コミュニティマーケティングとは、コミュニティを通して自社の商品・サービスをマーケティングする手法です。顧客のロイヤリティを高め、新規顧客の開拓へとつなげます。
今回はコミュニティマーケティングの意義や注目される背景を説明し、メリットや課題、推進していくポイントについて解説します。成功事例もご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
コミュニティマーケティングとは
コミュニティマーケティングとは、コミュニティを活用して顧客を増やす手法です。
従来のマーケティングが企業から顧客に向けた販売促進活動であるのに対し、コミュニティマーケティングは既存顧客同士の交流を通じて顧客ロイヤリティを高めます。
ここでは、コミュニティマーケティングの定義や目的、従来のマーケティング手法との違いをご紹介します。
既存顧客を対象とするマーケティング手法
コミュニティマーケティングとは、既存顧客を中心としたコミュニティを活用し、自社のファンを増やす手法です。コミュニティはオンライン・オフラインを問わず、自社商品・サービスをテーマに集まった既存顧客同士が交流する場所です。
熱量の高いコアなファンによって形成された交流の場で、商品・サービスをより良いものに改善しながら顧客単価を高めます。
コミュニティでは既存顧客との関係を強めるとともに、交流を通じて新たな顧客を発掘することも重視されています。交流で顧客とのつながりを強めるという手法は個人・法人問わず効果的であり、BtoC企業だけでなく法人を対象とするBtoB企業でも有効です。
コミュニティマーケティングの目的
コミュニティマーケティングの取り組みには、以下のような目的があります。
- 顧客インサイトの取得
- 顧客ロイヤリティを高める
- カスタマーサポートを効率化する
コミュニティマーケティングの実施で、顧客自身も自覚していない直感や本音といった「顧客インサイト」の取得が可能です。企業の商品・サービスやブランドに共感する顧客が集まるコミュニティだからこそ、アンケート調査などでは把握できない顧客の本音に触れることができます。信頼性の高い顧客の声は、重要なデータとして今後の商品開発にも活かせます。
また、コミュニティマーケティングは企業やブランドに愛着や信頼、親しみを感じる顧客ロイヤリティの向上も目的のひとつです。顧客ロイヤリティの高まりはLTV(顧客生涯価値)の向上につながり、企業の長期的な売上に貢献します。
さらにコミュニティマーケティングには、企業のカスタマーサポートの負担も軽減する目的もあります。ユーザーコミュニティ内では顧客同士により商品・サービスについての質疑応答が活発に行われ、不安や疑問の解消が図られるためです。
これまでのマーケティング手法との違い
コミュニティマーケティングと従来の手法との大きな違いは、アプローチの対象です。従来の手法では潜在顧客に訴求して見込み顧客を増やすという展開であるのに対し、コミュニティマーケティングは既存顧客に訴求し、見込み顧客を増やすという点で異なります。
従来の手法では不特定多数のターゲットに同じアプローチを行い、潜在顧客から新たな顧客を生みだします。
一方、コミュニティマーケティングでは自社の商品・サービスについてよく知り、利用した経験もある顧客をターゲットとし、そこから見込み顧客や潜在顧客へと訴求を広げていくのが特徴です。
これまでのマーケティングは企業や商品・サービスが中心となり、一方向の働きかけに過ぎませんでした。しかし、コミュニティマーケティングでコミュニティに属する顧客は、商品・サービスを通じて体験価値を共有する企業パートナーとなります。
1人の顧客という範疇ではなく企業運営の一翼を担うメンバーという意識を持ち、商品・サービスを通じて得た体験をより多くの人に知ってもらおうと情報発信を行うようになるのです。
口コミやSNSによりファンの肯定的なコメントが発信されることで、企業は広告費を抑えながら新たな顧客を獲得できるようになります。
UGC(ユーザー生成コンテンツ)による拡散効果も期待できます。UGCとはUser Generated Contentsの略で、ユーザーの手により制作されたコンテンツの総称です。
