昨今、さまざまな企業が自社で「コミュニティ」を構築し、運用するようになりました。自社コミュニティの運用にはさまざまなメリットがありますが、誰でも簡単に適切なコミュニティを構築できるわけではありません。そこで、コミュニティ構築に関するさまざまな知識について解説します。
ビジネスにおけるコミュニティ構築とは?
ビジネスにおけるコミュニティ構築とは、企業にとって「自社の利益を確保し、向上させるための交流の場」としてコミュニケーション方法を提供することをいいます。
コミュニティを構築する方法は、さまざまな手法があります。自社で一からコミュニティサイトを構築するケースもありますし、既存のコミュニティツールやSNSなどを活用するケースもあります。
ビジネスにおけるコミュニティ構築は、構築からコミュニティマネージャーの選任、その後の運用まで幅広く手掛ける必要があります。もちろん最初の段階である「構築」の段階で失敗することは許されませんが、それ以降の「運用」の段階も無視することはできません。
近年アメリカを中心に、諸外国ではビジネス向けのコミュニティの構築と、それを運用するコミュニティマネジメントの重要性が注目されています。日本ではまだなじみのないコミュニティマネジメントとそれを手掛けるコミュニティマネージャーですが、コミュニティマネージャーは欧米において「将来性のある仕事」の1つとして注目されています。
コミュニティを構築するメリット
企業がビジネス向けにコミュニティを構築することは、当然ながら企業にとっての利益に直結するからなのですが、具体的には以下の4つのメリットにより企業に利益をもたらします。
サービス改善に役立つアイデアを受け取れる
1つ目のメリットは「コミュニティを通じてユーザーから意見を集められる」ことです。
具体例としては音楽ストリーミングサービス「Spotify」のオンラインコミュニティにおいて、ユーザーから意見を吸い上げてアプリの機能改善に役立てているという事例があります。ユーザーから投稿された意見は他のユーザーによって評価され、多くの同意を得た意見を参考にするという仕組みです。
このように、自社コミュニティ内でユーザーからの意見を集約することは、要するに「お客様の意見をサービスに反映する」ことにつながるのです。これにより「CS(顧客満足)」や「NPS(顧客推奨度)」などの改善につながり、企業の利益を向上させることができます。
ユーザー同士で疑問点を解決しあえる
2つ目のメリットは「ユーザー同士で問題を解決できる可能性がある」ことです。
具体例は「Salesforce」のユーザーコミュニティです。このコミュニティではSalesforceのユーザー同士で質問のやり取りがされており、企業のサポートを介さずに課題解決が行われています。過去の質問や回答は蓄積され、検索可能となっています。
これまで、商品やサービスに関するトラブルの解決はユーザーと企業間のやりとりで解決されていました。しかし、そこに割く人的リソースや解決までのタイムラグなどを考えると、コミュニティ内でユーザー同士が質問しあい、ユーザー間で解決したほうがユーザーにとっても企業にとってもメリットがあるのです。
ブランディングとなり、自然とファンが育成される
3つめのメリットは「ファンの育成につながる」ことです。
具体例は「Airbnb」のコミュニティです。このコミュニティは宿泊施設を貸し出すホストのためのコミュニティであり、ローカル別にオフラインコミュニティが構築されています。リアルでのコミュニケーションの場が提供されていることにより、サービスへのエンゲージメントの高まりや体験談・口コミによるブランディング効果も期待できるのです。
ユーザー同士の交流が強まるためのプラットフォームや交流の場を提供することにより、コミュニティは絆を強くします。結果、コミュニティの目的がより際立つようになり、提供する企業にとっての利益にもつながるのです。
イベントなどを通じてコミュニティが活性化する
4つ目のメリットは「イベントを通じたコミュニティの活性化が企業利益につながる」ことです。
先ほど紹介した「Salesforce」のコミュニティ「Trailblazer Community」では、ユーザー同士の課題解決を促進するために「MVP制度」が導入されています。MVPになるとさまざまな特典が用意されているため、コミュニティのユーザーはMVPを目指してコミュニケーションを活発に行います。
このコミュニティの目的は「ユーザー間での課題解決」であり、その目的を達成するためには質問に対して回答してくれるユーザーを確保しなければなりません。ユーザーの善意だけに期待してしまうと、回答者が十分に確保できず、コミュニティは停滞して目的を達成できなくなってしまいます。
コミュニティの目的が何であれ、健全に活性化したコミュニティはその目的を十分に達成し、企業に利益をもたらします。何をもってコミュニティを活性化するか、その手法は企業やコミュニティの性質に依存しますが、費用対効果を考えて得られる利益以上の特典にならないようなバランス調整も欠かせません。
コミュニティの種類と具体例
コミュニティには、大きく分けて「オンライン」と「オフライン」の2つの領域があります。
オンラインコミュニティ
