CAC(Customer Acquisition Cost)とは顧客獲得コストのことで、顧客1人を獲得するためにかかった費用を指します。CACを下げるような対策を実施することで、事業の効率性を高めることが可能です。
今回はCACの種類や計算方法、混同されがちなCPA(Cost per AcquisitionもしくはCost Per Action)との違い、CACを改善するマーケティング施策を解説します。また、マーケティング施策に欠かせない顧客分析に活用できるシステムも紹介します。ぜひ参考にしてください。
CACとは顧客獲得コストのこと
CAC(Customer Acquisition Cost)とは、顧客獲得コストのことです。1人の顧客を獲得するときにかかるコストを指し、少なければ少ないほど効率性の高い経営ができていると判断できます。
なお、顧客獲得にかかるコストには、次のものなどが含まれます。
- 広告費
- イベント、キャンペーンの費用
- マーケティング費用
- 販売の際の人件費
サブスクリプションサービスなどの定期的に販売を繰り返すタイプの事業では、事業効率を判断するときにCACを計算することが少なくありません。CACを適時求めることで、マーケティング施策の妥当性や優先順位などを見極めやすくなります。
CACの種類と計算方法
CACは以下の計算式で求めます。
CAC=一定期間内に顧客獲得にかかった費用÷獲得した顧客数
顧客獲得のプロモーションを実施して、すぐに効果が得られるとは限らないため、1日や1週間などの短期間を「一定期間」とすることはあまりありません。通常は1ヵ月、3ヵ月、1年などの期間内にかかった顧客獲得費用を獲得した顧客数で割ってCACを算出します。
CACは顧客獲得の方法によって、次の3つの種類があります。
- Organic CAC
- Paid CAC
- Blended CAC
それぞれの違いと計算方法について見ていきましょう。
Organic CAC
Organic CACとは、自然獲得した顧客に関するCACのことです。広告などの費用をかけなくても、次のようなチャネルから顧客を獲得できることがあります。
- 顧客が自発的に検索エンジンで商品・サービスを検索した
- 顧客が自発的にSNSで商品・サービスあるいは企業に関する情報を得た
- インターネット掲示板などで商品・サービスの口コミを見た
- 既に商品・サービスを使っている顧客から情報を得た
Organic CAC、は次の計算式で求めます。
Organic CAC=自然増の顧客にかかった費用÷自然増チャネルから獲得した顧客数
Organic CACに該当するケースは、顧客獲得にほとんどコストをかけていないため、CACは安価に算出されます。
Paid CAC
Paid CACとは、有料チャネルから獲得した顧客に関するCACのことです。たとえば、次のようなチャネルから獲得したケースが該当します。
- インターネット広告、SNS広告
- 販促キャンペーン
- セール
Paid CACは、次の計算式で求めます。
Paid CAC=有料チャネルにかかった費用÷有料チャネルから獲得した顧客数
キャンペーンや広告の効果を調べるためにも、施策別にPaid CACを算出するのが一般的です。Paid CACの数値が低いキャンペーンや広告は、改善の必要があると考えられます。
Blended CAC
Blended CACとはOrganic CACとPaid CACを合わせたCACで、チャネルが有料か無料かを問わず、顧客獲得にかかったすべての費用から算出します。
Blended CAC=営業とマーケティングにかかった費用÷新規獲得した顧客数
Blended CACは、事業全体の顧客獲得コストを求めるときに用います。単にCACというときは、Blended CACのことを指すことが一般的です。
CACとCPA(顧客獲得単価)の違い
顧客獲得に関する指標として、CAC以外にもCPA(Cost Per AcquisitionもしくはCost Per Action)が使われることがあります。CPAは「顧客獲得単価」と訳されますが、CACも「顧客獲得単価」と訳されることがあるため、混同するかもしれません。両者の違いについて見ていきましょう。
CACとCPAの意味の違い
CPAは、Cost Per AcquisitionもしくはCost Per Actionを省略した言葉です。それぞれの意味は以下をご覧ください。
Cost Per Action:問い合わせなどの顧客が行なったアクションに対してかかった費用
Cost Per Acquisition:最終的な顧客獲得やサービス購入(導入)にかかった費用
