「コミュニティマネジメント」という言葉を耳にする機会が多くなりました。実はビジネスにも活用できる概念なのですが、調べてみても難しい言葉ばかりでわかりにくいと悩んでいる人も多いです。そこで、本記事ではコミュニティマネジメントについてわかりやすく解説します。
コミュニティマネジメントとは?
コミュニティマネジメントとは、特定のコミュニティにおいてユーザーとの交流を通じてコミュニティの成長を促すことです。コミュニティマネージャーがその責任者となり、コミュニティの活性化や健全化のための施策実施や監視などの実務を行います。
ビジネスにおけるコミュニティマネジメントは、顧客のLTV(Life Time Value=顧客生涯価値)を最大化することを目的としたマーケティング手法の1つです。特定の企業ブランドやサービス、商品に関心があるユーザーを結びつけてコミュニティを作成し、そのコミュニティを管理・成長させることが中心となります。
ここで取り扱う「コミュニティ」は、しばしば「オーディエンス」と混同されることがあります。オーディエンスとは「聴衆・観客」という意味であり、ユーザー同士のつながりがありません。一方でコミュニティは中心媒体(企業など)とユーザーだけでなくユーザー同士もつながることで形成され、コミュニティマネジメントにおいてはこの「ユーザー同士のつながり」に注目します。
コミュニティマネジメントの起源
コミュニティマネジメントは「コンピューターゲーム業界」が起源であるといわれています。1990年代の半ばになると「オンラインゲーム」の流行が始まり、円滑な運営や問題解決のために開発者とユーザーの間でコミュニケーションを行うことが求められました。
オンラインゲームを取り巻く環境において、マネジメントやマーケティングなどをまとめて取り仕切る「管理者」が必要になりました。これが、コミュニティマネジメントおよびその責任者であるコミュニティマネージャーの始まりであるとされているのです。ゲーム業界を起源としながらも、現在ではさまざまなビジネス・サービスにおいてコミュニティマネジメントが重要視され、実施されています。
コミュニティマネジメントが注目されはじめた背景
現在、コミュニティマネジメントは企業の成長戦略の一環として注目されていますが、その背景には「消費者のライフスタイルが変わった」ことが大きな理由であるとされています。具体的には「SNSが普及した」ことが中心となり、コミュニティマネジメントの必要性を引き上げたのです。
以前の購買行動は「AIDMA」または「AISAS」の行動原理に基づいていたため、「とにかく認知させて売る」という考えが一般的でした。そのためにはテレビコマーシャルを打ち出すなどの前時代的で単純な戦略が有効だったのですが、ライフスタイルの変化に伴い消費者の購買行動は「〇〇離れ(例:若者のビール離れ)」のような縮小化傾向が進んだのです。
そんな現代において、消費者の購買意欲をかきたてるためには「強力な口コミ」を利用する必要が出てきました。現代においてその最たる存在として、ツイッターやインスタグラムに代表されるSNSの存在を無視することはできません。SNSの影響力は非常に強く、プラスに作用することもあれば、時にマイナスに作用することもあります。
企業にとって自社商品やサービスの認知度を高め、購買行動につなげて自社の利益を確保するためには、SNSなどにおいて自社のコミュニティを構築してそのコミュニティ内でのユーザー間のやりとりを活性化することが重要になりました。活発なやりとりの推進だけでなく、間違った情報の流通などでマイナスの影響を及ぼさないように正しい情報を提供して間違った情報流通を監視し、コミュニティを健全に機能させるためにコミュニティマネジメントの重要性が注目されたのです。
コミュニティが形成される場所
コミュニティマネジメントにおいて活動の中心となる「コミュニティ」は、しばしばSNSとイコール関係にあると考えられることがありますが、厳密には異なります。SNSもコミュニティマネジメントにおける重要なコミュニティ領域の1つではありますが、コミュニティマネジメントの対象となるコミュニティはSNSの領域に限定されません。
ソーシャルメディアマネジメントとの違い