「オンラインコミュニティ」とは、オンライン上でコミュニケーションが行われるコミュニティです。WEBサイトやSNSなどがこれに該当し、ユーザーはパソコンやスマートフォンなどのデバイスを通じてコミュニティに参加します。
オンラインコミュニティは、地理的な参加難易度に依存しないというメリットがあります。例えば北海道や沖縄から、東京にある会場で開催されるイベントに参加することは簡単なことではありません。
しかし、オンラインという領域は、そうした地理的な制約を一切受けません。日本全国に限らず、世界中さまざまな地域に住んでいるユーザーがインターネットを通じてコミュニティに参加することができ、国境を越えた交流も活発に行われています。
また、オンラインコミュニティは、情報が拡散しやすいという特徴があります。いわゆる「口コミ」「レビュー」といったユーザー目線の情報源は、企業にとってメリットにもデメリットにもなります。良い評判が拡散されれば利益を向上させられますが、悪い評判が拡散すれば利益を損なうことになりかねません。
オフラインコミュニティ
「オフラインコミュニティ」は、いわゆる「リアルのコミュニティ」のことです。「オフ会」などが有名であり、コミュニティに参加しているユーザーが実際に会ってコミュニケーションを行う形式となります。
オフラインコミュニティは、コミュニティの熱を高めるのに役立ちます。オンライン上だけでやり取りされるコミュニケーションには、どうしても熱の高まりに限界があります。そのため、オンライン中心のコミュニティでも定期的にオフ会などを開催し、ユーザーの満足度を高めることで、コミュニティ全体の熱量を高めることにつながります。
しかし、オフラインコミュニティは、地理的な要因が大きく関係します。前述の通り北海道や沖縄から東京に行くには時間がかかり、世界規模で見れば余計にその難易度が高いことがわかります。また、感染症や災害などで外出自体が困難になると、イベントの開催自体が難しくなってしまいます。
コミュニティ構築の手順
次に、企業が自社コミュニティを構築するための手順を4つのステップに分けて解説します。
STEP1|コミュニティを作る目的を考える
まず、「コミュニティを作る目的を考える」ことからスタートします。
企業がコミュニティを構築することは、上手に活用できれば最終的に企業にとって利益につながるのですが、具体的な目的はさまざまです。例えば以下のような内容が考えられます。
- 自社製品やサービスの情報をユーザーに広める
- 自社製品やサービス、ブランドのファンを増やし、育成する
- 自社製品やサービスに関する情報(評判や不満に感じていること等)を収集する
- ユーザー同士で問題解決を行う
複数の目的を達成するためのコミュニティを構築するのか、既存コミュニティでは達成できない目的を果たすためのコミュニティを新たに構築したいのか、目的に応じて今後の流れにも大きく関わります。目的を明確にしなければ、質の良いコミュニティを構築することは難しいのです。
STEP2|顧客の属性を決める
次に「顧客の属性を決める」というステップになります。
一般的にコミュニティというものは「特定の共通点を持った人同士でつながるための場所」となります。つまり、コミュニティを構築する上で「どんな属性のユーザーを集めたいのか?」を明確にしなければなりません。
顧客の属性にもさまざまな項目があります。
- 年齢
- 性別
- 家族構成
- 住んでいるエリア
- 趣味嗜好
- 保有資産の総額や種類
具体性を持たせるほど参加が期待できるコミュニティユーザー数は限定されますが、コミュニティ構築の目的をより高い精度で発揮するためには顧客の属性を、コミュニティ構築の目的に合わせてしっかりと決めることが重要です。
STEP3|市場の分析
次のステップでは「市場の分析」を行います。
コミュニティの目的と顧客の属性を決めたら、対象となる顧客がどのくらい市場に存在しているのかを分析します。それと同時に、その市場に対して競合他社がどれくらい参入しているのか、自社コミュニティの想定ユーザーとターゲットが被っているのはどの程度かを確認してください。
STEP4|具体的な要素を落とし込む
3つのステップで決めたことを、具体的な要素として落とし込んでコミュニティ構築をスタートします。
具体的な要素とは、以下の内容です。
- コミュニティの内容
- コミュニティの想定規模
- コミュニティを構築する領域
- コミュニティを活性化するための手段
- コミュニティ構築および運用のためのコスト
国内外の企業のコミュニティ事例
次に、国内外さまざまな企業が運用しているコミュニティの中から、参考になる3つのコミュニティを紹介します。
Spotifyのユーザーコミュニティ
1つ目は「Spotifyのユーザーコミュニティ」です。このコミュニティでは、ユーザーは以下のアクションを取ることができます。
- 質問の投稿や問題の解決方法を見つけること
- 新しい機能や新しい使い方を見つけること
- アプリ改善の提案や賢い使い方の提案
- 音楽に関するチャットやプレイリストのシェア
企業側はユーザーから意見を吸い上げ、サービスの改善に役立てています。一方、ユーザーは自身の意見が参照されることや、実際にサービスの改善につながることでメリットを感じるだけでなく、問題解決に役立つ投稿をするとポイントを獲得できて特典と交換できるというメリットもあります。