SNSやブログ、動画投稿サイトなどの各種ソーシャルメディアに投稿されたコンテンツが該当し、それらへのレビューなども含まれます。近年はUGCをマーケティングに活用する企業も増えている状況です。
コミュニティマーケティングが注目される背景
近年、コミュニティマーケティングが注目されている背景には、主に以下の3つがあげられます。
- 従来のマーケティング手法の限界
- SNSの普及による個人の発信力の増大
- 顧客ロイヤリティの重要性が増している
少子高齢化による人口減少で新規顧客の数は減少傾向にあり、既存顧客の単価やロイヤリティを高めることが重要となってきています。従来の、顧客全体に大量生産・販売を行うマーケティング手法に限界がきていることがコミュニティマーケティングに注目が集まる理由のひとつといえるでしょう。
購入意思決定に際しては商品の性能や価格の安さだけに着目するのではなく、企業の考え方や理念も判断材料にしている顧客も増えています。また、企業の考え・理念を知る手段として、WebサイトやSNSが重視されている傾向にあります。そのため、企業理念をダイレクトに伝える手段としてコミュニティが求められ、コミュニティマーケティングにも注目が集まっているのです。
また、近年はX(旧Twitter)やInstagramなどSNSの普及により、個人の情報発信力が増大しています。顧客は商品についての感想をSNSに発信するなど、商品・サービスを受け取るだけの存在から、商品をアピールできる主体的な存在へと変化してきました。
購入の意思決定では、購入者の口コミや評判に影響を受けるという消費者は少なくありません。SNSで好意的な情報を発信してくれる顧客を増やすことは、効率的なアピール効果があります。
また、顧客が自ら商品を利用した感想や意見を発信するなかで、企業は個々の顧客が持つ深いニーズや課題を汲み取れるようになりました。
市場競争が激化する中で生き残るには、競合との差別化も必要です。差別化ポイントとして重視されるのが顧客ロイヤリティの向上です。
顧客ロイヤリティが高く、自社商品・サービスに信頼や愛着を感じている顧客は高い購買頻度と購買単価が期待でき、売上の向上につながります。
マーケティングには、「1:5の法則」と「5:25の法則」という考え方があります。1:5の法則とは、新規顧客獲得にかかるコストは既存顧客を維持するコストの5倍かかるという法則です。5:25の法則とは、顧客離れを5%改善すれば、利益は最低でも25%改善されるという法則です。
ファンマーケティングで顧客ロイヤリティを高めることで、このような効果が期待できることも、注目される背景となっています。
コミュニティマーケティングの手法
コミュニティマーケティングの手法は、主にコミュニティサイトの立ち上げやハッシュタグの活用によるSNSでの発信、オフラインイベントなどがあげられます。このうち、SNSは情報拡散や企業ブランドの認知度アップに貢献し、コミュニティサイトは顧客ロイヤリティの醸成に効果的です。
それぞれの手法について、詳しくみてみましょう。
ファンコミュニティを立ち上げる
コミュニティマーケティングで代表的なのが、自社でユーザー専用のファンコミュニティを立ち上げる方法です。運営方法は企業によりさまざまで、ファンコミュニティの一部またはすべてのコンテンツを公開しているケースもあります。
近年は一人ひとりの既存顧客と長く良好な関係を続けることが重要であり、その役割を担うのがファンコミュニティです。
ファンコミュニティは、顧客のファン化に効果的です。まず、企業の価値観に共感して愛着を持ち、信頼を得て応援するファンへと変わります。
ファンコミュニティの形式は、主にコンテンツ投稿型と課題解決型に分けられます。コンテンツ投稿型とは、顧客が商品・サービスの有効な活用法などの話題を投稿し、ほかの顧客が参考にするという仕組みです。
課題解決型は、投稿された質問に対して、別の顧客が回答するという形式です。課題解決型は、同じ疑問や不明点がある顧客が見て問題を解決できるというメリットもあります。
SNSでハッシュタグを活用する