CACは顧客獲得に費やした費用から算出しますが、CPAは主にマーケティングにおいて用いられる数値です。たとえば、インターネット広告などの特定の施策について、一回のコンバージョンを獲得するのにかかる費用を求めるときに用いられます。
CACとCPAの計算式の違い
CPAは以下の計算式で求めます。
CPA=広告費用÷コンバージョン数
ActionとAcquisitionによって何をコンバージョンとするかが異なります。たとえば、CPAをCost Per Actionと捉えるときは、顧客による問い合わせなどがコンバージョンとなるため、必ずしも売上につながっているわけではありません。CPAの数値が低くとも、コンバージョンから実際の購入につながる割合が低いときは、効率の良いマーケティングが実施できているとは判断できません。
一方、CPAをCost Per Acquisitionと捉えるときは、新規顧客獲得や商品・サービスの購入がコンバージョンとなるため、売上につながる数値としてCPAを算出できます。CPAの数値が低ければ、効率の良い事業が実現できていると判断できるでしょう。
CACとLTV(顧客生涯価値)の違い
CACを理解するうえで、LTV(Life Time Value)は欠かせません。LTVとは「顧客生涯価値」と訳され、一人の顧客が生涯のうちで企業に対してもたらす利益を指します。LTVもCACと同様、サブスクリプションサービスのように、定期的に販売を繰り返すサービスを評価するときに用いられます。
ただし、CACは低ければ低いほど効率性の高い事業と評価できますが、LTVは高ければ高いほど効率性の高い事業と評価できる点に注意が必要です。なお、LTVを高くするためには、顧客単価か購入頻度を増やす、あるいは顧客が長期にわたって購入を継続するような施策を実施する必要があります。
CACとLTVの関係性
顧客あたりの収益性を図る指標として、ユニットエコノミクス(Unit Economics)があります。ユニットエコノミクスの求め方は事業によっても異なりますが、「顧客1人あたりの採算性」とすることが一般的です。この場合は、以下の計算式でユニットエコノミクスを求めます。
ユニットエコノミクス=LTV/CAC
ユニットエコノミクスが1より大きいとき(LTV/CAC>1)は黒字、反対に1より小さいとき(LTV/CAC<1)は赤字を意味します。一般的にユニットエコノミクスは3以上が最適といわれているため、3未満のときはLTVを増やす、あるいはCACを減らすための施策が必要です。
CACとLTVの計算式の違い
LTVは、以下の計算式で求めます。
LTV=平均購買単価 × 平均購買頻度 × 平均継続期間
ただし、平均購買単価が高くとも、顧客獲得にコストがかかりすぎているときは、効率性の高い事業ができているとは評価できません。CACを加味して、以下のようにLTVを求めることもあります。
LTV=(平均購買単価 – CAC) × 平均購買頻度 × 平均継続期間
CACはなぜ重要?理解する必要性
商品・サービスを販売するときは、CACを意識することが重要です。CACを理解することで、次の事柄を実現できます。
- 費用対効果の高いチャネルがわかる
- ユニットエコノミクスを計算できる
それぞれのポイントについて見ていきましょう。
費用対効果の高いチャネルがわかる
全体的なCACを計算することは事業の効率性を判断するうえで重要ですが、チャネルごとにCACを計算することで、各チャネルの費用対効果を判断しやすくなります。CACが低いチャネルは、チャネル運用にかかった費用に顧客獲得数が見合わないと考えられるため、運用をやめる、あるいは改善する必要があるでしょう。
定期的にチャネルごとのCACを計算することで、チャネルを見直し、効率性向上を実現できます。ただし、購入のきっかけと購入方法が異なるチャネルを経由する場合(例:テレビCMでサービスについて知り、インターネットで検索してから実店舗で契約した)なども想定されます。チャネルの打ち切りや見直しの前に、チャネル間の関係や顧客の購入に至る道筋も把握しておくようにしましょう。
ユニットエコノミクスを計算できる
CACを求めることで、顧客1人あたりの採算性を示す指標であるユニットエコノミクスを計算できるようになります。ユニットエコノミクスは、事業の収益性が最適な状態にあるのか判断する際に有用な指標です。定期的に計算して、収益性の高い事業を実現できているのか確認しましょう。
ユニットエコノミクスは、サブスクリプションサービスとして利用することの多いSaaSなどの収益性を判断する際にも活用されます。従来型の「1顧客獲得=1購入」のビジネスモデルでは、顧客獲得の時点でコストを回収することが前提です。顧客獲得時にコストを回収できていない場合は、採算が合っていないと判断できます。
