MRR(Monthly Recurring Revenue)とは月次経常収益のことで、毎月繰り返し得られる収益を合算した指標です。主にサブスクリプションサービスやSaaSなどを提供している企業で用いられます。
今回はMRRの計算方法や種類、活用する方法についてまとめました。また、MRRが思わしくないときに実施できる改善方法についても紹介します。ぜひ参考にしてください。
MRRとは?
MRR(Monthly Recurring Revenue)とは、毎月繰り返し得られる収益を合算した指標で、月次経常収益や月間経常収益とも呼ばれます。SaaSやサブスクリプションサービスなど、定期的に利用料金が発生する商品・サービスを提供する企業にとっては重要な指標です。
なお、後述しますが、MRRと毎月の利益とは異なります。MRRは毎月繰り返して得られる収益のみを合算して求めるため、1回のみ発生した収益は含まれません。たとえば、健康食品の販売会社なら、定期サービスで購入している顧客が支払った代金はMRRに含まれますが、1回のみの購入に関しては含まれないことになります。
ARRとの違い
ARR(Annual Recurring Revenue)とは、毎年繰り返し得られる収益を合算した指標で、年間経常収益とも呼ばれます。保険料のように1年に1回支払うことがある商品・サービスを提供している企業で用いられる指標です。
ARRは月間サービスを提供している企業でも用いられます。1年は12ヶ月のため、ARRとMRRの間には以下の関係が成り立ちます。
- ARR=MRR×12
BtoBの取引では年単位で料金が発生することが多いため、MRRよりもARRが使われることが一般的です。ただし、創業したばかりの企業などでは収益が安定していないことも多く、ARRで利益を予想することは難しいと考えられます。
NRRとの違い
NRR(Net Revenue Retention、Net Retention Rat)とは、売上維持率のことです。MRRと同じく月額料金が発生するスタイルのビジネスにおいて用いられる指標で、収益の成長率を示します。NRRは以下の計算式で算出します。
- NRR(%)=(月初めのMRR+New MRR+Expansion MRR-Downgrade MRR-Churn MRR)÷月初めのMRR×100
なお、後述しますが、New MRRとExpansion MRRは先月よりも増えた収益、Downgrade MRRとChurn MRRは減少分です。NRRはMRRをベースに計算するため、先にMRRを算出しておきましょう。
CMRRとの違い
CMRR(Committed Monthly Recurring Revenue)とは将来的なMRRのことで、既決月間経常収益とも呼ばれます。以下の計算式で求めます。
- CMRR=MRR+New MRR+Expansion MRR-Downgrade MRR-Churn MRR
CMRRは収益が確定されたMRRを指すため、確実性が高い数値として評価され、資金調達の際にも確認されることが少なくありません。また、事業の進捗状況を確認するときや、投資価値を判断するときにも用いられます。
MRRは事業の安定性や成長性を示す指標ですが、将来的な変化については含まれていません。一方、CMRRは将来的な要素も含まれているため、信頼性の高い数値として重視される傾向にあります。
ARPUとの違い
ARPU(Average Revenue per User)とは1ユーザーあたりの平均単価のことで、単月顧客単価とも呼ばれます。企業の業績を評価する指標で、MRRと同じく月額料金が発生するビジネスモデルで使われることが一般的です。
ARPUは、次の計算式で求めます。
- ARPU=合計売上高÷アクティブユーザー数
ただし、事業形態によってARPUを求める計算式が異なるため注意が必要です。たとえばサブスクリプションサービス型のビジネスモデルでは、課金ユーザーあたりの平均売上高を課金ユーザー率で割って求めます。また、広告表示型のビジネスモデルでは、ユーザーあたりの広告表示回数に、1回あたりの広告単価をかけて算出します。
ARPUはユーザーあたりの売上高を指す指標ですが、MRRはすべてのユーザーから得られる売上高です。1人あたりの売上高の改善を図るときなどに用いられます。
MRRの計算方法と注意点
MRRは、以下の計算式で求められます。
- MRR=月額料金×ユーザー数
1ヶ月10,000円のサービスを100人に提供している場合なら、MRRは10,000円×100人=100万円です。サービスの種類や料金プランが複数存在しているときは、それぞれのMRRを計算して合算します。
たとえば、あるSaaS企業では1ヶ月10,000円のプランAと1ヶ月8,000円のプランBがあり、それぞれ3,000人・2,000人のユーザーがいたとしましょう。MRRは以下の計算式から4,600万円と求められます。
- MRR=10,000円×3,000人+8,000円×2,000人
MRRの計算に含めないもの
月額料金が発生する商品・サービスを提供している場合でも、すべての売上をMRRに含めることはできません。次の売上に関しては、MRRの計算に含めないことが一般的です。
- 初期導入時の一時的な売上(初期費用)
- アップセルやクロスセルによる単発の売上
- コンサルティングにより発生した売上
- 一括課金による売上
- 無料期間中に発生した一時的な売上