SNSでハッシュタグを活用するという方法もあります。企業名や商品名をハッシュタグにして情報を発信したり、専用のハッシュタグを使って投稿を呼びかけたりして企業の認知度を高めます。
ハッシュタグを検索して投稿に「いいね」やリツイートなどのリアクションを顧客に届けることもできるのもメリットです。
Twitterには、「Twitterアナリティクス」という無料の機能があり、反応を得やすいツイートの傾向を分析するのに役立ちます。「自社のツイートに対してどれくらいの人数が閲覧したか」「フォロワー数の増減」などの分析が可能です。
コミュニティサイトは企業と顧客・顧客同士の交流を通じてファンを増やし、ロイヤリティを醸成させるのに対し、SNSは外に向けて情報を拡散するという役割があります。
オフラインのイベントを開催する
コミュニティマーケティングはオフラインでも行われます。商品発表会やファンミーティングなどのイベントを開催し、顧客がオフラインで交流できる場を設定するという方法です。
SNSのハッシュタグを活用し、オフラインイベントの情報を広めることもできます。
オフラインイベントに参加する顧客は、特に自社商品やサービスに強い関心があり、顧客ロイヤリティも高い層が集まると考えられます。企業のファンとして共通の価値観を持つ顧客同士が交流を深めることで、さらに良い口コミを発信してもらえる可能性もあるでしょう。
コミュニティマーケティングのメリット
コミュニティマーケティングで得られるメリットは、主に以下の3つです。
- 顧客の声を汲み取れる
- 顧客ロイヤリティを高めてLTVを向上させる
- サポート体制を補う
コミュニティを通じ、商品・サービスの改善につながる顧客の声を直接聞けるのは大きなメリットです。また自社のコアなファンを増やし顧客ロイヤリティを高められるという利点もあります。
コミュニティマーケティングのメリットをみていきましょう。
顧客の声を汲み取れる
コミュニティの交流は企業と顧客との距離がより近くなり、リアルな声を汲み取れるのがメリットです。実際に商品・サービスを利用している顧客に利用しづらいなど不満な声があれば拾い上げ、改善に役立てようとする姿勢を見せることで信頼につながるでしょう。
実際に改善を実施すれば、顧客の満足度も高まります。顧客の不満が増大してクレームになる前に対応できることで、トラブルを未然に防止できるのもメリットです。
顧客のロイヤリティを高め、LTVを向上させる
コミュニティマーケティングは、顧客のロイヤリティを高められるのもメリットです。コミュニティで交流を重ねることは企業への愛着や親しみ、信頼感という感情を養います。このような顧客ロイヤリティの向上はモノの継続購入やサービスの契約更新にもつながるでしょう。
ロイヤリティの高い顧客はコアなファンとなり、競合他社に移行することなく周囲の人に勧めるなどの行動も期待できます。また、SNSで積極的に情報を発信してくれることもあるでしょう。
ロイヤリティの高い顧客が増えることで、企業の成長も安定します。ロイヤリティの向上は、LTVの最大化を図れるのもメリットです。LTVとは「Life Time Value」の略で、「顧客生涯価値」と訳されます。顧客が自社と取引を開始してから終了するまでの期間に、どれだけの利益をもたらしてくれるかを表す指標です。継続的に商品・サービスを利用し続けてくれるロイヤル顧客が増えることで、LTVの数値も最大化が期待できるでしょう。
サポート体制を補う
コミュニティでは企業と顧客の交流だけでなく、顧客同士の交流も促されます。コミュニティの活性化により、簡単な質問や疑問点は顧客同士で解決することも多くなり、企業のサポート体制を補う役割を果たします。人件費の削減にもつながるでしょう。
コミュニティサイトを立ち上げても、当初は積極的に情報を発信する顧客は少ないかもしれません。顧客同意の交流を見ることで、商品・サービスの改善点を見つけたり、今後の開発のヒントにつながったりすることもあります。
コミュニティマーケティングの課題
