーサクセスが注目されるようになり、カスタマーサクセスの経験者は市場価値が高まっています。そういう意味では、キラキラして見えるかもしれませんが、実際には、一人一人のお客様と毎日泥臭く向き合う仕事です。お客様と向き合うこと自体にモチベーションを持っていることが、何より重要だと思います。
― 今後の展望について聞かせてください。
今年の2月、SATORIは1,000社導入を達成しました。私たちが届けられる価値はまだまだこんなところではないと思っていますので、3,000社、5,000社、10,000社と伸ばして、より多くの方にマーケティングの価値を感じていただきたいと思っています。
カスタマーサクセスの組織としても、今後ますます顧客が増えていくことを想定しています。
そのために、カスタマーサクセス担当の人数も増やしていきたいですね。といっても、あまり一つの部門を大きくすることは意図していません。1人のマネージャーが見られる人数には限りがあるため、一つ一つのチームはあまり大きくせずに、今のような1チーム5人くらいの体制のまま、チーム数を増やしていきたいと思っています。ですから、チームを率いていけるリーダーの育成に力を入れているところです。