MRRは繰り返し発生する売上のため、一時的に発生した料金や単発の売上については含めません。また、月額料金が発生する商品・サービスであっても、無料期間がある場合は、その期間は売上が発生しなかったものとしてMRRを求めます。
MRRの計算に含めるもの
MRRの計算には、以下の料金を含めます。
- 毎月発生する利用料金
- 月単位ではなくても定期的に発生している料金
- 値引きした月額料金
- 支払いが遅延している月額料金
たとえば、隔月で料金が発生するプランなら、2等分した金額をMRRに含めます。また、半年単位のプランなら6で割った金額、年単位プランなら12で割った金額を含めましょう。
入会特典などで最初の数ヶ月の料金を割引するときなら、割引後の料金で計算してください。月10,000円のプランを最初の半年は半額にするのであれば、割引適用時のMRRではユーザーの利用料金は5,000円として加算します。
支払いが遅延しているときも、MRRにはそのまま加算してください。遅延したとしても後日支払われるため、料金をまだ受け取っていない場合でも、そのまま計算して問題ありません。
MRRの種類と計算方法
NRRやCMRRを求めるときにも紹介しましたが、MRRには次の種類があります。
- New MRR
- Expansion MRR
- Downgrade MRR
- Churn MRR
それぞれのMRRの意味と計算方法について解説します。
New MRR
New MRRとは新規ユーザーによって発生したMRRのことで、「新規MRR」とも呼ばれます。以下の計算式で求めます。
- New MRR=月額料金×新規ユーザー数
たとえば、月額4,000円のサービスを提供している企業において、ユーザー数が100人としましょう。そのうち20人は今月からサービスの利用を開始したのであれば、MRRは4,000円×100人=40万円ですが、New MRRは4,000円×20人=8万円です。
New MRRは当月の営業成果ともいえます。また、顧客獲得コストを求めるときにもNew MRRを活用できます。
Expansion MRR
Expansion MRRとは、高額プランに変更したことで月額料金が増加したユーザーによって計上されるMRRのことです。「拡大MRR」とも呼ばれます。以下の計算式で求めます。
- Expansion MRR=(アップグレード後の月額料金-元の月額料金)×当該ユーザー数
商品・サービスの提供を始めたばかりのときには、プランを変更するユーザーはあまり多くはありませんが、新しいプランを開始したときなどのある程度ビジネスが成熟したときに重視される数値です。
たとえば、月額10,000円と4,000円の2つのプランがある場合について考えてみましょう。月額4,000円のプランから月額10,000円のプランに変更したユーザーが当月20人いた場合には、Expansion MRRは(10,000円-4,000円)×20人=12万円です。
プランが3つ以上ある場合には、アップグレードのパターンも複数になります。上位プランに変更したすべてのユーザーが生み出した増加額を合算して、当月分のExpansion MRRを求めてください。
Expansion MRRが多いときは、商品・サービスに魅力を感じているユーザーが多いと判断できます。顧客ロイヤリティが高く、ビジネスが適切に成長している状態ともいえるでしょう。
Downgrade MRR
Downgrade MRRとは、下位プランに変更したことで月額料金が減少したユーザーによって計上されるMRRのことです。「減少MRR」とも呼ばれます。以下の計算式で求めます。
- Downgrade MRR=(ダウングレード後の月額料金-元の月額料金)×当該ユーザー数
たとえば、月額10,000円と4,000円の2つのプランがある場合について考えてみましょう。月額10,000円のプランから月額4,000円のプランに変更したユーザーが当月30人いた場合には、Expansion MRRは(10,000円-4,000円)×30人=18万円です。
プランが3つ以上ある場合には、ダウングレードのパターンも複数になります。すべてのダウングレードユーザーの増加額を合算して、当月分のDowngrade MRRを求めてください。
Downgrade MRRの数値が高いときは、商品・サービスの月額料金が割高だと感じているユーザーが多いと想定されます。月額料金を見直す、サポート内容を充実させるなど、Downgrade MRRを減らす対策を早急に講じることが必要です。
Churn MRR
Churn MRRとは、解約したユーザーによって失われたMRRのことです。「解約MRR」とも呼ばれます。以下の計算式で求めます。
- Churn MRR=解約したユーザーによって支払われていた月額料金×解約ユーザー数
たとえば、月額10,000円のプランを解約したユーザーが10人、月額4,000円のプランを解約したユーザーが20人いたとしましょう。Churn MRRは10,000円×10人+4,000円×20人=18万円です。
1年契約で解約した場合は、年間料金を12等分した金額に解約ユーザー数をかけてChurn MRRを求めます。Churn MRRが多いときは、ビジネスの健全性が低いと判断できます。料金設定や商品・サービスのクオリティ、ユーザーサポートの内容などを見直す必要があるでしょう。
MRRを活用する状況
MRRは次の状況で活用します。
- ビジネスの成長を判断するとき
- キャッシュフロー計画を立てるとき
- 投資価値を判断するとき
- 企業価値を判断するとき
それぞれの状況でMRRをどのように活用するのか解説します。