メリットの多いコミュニティマーケティングですが、課題も少なくありません。すぐに成果が出るとは限らず、交流が活性化するには時間がかかります。また、サイトの管理運営にはスキルも必要で、サイト管理とマーケティング双方の専門的スキルが要求されるでしょう。
ここでは、コミュニティマーケティングが抱える2つの課題について解説します。
成果が出るまでに時間がかかる
コミュニティマーケティングは、成果が出るまでにある程度の時間がかかることを把握しておきましょう。コミュニティを立ち上げてから参加者が増えるまでには時間が必要であり、交流が活性化して顧客がロイヤリティを高めるまでにはさらに時間がかかります。
立ち上げからコミュニティとして機能するまでのおおまかな流れは、以下のとおりです。
- 顧客が徐々に集まる
- 顧客がコミュニティ内で発言し始める
- コミュニティの目的が顧客に理解される
- 顧客が情報交換を活発に行う
- コミュニティ運営を担う顧客が増える
- 顧客同士の信頼関係が生まれ、コミュニテイが活性化する
既存顧客のロイヤリティ向上と新規顧客の獲得といった目的が達成されるまでには、長いときは1年〜数年程度かかる場合があり、長期的な計画を立てる必要があるでしょう。
短期的な成果が得られないため、社内での理解が得られないという問題もあります。理解が得られなければ長期運営は難しくなるため、長期的な取り組みが必要であることや得られる成果について、導入前の周知が大切です。
専門のスキルが求められる
コミュニティマーケティングの実施では、専門のスキルが求められます。コミュニティサイトの管理運営やSNSの運用、顧客とのコミュニケーションなど、従来のマーケティングとは異なる新しいスキルが必要です。
コミュニティの担当者にスキルがない場合は顧客同士の交流を盛り上げることができず、顧客ロイヤリティの向上やファンの形成がうまくいかない可能性があります。社内にリソースがない場合、サポート体制のある外部のツールを利用するなどの対応が必要です。
また、ほかの業務と兼任すると、どうしても運営に集中できず中途半端な対応になってしまします。そのため、専任の担当者をおいて運営することが大切です。
コミュニティメンバーの中に入って交流を促したり、会話を盛り上げたりするなどの取り組みも必要になるでしょう。
コミュニティマーケティング推進のポイント
コミュニティマーケティングの実施は、コミュニティの目的を明確にすることから始めることが大切です。また、コミュニティマーケティングを推進していくためには専任の体制で臨まなければなりません。
コミュニティが活性化するまでは顧客同士の交流に任せず、企業側が関係構築に努めることも必要です。
ここでは、コミュニティマーケティング推進のポイントを解説します。
コミュニティの目的を明確にする
コミュニティマーケティングを実施するにあたり、目的を明確に打ち出すことが必要です。目的を明確にしないとただ顧客が集まり雑談をする場所になるだけで、マーケティングの効果は期待できないでしょう。
目的が定まらなければ、それを実現するための具体的な方法が決められず、ルールづくりもできません。
コミュニティマーケティングの目的は、主に以下のようなものがあげられます。
- 顧客の声を商品・サービスの改善に活かす
- 顧客のロイヤリティを醸成する
- 新規顧客獲得に向けたチャネルを構築する
- カスタマーサポートのコストを削減する
目的を明確にしたら、それに合うツールが見つかります。商品・サービスの改善に活かすために顧客のリアルな声を集めたい場合には、匿名で意見を発信できるSNSや、コンテンツ投稿型のコミュニティサイトを活用するとよいでしょう。
顧客のロイヤリティを醸成するには、顧客同士の交流を深めるコミュニティサイトを運営し、カスタマーサポートのコストを削減したい場合はQ&Aを目的としたコミュニティサイトを立ち上げるといった方法があげられます。
専任の体制を整える
コミュニティマーケティングは長期的な施策になるため、専任の体制が必要になるケースもあります。通常の業務と兼務する場合、担当者の負担が大きくなるためです。
「コミュニティマネージャー」を導入するという方法もあります。
