MROC(エムロック)はコミュニティの中からユーザーを抽出し、コミュニケーションを通じて商品に対する意見をモニターとして募るリサーチ手法です。
自由闊達な議論を育みやすく調査期間も長期に及ぶことから、商品開発や改善に役立つインサイトの把握に適しています。
この記事ではMROCの概要や他の調査との違い、事例について解説します。
MROC(エムロック)とは
MROCは特定のブランドや製品に関心を持つ者をモニターに募り、専用のコミュニティを構築して、インサイトを探るマーケティングの手法です。
対象者へのアンケートやインタビューを通して意見を聞き出すだけではなく、コミュニティ内のユーザー同士でのコミュニケーションから気づきを得るのが特徴です。
まずは、MROCと他の調査手法との違いや誕生の経緯を知りましょう。
MROCと一般的な調査手法との違い
MROCが一般的なアンケートやインタビューによる調査手法と異なるのは、企業側が想定していない知見を得やすい点にあります。
一般的なリサーチ手法では、事前に設定したアンケート項目や質問表に則って調査が進められます。企業側が知りたいことを把握する際には適している反面、知るべきことを網羅的に把握できるとは限りません。
あくまでも聞きたい事柄の確認にすぎず、ユーザーの本音や深層心理を知りたいときには不十分な回答しか得られない方法です。
一方、コミュニティ内の参加者同士の会話をベースとしたMROCは、自由闊達な議論が生まれやすく、消費者目線の貴重な意見を入手できます。
自社製品・サービスのユーザーの意見を聞き出すその他の方法には、顧客満足度調査やNPSがあります。これらの手法は、すでにユーザーとして使ってくれている、既存のお客様への調査にです。
それぞれ具体的な手順や特徴、メリットが知りたい方は次の記事を参考にしてみてください。
MROC誕生の経緯と現状
MROCはアメリカ発祥の調査手法で、2000年頃に調査会社「Communispace」が提供を開始したリサーチコミュニティが先駆けだといわれています。同年代はソーシャルメディアが発展し、世界的にもインターネットが普及した時代です。
2007~2008年には米国内のブランド手動のコミュニティで、MROCを実施して成果が出たとのレポートが発せられるようになり、注目が寄せられました。
ソーシャルメディアが高度に発展した昨今、日本でもMROCの認知が広がり、新たな市場調査に取り入れる動きが目立ち始めています。
しかし、現状ではユーザー同士のコミュニケーションに主眼を置いたものにとどまり、一般的な調査手法に置き換わる程成熟した活動には達していません。
MROCのメリット
MROCのメリットは、企業側が事前に把握し切れないユーザーの深層心理を掴みやすいだけにとどまりません。
既存のオンラインコミュニティが母体となるため、調査実施の自由度が高く、手軽に情報を集めやすいことも利点です。MROCの、主要な3つのメリットを理解しましょう。
良質な情報を獲得できる
MROCが有意義なのは、アンケートやインタビューと比べて良質な情報を得やすい手法といえるためです。
ユーザー同士の自由な議論を時間をかけて行えることから、お互いの人となりを理解した上で、本音に近しい意見の収集期待できます。
インタビュアーと対象者の1対1形式ではなく、参加者同士の意見交換から情報を得るリサーチ手法はMROC以外にも存在しました。しかし、数時間で終わるケースがほとんどで、本心をさらけ出せるほどの安心感を得る余裕がなく、結果的に議論が発展しにくい点が問題視されていました。
MROCは通常1~2か月程度の調査期間を設けて、継続的な情報収集を行います。時間的な制約を解消して本質的で深い意見を入手しやすい上、製品やサービスを使い続けたことによる感情の変化まで追えることは大きな利点です。
情報の発信・収集が手軽にできる
オンラインコミュニティは、ユーザー視点では思い立ったらすぐ情報を発信できる手軽さがあります。また、企業側の視点でも調査対象のテーマに関する情報を手軽に入手できる環境です。
MROCは短時間で製品・サービスのインサイトを収集しやすく、新商品の企画や既存の製品の改善に役立つ活動です。
オンラインコミュニティでは、発信者はテキスト以外にも画像や動画を用いた発信に興じています。MROは取得できる情報が多く、調査を実施する側の企業にとってはユーザーの使用感や満足度を適切に把握しやすい手法です。
調査実施時の自由度が高い
オンラインコミュニティがベースのMROCでは、居住地や参加可能な時間帯の制限を受けずに調査対象者を自由に選定できます。製品・サービスの使用頻度や知識の程度に応じて対象者のセグメントを設けて、目的に合わせたリサーチの実施も可能です。