無印良品の「IDEA PARK」
2つ目は無印良品のコミュニティ「IDEA PARK」です。
このコミュニティでは「リクエスト」という項目が用意されており、無印良品の商品に関して「あったらいいな」「こうしたらいい」というリクエスト(アイデア)を投稿できます。投稿したリクエスト内容はコミュニティ内で公表され、他のコミュニティユーザーによってコメントなどの形で応援できます。
リクエストに関するアクションを行うことで「MUJIマイル」という独自ポイントが付与されます。獲得したMUJIマイルは無印良品の店舗で決済に利用できます。
Airbnbのオフライン交流
3つ目は「Airbnb(エアビーアンドビー)のオフライン交流」です。
Airbnbではホスト同士で体験談やアドバイスをシェアできる交流の場として「Airbnbコミュニティセンター」というコミュニティを運営しています。基本はオンラインコミュニティですが、地域別にオフラインでの交流も活発に行われており、コミュニティの熱量を高める効果が評価されています。
失敗しないコミュニティ構築のコツ
最後に、自社コミュニティを構築するにあたって失敗しないためのコツを5つ紹介します。
参加者との一体感の演出する
1つ目は「参加者との一体感を演出する」ことです。
コミュニティにはさまざまな要素がありますが、多くのユーザーにはユーザー間で一体となってコミュニケーションを行いたいというニーズがあります。企業(コミュニティマネージャーが中心)もこれに参加しますが、上から目線はもちろん、遜ってのアプローチもユーザーには歓迎されません。
コミュニティの目的はさまざまですが、活発にコミュニケーションが繰り返されなければその目的を達成することは難しいです。企業はユーザーと一体となってコミュニケーションに参加し、コミュニティの熱量を一緒に高めるという姿勢を見せることが重要なのです。
限定情報の発信で付加価値をつける
2つ目に「限定情報を発信して、コミュニティ参加に付加価値をつける」ことです。
コミュニティの目的はさまざまですが、ユーザー同士のコミュニケーションを活発にするためにはユーザー数を確保することも重要です。有象無象で良いというわけではありませんが、ターゲットとなる属性をもったユーザーをしっかりと確保し、コミュニティの参加者として維持することはコミュニティの運営には欠かせない要素です。
ユーザーの参加を促し、コミュニティ内に結び付けておくためには、何らかの「コミュニティに参加していることによって得られるメリット」を用意する必要があります。その1つとして役立つのが「コミュニティユーザー限定の情報」です。コミュニティに参加しているユーザーに限定して情報発信することで、ユーザーはコミュニティ参加によるお得感を感じられるだけでなく、限定情報が購買につながる可能性があるという企業側にとってもメリットがあると考えられます。
収益は見込まない
3つ目は「コミュニティに対して収益性を見込まない」ことです。
コミュニティはあくまで「ファンを獲得するため」のものであり、露骨に売上げを追求してしまうとユーザーが離れてしまう可能性が高いです。最終的に企業はコミュニティから利益を獲得したいところではありますが、有料プランの提供や露骨なセールスの横行は、ユーザーにとって居心地やメリットを感じられないコミュニティへの変化につながります。
コミュニティはあくまでも「ユーザー同士でコミュニケーションをとってもらうための場」であることを念頭に置く必要があります。企業が得られる利益は、コミュニティ内でコミュニケーションが活性化することで得られるということを理解しておきましょう。
新規メンバーが馴染める環境作り
4つ目は「新規メンバーが馴染めるような環境を作る」ことです。
コミュニティには、以前から商品・サービス・ブランドのファンだった、いわゆる「コアなファン」も多いです。しかし、コアなファンという限定的なユーザー数だけでは、コミュニティは盛り上がりません。
そこで新規メンバーをコミュニティに迎え入れる必要があるのですが、すでにコアなファンのみで構築されている濃厚な雰囲気に対しては、どうしても尻込みしてしまう人が多いでしょう。そうならないように、コアなファンではない人でもコミュニティに参加しやすいように「初心者歓迎」のムード作りと、そのための具体的なアクションを実施することを忘れないようにしましょう。
ユーザーからユーザーへのシェアを促す
5つ目は「ユーザー間のシェアを促進する」ことです。
新規顧客の獲得のためには情報発信が欠かせませんが、昨今の流れを鑑みるとユーザーは「企業からの公式情報」よりも「ユーザー目線の情報」のほうを重視する傾向にあります。つまり、既存ユーザーからの情報発信を促すことが、新規顧客の獲得につながるということです。
これは、コミュニティの目的が「ユーザー間でのトラブル解決」の場合でも同じことが言えます。ユーザー間での情報のやり取りが活発でないと、コミュニティや企業にとって利益確保などの目的は達成できません。ユーザーからの情報発信を促すための「リワード制度」などをコミュニティに盛り込むことをおすすめします。
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