コミュニティマネージャーはコミュニティの基盤を形成し、継続的に運営しながら利用者の満足度を高める役割です。コミュニティに集まる顧客の交流を促し、トラブルを未然に防ぎながらコミュニティを安全に運営します。専任の役職を配置することで、コミュニティ内で問題が起きた場合でも素早く対応できるでしょう。
コミュニティマネージャーは顧客とコミュニケーションを取り、コミュニティ活性化のための施策の企画・実行などを行い、そのための幅広いスキルが求められます。
また、コミュニティマネージャーはコミュニティの活性を促す役割も担います。
コミュニティの活性化に必要なのは、以下の2点です。
- 顧客の課題を解決する
- 商品・サービスの利用で得られる感動や喜びなどの体験的価値を共有する
顧客の課題解決は価値を生み出すものですが、コミュニティマーケティングでは、特に顧客にとって最優先で特別な課題の解決という強いインパクトが必要です。
さらにプラスの価値を生み出す体験価値の提供が、コミュニティを活性化させます。
顧客との関係構築に注力する
コミュニティを運営する際は、顧客とのコミュニケーションに努めることも大切です。顧客同士の交流を促すとともに、企業も顧客の発言に反応し、顧客の疑問に回答するなどの行動をするなど関係性の構築に注力しましょう。
顧客は企業から反応が返ってくることで誠意を感じ、コミュニティへの積極的な参加を促されます。
コミュニティの運営では、コミュニティ参加者に満足してもらうことでロイヤリティの高い顧客を醸成します。売上のためではなく、顧客に満足してもらうために運営するということを意識しましょう。
コミュニティマーケティングの注意点
コミュニティマーケティングに取り組む際は、いくつか心がけたいポイントがあります。短期的な成果を求めない、顧客サポートの一環として行うといった点です。また、コミュニティはあくまで顧客が自発的に集まることが重要であり、無報酬で実施することが大切です。
コミュニティマーケティングの注意点を3つご紹介します。
長期的視点で取り組む
コミュニティマーケティングは、顧客に商品・サービスや企業ブランドのファンになってもらい、自ら「コミュニティに参加したい」「商品・サービスの良さを広く伝えたい」と思ってもらうことを目的とします。そのような状態を作り上げるには時間がかかり、長期的な取り組みになることの理解が必要です。
少しでも早く成果を出すには、顧客にとって有意義なコミュニティづくりが欠かせません。顧客同士が楽しく交流できるコンテンツを揃え、顧客が積極的に関わりたいと思えるコミュニティづくりが求められます。
顧客サポートの一環として始める
コミュニティを立ち上げる際はマーケティングの施策は意識せず、顧客サポートの一環として始めるのがよいでしょう。
顧客同士の情報交換など、顧客が求め、参加したいと思える施策を考えます。顧客のニーズに応えるコンテンツを用意することでコミュニティが徐々に形成され、ロイヤリティが醸成されていきます。
ここで大切なのは、コミュニティ内で広告宣伝を行わないことです。企業側が新商品・サービスの紹介などをコミュニティ内で行うと、一方的な売り込みになってしまいます。「商品の宣伝で用意されたコミュニティではないか」と捉えられ、顧客の参加意欲が削がれます。コミュニティへの信頼がなくなる可能性があるでしょう。
コミュニティはあくまでも、企業・顧客および顧客同士のコミュニケーションの場であり、双方向性のもとで運営されることが大切です。
コミュニティメンバーを報酬で集めない
コミュニティマーケティングを成功させるポイントは、コミュニティが自主的に運営されることです。そのためには無報酬での実施が欠かせません。報酬で顧客を集めると、参加者の主体性は失われます。
報酬は金銭的なものに限らず、メンバーの紹介特典なども含まれます。特典を目当てに知人を紹介する顧客も増えることになり、コミュニティの自主性が損なわれるでしょう。
顧客が自然に集まり、一人ひとりが主役となって自主的に情報発信をすることでコミュニティは活性化します。新たな顧客の創出にもつながり、コミュニティは成長するでしょう。顧客主導のもとでコミュニティが運営され、企業側はコミュニティが自主運営されるようサポートに徹することが成功の秘訣です。