ビジネスの成長を判断するとき
MRRが増加しているとビジネスは成長していると判断できます。MRRは月ごとに数値を把握できるため、成長の様子が理解しやすい指標です。
また、継続的な収益を確保できるか測る指標の一つにSaaS Quick Ratioがありますが、SaaS Quick RatioもMRRを用いて計算します。
- SaaS Quick Ratio(%)=(New MRR+Expansion MRR)÷(Downgrade MRR+Churn MRR)×100
SaaS Quick Ratioの数値によって、以下のように判断します。
- 1未満:ビジネスが衰退している
- 1以上4未満:ビジネスは成長しているが新規顧客開拓などに注力が必要
- 4以上:ビジネスは安定的に成長している
キャッシュフロー計画を立てるとき
SaaSなどの月額料金や年間料金が決まっているビジネスモデルは、比較的キャッシュフロー計画を立てやすい点が特徴です。MRRを活用すると、さらにキャッシュフロー計画が立てやすくなります。
たとえば契約更新時に解約が起こりやすいため、ユーザーごとの契約期間に合わせてChurn MRRを加味すると、将来的な売上見込みを計算しやすくなるでしょう。また、事業計画を立てるときにも、各種MRRを用いてキャッシュフローを予測します。
投資価値を判断するとき
投資するかどうか判断するときは、対象企業のMRRに注目します。たとえば起業したばかりの企業なら、New MRRが十分に大きいかチェックしましょう。また、起業後ある程度の時間が経っている企業なら、Expansion MRRの大きさや、Downgrade MRR・Churn MRRの小ささに注目できます。
企業価値を判断するとき
金融機関から融資を受けるときや投資家から出資を受けるときは、対象企業の企業価値がチェックされます。その際、MRRに注目して企業価値を判断することがあります。
発展段階にあると考えられる企業なら、New MRRの大きさが重視されることが一般的です。また、ある程度成熟している企業の場合は、Expansion MRRの大きさ、Downgrade MRRとChurn MRRの小ささが重要視されます。
MRRの改善方法
New MRRとExpansion MRRは大きければ大きいほどよいと判断しますが、反対にDowngrade MRRとChurn MRRは小さければ小さいほどよいと判断することが一般的です。MRRの改善方法は、種類ごとに異なります。種類別に改善方法を紹介します。
5-1.New MRR
New MRRの数値が低いときは、新規顧客をあまり獲得できていない状態です。新規顧客獲得を目指し、次の対策を実施してみましょう。
- 広告宣伝に注力する
- セミナーや展示会を実施する
- Webサイトから問い合わせや資料ダウンロードができるようにする
- 営業手法を見直す
いずれもリード獲得や商談数増加につながる対策です。また、New MRRより顧客獲得コストが多い場合は、顧客獲得の手法も見直してください。
Expansion MRR
Expansion MRRが低いときは、顧客単価の改善が必要です。上位プランの魅力をアピールするために、次の施策を実施できます。
- 上位プランについて調べたユーザーに対してアプローチする
- 上位プランのメリットを具体的に提示する
「アップグレードしてほしい」というスタンスではなく、「より役立つサービスを利用してほしい」というスタンスでユーザーにアピールすることが大切です。
Downgrade MRR
Downgrade MRRが高いときは、顧客の満足度が低い可能性があります。次の施策を実施し、Downgrade MRRの改善を目指しましょう。
- カスタマーサポートを充実させる
- 使いこなせていない機能を調べ、継続的に確認・支援する
- サービスを充実させ、顧客ロイヤリティを高める
Churn MRR
Churn MRRが高いときは、顧客満足度が低いだけでなく、価格やサービス内容が競合よりも魅力的ではない可能性があります。次の施策を実施し、Churn MRRの改善を目指しましょう。
- 商品・サービスのクオリティを改善する
- 定期的に顧客にアンケートを実施し、不満点やニーズを洗い出す
- ダウングレードしたユーザーに対して、手厚いサポートを提供する
顧客分析に役立つツール
定期的に顧客分析を実施することで、ダウングレードや解約を減らし、MRRを伸ばすことが可能です。また、ダウングレードや解約を検討しているユーザーから不満やニーズをヒヤリングすれば、将来的なDowngrade MRR・Churn MRRの減少にも役立ちます。
MRRの改善を目指すなら、顧客分析ツール「coorum」がおすすめです。また、coorumではロイヤリティが高いロイヤル顧客の育成にも対応しているため、Expansion MRRも期待できます。企業の成長性を高めるためにも、ぜひご活用ください。
定期的なMRR測定で経営課題を早期発見しよう
定期的にMRRを測定することで、将来的な成長を予測し、経営課題を早期発見できます。Expansion MRRがあまり増加していないときや、反対にDowngrade MRRやChurn MRRが増加しているときは、顧客満足度が低く、早急な対応が必要と考えられるでしょう。
顧客満足度に課題があるときは、ぜひcoorumをご利用ください。coorumなら顧客分析を自動化でき、MRRの改善プランを立てやすくなります。まずはお気軽にお問い合わせください。