昨今、ビジネスにおいて「NPS」という指標が注目されています。従来、重視されていた「顧客満足度」以上に業績との相関が高く、シンプルな質問で数値化できる点も注目されています。本記事ではそんなNPSの基礎知識や質問の設定方法について解説します。
NPSとは
NPSとは、Net Promoter Score(ネットプロモータースコア)の略語です。2003年に米国「ベイン・アンド・カンパニー社」のフレドリック・F・ライクヘルド氏が提唱した指標であり、これまで計測することが難しいとされた「企業やブランドに対してどれくらいの愛着や信頼があるか」を数値化した指標です。
現在では「NIKE」や「Amazon」、「Facebook」などの数々の大企業が導入しており、企業を成長させるための重要な指標として扱われています。
NPSと顧客満足度との違い
顧客満足度とNPSの違いは「業績(収益)との関連性が高いかどうか」にあります。
顧客満足度調査で把握できるデータは、「購入金額」や「再購入率」など企業の利益に直結する行動との関連性が薄いと指摘されています。その理由は、顧客満足度でわかるデータがあいまいであるためです。顧客満足度が高くとも今後の収益につながるとは限りません。
一方でNPSは実証研究の結果により、業績との相関関係が強いことがわかっています。企業活動においては利益の追求するためには欠かせない要素であり、データを有効な施策を打ち出すことができます。
NPSの基本的な質問と計算方法
NPSとは、顧客推奨度(商品・サービスの愛着度)であると解説しました。一見、算出することが難しそうな内容ですが、実は簡単な質問を設定するだけでNPSを調べることができます。
基本の質問はひとつだけ
NPSを調査するために使用する質問は「あなたは我が社の商品をどのくらい友人・家族に勧めたいですか?」という質問です。この質問に対して0~10点の11段階で回答してもらいます。
質問に回答した人を3つのカテゴリーに分ける
さて、この質問に回答してもらうことですべての顧客を11段階に区分できますが、これをまとめて以下の3種類の区分に仕分けます。
- 批判者:0〜6点と答えた人
- 中立者:7,8点と答えた人
- 推奨者:9,10点と答えた人
分類結果をもとにNPSを算出
このうち、使用するのは「批判者の割合」と「推奨者の割合」です。基本的に「中立者」はこの計算では使用しません。
NPS = [推奨者の割合(%)] – [批判者の割合(%)]
このように、単純な引き算だけでNPSを調べることができるのです。理論上、スコアの幅は−100〜+100まであり、推奨者が多いほどスコアが上がり、批判者の割合が高いとマイナスになります。
アンケート調査では批判者の割合の方が圧倒的に多く、従って計算結果もマイナスの数値になることがほとんどです。マイナスの数値になってしまったから大変だと右往左往するのではなく、批判者がどのような意見を持っているのかを分析することが重要となります。
NPSで追加すべき質問
NPSを調べるための基本的な質問は上記の通りですが、基本の質問だけでは具体的にどのような点に不満があるのかが判別しにくいです。そのため、基本の質問に加えてより具体的な質問を組み合わせることをおすすめします。
顧客の属性
- 年齢
- 性別
- 職業
- 居住地
この質問を組み入れることにより、調査結果の内容が「想定しているターゲットと一致するかどうか」を調べることができます。回答しやすい内容ばかりなので、質問内容に組み入れることはそれほど難しくはないでしょう。
評価の理由
NPSの評価は0~10の11段階で回答してもらいますが、そう回答するのには何らかの理由があるはずです。そこで各設問に「フリーコメント欄・自由記入欄」を設け、具体的な理由を述べてもらいましょう。
例えば評価内容が「批判者」に該当するとして、その理由を自由に記入してもらうことで「何に不満を感じているか?」を知ることができます。推奨者の場合も同様です。批判者の理由は改善点に、推奨者の理由は自社の強みとして分析してください。
NPSの質問を設定するうえでの注意点
NPSを調べる方法は基本的に簡単であり、多くの企業で手軽に導入できるでしょう。しかし、導入するには以下の点に注意する必要があります。
十分な回答数を集める
どんなアンケート調査でも同じことが言えますが、「十分な回答数を集める」ことを意識しましょう。回答結果が大きいほどにより正確なNPSの数値が出せるためです。
統計学的には「400人以上」から回答を得ると、NSPの調査結果は誤差±5となると言われています。
アンケートを店舗などで実施するのも良いですが、インターネットを利用してウェブ上で回答してもらうという手法もよく用いられています。ネット上でアンケートを実施すれば回答者数を集めやすく、さまざまな属性の顧客からの回答を集めやすいというメリットもあります。
指標を活用するための社内環境を整える
アンケートを実施して質問に回答してもらうことで有益なデータを得られますが、データはあくまでも「活用する」ことを念頭に置かなければ意味がありません。
NPSは商品やサービス、接客や店舗設備など、様々な項目を顧客から評価されます。例えばサービスに対するマイナス意見があるとします。マイナス意見の内訳は、製品のクオリティから担当者の接客対応まで様々です。
サービスの開発担当だけが問題に直面するのではなく、接客担当や営業担当もNPS調査の結果を受け止める必要があります。そのため、社内全体で取り組まないと成果につながらない可能性が高いでしょう。直接的な関係性が薄い部門であっても、NPSは会社全体の問題であるとして課題と認識を共有し、会社全体で一丸となってNPSの改善に取り組む姿勢が重要です。
短時間で答えられるボリュームにする
十分なデータを集めることももちろん重要ですが、NPSを調査する質問内容は可能な限り、短時間で答えられるボリュームにすることを心がけましょう。
一般的にアンケート調査は設問数が多いほど1回のアンケートで得られる情報量や情報の質が向上します。しかし、その反面で設問数が多い、つまり回答完了するまでに時間がかかるボリュームだと回答者のモチベーションが低下してしまい、回答を諦めてしまう、あるいは回答内容がおざなりになってしまう可能性が高くなります。
回答の質が低下させないためにも、設問はあくまでも必要最低限の個数とし、必要な情報量が多ければアンケートを分けて個別に実施するなどの対策をとりましょう。