コミュニティマーケティングの失敗例
コミュニティマーケティングの失敗例には、一定の傾向があります。主に、以下のような内容です。
- コミュニティが盛り上がらない
- 企業側が運営主体で参加者を「お客様」として扱う
- 成果を意識して顧客の不信感につながる
- KPIの設定を誤る
コミュニティの盛り上がりは、あくまで顧客の自発的な参加によりもたらされます。企業側が一方的に情報を伝えるような運営をしていると参加者の熱量は下がり、活性化が期待できません。盛り上がらないコミュニティは発言しにくく、さらに盛り上がらなくなるという悪循環に陥りやすくなります。
顧客同士の交流が少ないコミュニティは、企業に対するロイヤリティも育ちにくいでしょう。
また、企業主体の運営で参加者をお客様のように扱ってしまうと、自発的なコミュニティの運営ができません。企業側で管理運用する状態では、人数が増えるほど管理も難しくなります。
コミュニティマーケティングの最終的な目的は新規顧客の獲得や顧客単価の向上であっても、コミュニティが盛り上がらない段階から成果を意識した運営をすると、参加者の不信につながります。しばらくはコミュニティの活性化を目指すことに注力しなければなりません。
業績管理評価の指標であるKPIの設定でも同様です。初期段階から売上や参加者数、新規顧客の増加などをKPIに設定してしまうと、方向性を誤ります。初期段階では以下のような指標を設定するとよいでしょう。
- コミュニティの認知度
- コンテンツの投稿・回答数
- 新規参加者数の割合
- コミュニティの認知度
- コミュニティリーダーの創出
高いロイヤリティを持つ顧客をどれだけ生み出せたかを計測するために、NPSも効果的な指標になります。NPSは顧客ロイヤリティを計測する指標で、企業やブランドにどの程度の愛着や信頼を持っているかを数値化し、顧客体験を評価・改善するための指標として利用できます。
コミュニティマーケティングの成功事例
コミュニティマーケティングを成功させるには、成功事例を見ることをおすすめします。
コミュニティマーケティングの先駆けとなるのがアメリカのバイクメーカー「ハーレーダビッドソン」の事例です。1980年代からブランドコミュニティの形成を行い、ハーレーブランドのコミュニティ「オーナーズグループ(HOG)」は熱烈なファンの交流の場となり、登録者数はアメリカ国内で110万人以上にのぼっています。
日本でもコミュニティマーケティングの取り組みは増えており、顧客ロイヤリティを高めるなどの成功例も少なくありません。
アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)
AWSは、Amazonによって提供されているクラウド・コンピューティングサービスです。AWSには、ユーザーたちが自由に交流を行えるコミュニティ「JAWS-UG」があります。
サービスを利用するユーザーであれば、自由に勉強会や交流会などのイベントを開くことができ、各イベントの開催に運営は関与しません。
ユーザーが自分たちで使い方を見つけて、自走できるシステムを作ったことにより、活発なコミュニケーションが行われるようになった1つの事例です。
ユーザーを管理することは大事ではありますが、ある程度は勝手に使えるという条件がコミュニティ運営において重要なのかもしれません。
トヨタ自動車 スポーツカー86
トヨタ自動車では、アプリを通じてオフラインの交流会を企画したり、ツーリングイベントを開催するなど、ファン同士の交流を促すイベントを多数開催しています。
スポーツカーのコミュニティは、専門的な知識がある人ではないと参加できない雰囲気がありますが、女子会などのユニークな企画を提供することで、初心者でも参加しやすい環境を作り上げました。また、マナーやルールづくりを事前に徹底して行ったことも、コミュニティ成功の鍵と言えます。
無印良品
無印良品では、「くらしの良品研究所」というコミュニティを活用し、お客様の声を製品に反映させています。
実際にユーザーの意見が採用された商品も多く、同社の有名商品である「人をダメにするソファ」も実はユーザーの意見をもとに1度リニューアルされています。