一方、サブスクリプションサービスは「1顧客獲得=複数購入」となり、顧客を獲得した時点では赤字の状態で、そのあとで時間をかけて顧客獲得コストを回収していくビジネスモデルとなります。そのため、通常の会計基準では事業の健全性や収益性を図れません。CACを用いてユニットエコノミクスを求め、会計上ではわからない事業の採算性をチェックすることが必要です。
CACをビジネスに活用する手順
CACを計算するだけでは、収益性の高いビジネスを実現できません。次の手順でCACをリアルなビジネスに活かしていきましょう。
- CACを定義する
- コスト回収の目標値を設定する
- 定期的にCACとコスト回収期間を計測する
- 改善策を提案・実行する
手順を順に説明します。
CACを定義する
次の要素を定義し、CACの計算式を決めます。
- 計測期間(1ヵ月、3ヵ月、1年、3年など)
- 費用の範囲(広告費、キャンペーン費用、人件費など)
- 顧客内訳(顧客全員、自然流入を除く、広告流入のみなど)
CACは自由度の高い指数のため、明確に定義しておかないと比較できません。計測期間はどの程度にするのか、費用の範囲はどこまで含むのか、顧客の流入経路を限定するのかなどを決めておきましょう。また、定義はチーム内で共有し、メンバー全員が正確に把握しておく必要があります。
コスト回収の目標値を設定する
次は、コスト回収の目標値を設定します。
たとえば、「コストを1年で回収する」ことを目指す場合は、1年間のLTVがCACを上回るように目標値を決定できます。1回あたりの顧客単価が3,000円、1ヵ月に1回料金が発生するサービスであれば、1年間のLTVは3,000円×12ヵ月×1年=36,000円です。CACの目標値は、36,000円以下になるように設定しましょう。
ただし、サービスの単価や料金発生頻度が変わることや、経済情勢の急激な変化によって顧客増が見込みにくくなることも想定されます。状況に合わせて柔軟に対応するためにも、年に何度か目標値を見直してください。
定期的にCACとコスト回収期間を計測する
目標値を設定したら、定期的にCACとコスト回収期間を計測しましょう。定期的に計測することで、CACの変化を敏感に察知し、マーケティング施策やチャネルの妥当性をチェックしやすくなります。
また、目標値が現実と乖離している可能性もあります。定期的なCACの測定により、目標値が妥当なものであるか早めに検証できるようにしておきましょう。
改善策を提案・実行する
目標値は妥当と思われるものの、達成できない場合は、マーケティング施策が適切ではない、あるいはチャネルの効率性が低いなどの状況が考えられます。また、商品・サービス自体に問題がある可能性も想定されます。
マーケティング施策やチャネルごとに評価をするなどにより原因を追求し、改善策を提案・実行しましょう。改善策の実行後も、定期的にCACとコスト回収期間を計測します。このように計測→確認→改善を繰り返し、ビジネスの効率性を高めていきましょう。
なお、目標値を達成できた場合でも、より効率性の高いビジネスを実現するために、改善は必要です。計測→確認→改善を繰り返し、ビジネスモデルをブラッシュアップしてください。
CACを改善するマーケティング施策
CACが目標値よりも高いときは、改善策を検討する必要があります。CACの改善につながるマーケティング施策としては、次のものが挙げられます。
- ターゲットを絞り込む・変更する
- チャネルを絞り込む・変更する
- 広告を最適化する
- 販促イベントを開催する
- MAツールなどのツールを活用する
なお、CACは低いほうが効率性の高い事業と判断できますが、CACを下げ過ぎると、顧客に対して適正な投資をおこなえていないと投資家や株主から指摘されることもあります。ステークホルダーからの評価を得るためにも、高すぎず低すぎない適正な数値にCACを設定するようにしてください。
ターゲットを絞り込む・変更する
ターゲットを広く設定しすぎると、年代やライフスタイルの異なるユーザーに訴求するマーケティングが必要となるため、コストがかさんでしまいます。ターゲットを絞り込み、効率性の高いマーケティングを実施しましょう。
また、ターゲットを絞り込んでいる場合でも、そのターゲットが適切ではない可能性も想定されます。既存顧客を分析し、適切なターゲットに変更するのも大切です。
チャネルを絞り込む・変更する
費用対効果の高いチャネルを絞り込み、チャネル運営にかかるコストを削減しましょう。チャネルごとにCACを測定すると、費用対効果を分析しやすくなります。