コミュニティ=SNSという勘違いと同じく、混同されやすい概念として「ソーシャルメディアマネジメント」という手法があります。ソーシャルメディアマネジメントにおけるマネジメント対象となるコミュニティはSNSのみです。一方でコミュニティマネジメントの場合は包括的な概念となり、対象となるコミュニティは前述のさまざまな領域に及びます。
つまり、両者の違いは「マネジメント対象となるコミュニティの規模や対象が異なる」ことです。なお、会社の方針や商品によっては、ソーシャルメディアマネジメントを中心として導入する方が効果的な場合があります。
コミュニティマネジメントで期待できる効果
コミュニティマネジメントを適切に運用することにより、5つの効果が期待できると考えられます。
認知の拡大
コミュニティマネジメントが適切に機能すれば、自社ブランドや商品などの認知を拡大する効果が期待できます。インターネットの普及により、消費者は「自身が欲する情報」を選択し、より集中的に情報を取得できるようになりました。「口コミ」「質問サイト」のように、ネット上のユーザー間で情報のやりとりが行われ、それが認知や購買といった行動につながることが多くなったのです。
コミュニティマネジメントによりコミュニティ内での情報流通を活性化させることで、より多くのユーザーに自社ブランドや自社商品のことについて知ってもらうことができます。また、すでに自社ブランドや商品・サービスについて知っているユーザーに対しても、より深い知識を身につけてもらうことにつながるのです。
サービスの活性化
コミュニティマネジメントは、サービスの活性化につながる可能性があります。オンラインサービスにおいては、ユーザー同士の交流がコミュニティの熱量を高めるという性質があるのです。交流の場を提供し、交流のきっかけとなる起爆剤を適宜投入することで、サービスの利用が活発化します。
サービスの改善、開発
コミュニティマネジメントを進めることで、サービスの改善や開発が進むというメリットがあります。コミュニティ内ではユーザーの意見が自然と集まるため、ユーザーのデータ分析ができるのです。「〇〇は改善したほうがいい」という漠然な情報だけでなく「こうしたほうがいい」「これは以前の方が良かった」という具体的な問題点や改善点がユーザーから届くため、質の良い改善・開発に役立ちます。
離脱の防止
コミュニティマネジメントは、ユーザーの離脱を防ぐという役割があります。サービスには少なからずユーザーごとに不満に感じることがあり、それがきっかけとなってサービスの利用中止につながってしまうのです。
しかし、活発なコミュニティを維持できていれば、コミュニティ内でユーザー同士の情報交換により疑問を解決してくれる可能性があります。企業側が対処しきれない内容であっても、企業が介在せずともユーザー間で離脱防止に必要な情報のやり取りが完結することで離脱防止につながり、しかも最低限の手間と費用で済むというメリットもあります。
ユーザーのファン化
コミュニティマネジメントは、ユーザーを「ファン」にすることができるという側面もあります。コミュニティマネジメントは自社の「ブランドの啓蒙」や「商品・サービスの告知」などを行います。
そうした情報を積極的にコミュニティに流し、ユーザー間でやりとりする流れが整っていることにより、今まで自社ブランドや自社商品を知らなかったユーザーをファン化させることができるのです。
コミュニティマネジメントの具体的な5つの取り組み
コミュニティマネジメントの重要性について把握できたところで、実際にコミュニティマネジメントを実施するにあたって必要な5つの取り組みについて解説します。
どの手法を中心に用いることが効果的なのかについては業種などの関係もありますが、可能な限り幅広い領域でコミュニティを形成することがおすすめです。
コミュニティサイトを運営する
コミュニティマネジメントを実施するためには、マネジメント対象となるコミュニティを用意する、つまり「コミュニティサイトを運営する」ことが基本となります。コミュニティサイトには、以下の要素を盛り込んでください。
- 質問の投稿機能を実装
- ナレッジの投稿機能を実装
- ユーザーのランク機能を実装
- 口コミ評判の投稿機能を実装
- 記事コンテンツの制作