結果、このソファは20万個以上の売り上げを達成することに成功しています。ヒット商品の背景にはこうしたユーザーの意見を大切にしたリニューアルがあったのです。
【顧客ロイヤリティを高める】有限会社九南サービス
有限会社九南サービスは宮崎県都城市に本拠地を置く自然食品の会社です。公式オンラインストア「タマチャンショップ」を運営し、安心・安全な「しあわせ食」を販売しています。
同社ではSNSに投稿されている同社商品のレビューを網羅的に収集できないという課題がありました。また、愛用者がさらに熱心なファンになってくれるよう、施策を求めていたという事情があります。
このような課題や要望を解決するために取り入れたのが、ファンサイトです。愛用者のレビューを募集して声を広め、さらに愛好者を増やす場を作ることを目指し、ファンマーケティング運用サービスのcoorum(コーラム)を導入しました。
サービスにより立ち上げたのが、コミュニティサイト「タマリバ」です。サイトは、これから購入を検討している人に愛用者の声を届けるとともに、すでに愛用している顧客がより熱意のあるファンになってもらうための場を設けることを目的にスタートしました。
運営では、積極的にレビューやレシピ投稿をする顧客にコンタクトを取るところからはじめ、コミュニティにどのような機能が欲しいか、どのような企画が楽しんでもらえるのかヒアリングをして改善に努めてきました。
その結果、コミュニティサイトでは愛用者のレビューやレシピの公開が活発に行われるようになり、商品開発などに活かされています。
コミュニティに投稿されたレシピは12月に商品の購入者に向けて配布するカレンダーに掲載されるなど、プロモーションにも活用されています。
今後はロイヤリティの高い顧客と一緒に商品開発を行うなど、よりコミュニティマーケティングを推進する施策を考えているということです。
▼導入事例記事はこちら
ユーザー投稿のレシピ・食へのこだわりが溢れるタマチャンショップのコミュニティ「タマリバ」。ロイヤル顧客を育てる仕掛けとは?
【カスタマーサクセスの属人化を解決】株式会社マネーフォワード
株式会社マネーフォワードは、個人・法人向けに金融系のWebサービスを提供している会社です。同社では、士業事務所同士が課題を解決する場として公認メンバー専用のポータルサイト「BizBASEポータル」を運営しています。
サイトでは動画やマニュアルを使い、同社のサービスを利用する際の疑問解消や活用ノウハウの共有が行われています。
サイトを立ち上げる前は顧客をサポートするための情報が分散し、それに伴いカスタマーサクセスチームの属人化という問題も発生しました。
サイトの運営によりさまざまな情報がサイト上に集約され、ひとつのURLで顧客に提供すべき情報が共有されたことで、案内がよりシンプルになったということです。チームのサポート工数は半減し、負担が軽減されました。
また、サイト内に顧客同士の課題共有や情報交換の場所を作ったことで、よりリアルな声やノウハウが集まり、顧客のモチベーション向上にもつながっています。士業事務所同士の交流を行える場は少なめであり、希少な交流の場となっていることも効果のひとつです。
▼導入事例記事はこちら
あらゆるノウハウや顧客の声が集まる場「BizBASEポータル」でカスタマーサクセスにおける属人化問題を解決!?
コミュニティマーケティングで顧客と良い関係を築こう
コミュニティマーケティングはコミュニティの交流を通じ、顧客ロイヤリティを高めるマーケティング手法です。コミュニティサイトの運営やSNSの活用により自社のファンを増やし、LTVの最大化を図ります。
顧客と直接交流することで生の声を汲み取り、商品・サービスの改善に活かせるのがメリットです。
成果が出るまでには時間がかかり、実施には専門のスキルが必要といった課題もありますが、市場の変化が激しいこれからの時代に求められるマーケティング戦略といえるでしょう。
人口減少で顧客単価の上昇が求められるなかで、顧客ロイヤリティの向上は企業の成長のために欠かせません。顧客と良い関係を築き、コミュニティマーケティングを成功させましょう。