また、有効性の低いチャネルを整理したうえで、新しいチャネルを開設するのも一つの方法です。未対応のSNSに挑戦するなどの方法も、検討してみましょう。
広告を最適化する
広告費用がかかりすぎ、CACが高くなっている可能性もあります。既存の広告の費用対効果を計測し、効率性の高い広告だけに絞りましょう。
自然流入数が多い場合は、広告をやめるという方法も検討できます。新規顧客の経路を分析しておくと、自然流入数を増やす施策を見つけやすくなります。
販促イベントを開催する
新規顧客数自体が低いときは、認知度を向上し、購買意欲を促進するための販促イベントも検討しましょう。ただし、商品・サービスの価格を下げてしまうと、既存顧客の離脱を招くことになるため、契約後の一定期間のみお得になるなどの不公平感のないイベントを計画してください。
MAツールなどのツールを活用する
見込み顧客へのアプローチは、MA(Marketing Automation)ツールや顧客管理ツールを使うと管理しやすくなります。業務効率化を図るためにも、ツールの活用も検討してみましょう。マーケティング施策に活用できる主なツールは、以下をご覧ください。
ツールの種類 | ツールでできること |
MAツール | 見込み顧客の獲得や育成、商談タイミングの判断 |
CRM | 顧客の属性や関係性などの情報を管理 |
SFA | 営業担当者の業務管理、商談内容の管理 |
MAツール
MAツールは、マーケティングを自動化するツールです。見込み顧客のニーズ分析や育成、商談タイミングの判断などに対応しています。
MAツールを活用することで、マーケティング部門と営業部門が連携しやすくなり、見込み顧客に対するシームレスなアプローチが可能になります。
CRM
CRM(Customer Relationship Management)は、顧客情報を管理するツールで「顧客管理ツール」とも呼ばれます。
顧客の氏名や勤務先などの基本情報だけでなく、顧客に対する今までのアプローチや、顧客の商品・サービスの利用頻度なども管理できるため、受注を得やすくなるのも特徴です。また、MAツールと連携させることで、さらに顧客との関係を構築しやすくなります。
SFA
SFA(Sales Force Automation)は、営業効率を高めるためのツールで「営業支援ツール」とも呼ばれます。営業担当者の業務をサポートするために活用されることが一般的です。案件管理や営業担当者の業務管理だけでなく、顧客情報の管理にも対応しているツールもあります。
MAツールやCRMと連携することで、より効率性の高い営業を実現できるようになります。また、SFAを営業担当者だけでなく社内全体で情報を共有すれば、顧客に対して抜け漏れのないアプローチが可能になり、ビジネスの効率性を高めることが可能です。
顧客分析ができるおすすめツール
効率性の高いマーケティングを実施するためにも、顧客のニーズを分析し、適切なチャネルやマーケティング施策を選ぶことが大切です。MAツールやCRMなども有用ですが、顧客分析ができるツールの利用も検討してみましょう。
コミュニティサイトのプラットフォーム・coorumは、コミュニティの運営から顧客分析をワンストップで行うサービスです。コミュニティ内の行動ログから顧客タイプを自動的に分析できるため、顧客のニーズに合うマーケティング施策を導き出しやすくなります。
また、coorumでは顧客ロイヤリティの高い「ロイヤル顧客」を育成することが可能です。LTVを増やし、ユニットエコノミクスも改善しやすくなります。ぜひCACやユニットエコノミクスの改善にcoorumをご利用ください。
費用対効果の高いマーケティングを実現しよう
顧客のニーズに合わないマーケティング施策を実施すると、顧客獲得にかかるコストが増えるだけでなく、収益性が低下します。費用対効果が高いマーケティングを見極め、効率性の高いビジネスを実現していきましょう。
マーケティング施策の費用対効果は、適切に目標値を定めたCACを定期的に測定することでも図れます。また、MAツールや顧客管理ツールなどを活用して、マーケティングや営業の効率性を高めることも有用です。
マーケティングを実施する前に、顧客のニーズについて正確に把握しておくことも重要です。顧客分析を自動化できるcoorumなら、適切なマーケティング施策を特定しやすくなり、顧客に対して効率性の高いアプローチが可能になります。
また、coorumでは顧客ロイヤリティの高いロイヤル顧客の育成も可能です。コミュニティの運用により蓄積されたデータを活用して、LTVを高め、ユニットエコノミクスも改善できます。ぜひ費用対効果の高いマーケティングを実現するためにも、coorumをご利用ください。