SNSなどの既存のコミュニティ媒体と比較して自由度が高く、より自社向けのコミュニティを構築してマネジメントすることができます。
メルマガ配信する
コミュニティマネジメントには「メルマガ配信」も有効な手段の1つです。メルマガと聞くと少し古典的なイメージを感じるかもしれませんが、最近になってメルマガの価値が再認識されており、必要な情報を効率よく取得する方法としてメルマガの活用が重要視されています。
優れたメルマガの条件としては、情報の量や質が優れているだけでなく、親しみを感じることや、アクションにつながる要素(クイズなどのエンタメ性やURL誘導など)が組み込まれていることも重要です。
SNSアカウントを開設する
コミュニティマネジメントでは数多くの領域におけるコミュニティを対象としますが、現代において「SNS」の存在を無視することはできません。ツイッターやインスタグラムなどの有名どころは確実に押さえておきましょう。また、新しいSNSやそれに準ずるツールが登場したら可能な限りアカウントを開設しておき、コミュニティの幅を広げておくことをおすすめします。
動画チャンネルを開設する
ツイッターやインスタグラムなどに負けず劣らず重要なツールは「動画チャンネル」です。YouTubeなどの動画投稿サイトでチャンネルを開設することで、多くのユーザーに情報量の多い動画媒体で情報公開できるメリットがあります。動画投稿は定期的に行い、チャンネル登録者数を増やしていきましょう。
リアルイベントを開催する
ここまでオンライン中心の方法を紹介していきましたが、コミュニティマネジメントの領域は「リアル」の世界でも重要な要素を含んでいます。いわゆる「オフ会」「インタビュー」「ミートアップ」といったイベントを開催することで、より多くのユーザーを自社のコミュニティに参加させることができます。
業種によっては、ネット上では展開しにくい情報を提供できることで効率よくコミュニティマネジメントを進めることができる可能性もあります。
コミュニティマネジメントに役立つ書籍
最後に、コミュニティマネジメントを実施する上で参考になる書籍を3つ紹介します。
コミュニティ・キャピタル論
最新の社会ネットワーク理論および綿密なフィールド調査に基づき「特定のコニュニティ内の同一尺度の信頼がもたらすつながり力」に着目した内容となっています。本書は全8章構成、「近江商人」のテーマから始まり、近代の企業におけるコミュニティの特徴について読み進めることができます。
成功企業における経済繁栄の根源とその維持の理由など、ビジネスのヒントを探る手掛かりとなる1冊となるでしょう。著者は、一橋大学の名誉教授であり組織間関係論を専門とする西口敏宏氏と、龍谷大学経済学部教授であり中小企業論を専門とする辻田素子氏の2名です。最新の社会ネットワーク理論および綿密なフィールド調査に基づき「特定のコニュニティ内の同一尺度の信頼がもたらすつながり力」に着目した内容となっています。本書は全8章構成、「近江商人」のテーマから始まり、近代の企業におけるコミュニティの特徴について読み進めることができます。
コミュニティデザイン 人とつながるしくみをつくる
「新しくモノを作る」よりも「使う人たちとのつながり」の重要さに気づき、コミュニティデザインを通じて社会の課題を解決してきた足跡を知ることができる内容となっています。「『つくらない』デザインとの出会い」に始まり、人と人のつながりであるコニュニティの力について読み進めていくことができます。
さまざまな人物が登場する本書は、注釈の多さも相まってコミュニティデザインについて語ることの難しさと重要さを垣間見ることができます。著者は、元東北芸術工科大学教授・芸術学部コミュニティデザイン学科学科長であり、数々のコニュニティデザインやイベント、著書に携わってきた山崎亮氏です。
コミュニティ・オブ・プラクティス
あるテーマの関心や問題などを共有して相互交流をする集団「コミュニティ・オブ・プラクティス」について論じる書籍です。グローバル企業による実践コミュニティを核とした「価値創造実現」について学ぶことができます。
著者はエティエンヌ・ウェンガー氏、リチャード・マクダーモット氏、ウィリアム・M・スナイダー氏の3名、櫻井祐子氏が翻訳し、野村恭彦氏が監修しています。