企業が運営するコミュニティであれば、商品開発やマーケティングの担当者も輪に加わることも難しくありません。たとえば、企業でしか知り得ないノウハウを提供し、参加者の興味・関心を募り、独自の切り口で話題を提供できます。
対象者の選定や企業側のコミットメントの自由度が高いことで、市場調査の目的となった知りたい事柄や知るべき事柄を漏れなく聞き出しやすくなります。
MROCのデメリットや注意点
MROCで商品開発や改善に気づきを得るためには、事前準備と実施側のリテラシーが求められます。
母体のコミュニティが成熟してモニターが上質な意見を発する環境にあること並びに、膨大な情報を選別してインサイトの発見につなげるノウハウが必要といえるためです。ここでは、MROCのデメリットや注意点を紹介します。
コミュニティを成立させてから実施する必要がある
MROCで有益な情報を得る前提条件となるのは、コミュニティが成立し、ユーザーが本心を発しやすい環境が整備されていることです。参加者の数が多く、設立から年月が経過しただけでは議論の活発に適した環境とは限りません。
会話を主導するファシリテーターの選別や、興味や知識のレベルごとの対象者のグルーピングをはじめ、参加者が忌憚なく本心をさらけ出しやすい仕組み作りが求められます。
MROCでは、発信源となるモニターの自主性が不可欠です。コミュニティがあっても、運営元や他の参加者に遠慮して本音をいえない状態では調査の目的を達成できません。企業側が積極的にコミットメントして、ユーザーの心理的な障壁を取り除く活動に注力しましょう。
顧客インサイトの特定や、顧客体験価値の向上に資するコミュニティ運営の戦略については次の記事で解説しています。
膨大な情報の中からインサイトを抽出する必要がある
調査で得た膨大な発言データの中から、商品の改善に役立つインサイトを抽出する必要があります。MROCは通常1~2か月間の長期的なスパンで行われ、継続的に取得した参加者の発言は膨大な量に達します。
いくら積極的に議論に参加していても、製品・サービスの知識が不足したり、建前の意見を発していたりしては商品開発の参考になるとはいえません。
さらにオンラインコミュニティを活用した情報収集は参加者の顔を直接見られず、話者の感情の把握が難しいという特徴もあります。
MROCで得られる膨大な情報から本当に役立つインサイトを抽出するには、一定の技量や経験が必要です。
MROCの活用例
企業活動において、MROCが役立つ具体的なシーンを紹介します。
製品・サービスの使用感の把握
既存の製品・サービスのレビューを収集し、使用感の把握に役立てるのが有効な活用法です。
とくにMROCは、長期間にわたる使用が前提となる商品や、継続的な使用によって評価が変わる可能性がある商品との相性がよいといわれます。
たとえば、化粧品や脱毛クリームは使用開始直後と一定期間使い続けたあとでは、印象や感想が大きく変わる場合も少なくありません。
使用感や満足度のような個人の主観的な意見は別ですが、効果を発揮したユーザーに共通する傾向を発見できれば、適切な使い方を伝えて商品改善につなげられます。
MROCは途中で使用を中止した理由を調査し、長期的な利用を妨げるボトルネックの要因を見つけたいときにも役立ちます。
インサイト発見による新製品開発への反映
MROCは、どのような方がどのような生活様式のなかでいつその商品を使い、使ったあとどう感じたのかをより正確に理解することができます。
コミュニティの参加者から潜在的なターゲットを抽出し、既存製品への不満や要望を把握する中で、企業側は商品開発のアイデアを得られます。
インサイトの特定につながる有益な意見の創出が目的であれば、ユーザー同士の継続的なコミュニケーションの過程で、忌憚なき意見を取得できるMROCは魅力的な選択肢です。
開発側も議論に参加したり、ターゲットに近い属性の参加者に限定して調査を実施したり、目的を意識した手法の調整が可能な点も特徴です。
MROCの実施手順
MROCの実施手順としては、はじめにロイヤリティや使用頻度などの基準を設けてスクリーニングをかけたコミュニティを形成します。そしてアンケートやインタビューを実施したり、掲示板に寄せられた投稿やメッセージをチェックしたりして、ユーザーの本心を調査します。
MROCの失敗を防ぐには、次の正しい手順にそって一つずつ進めなければいけません。
① インサイトを分析する目的を把握
② 分析方法の決定
③ データの収集
④ インサイトの特定
最初に、インサイトの分析が必要になる理由を明確化しましょう。課題の解決を目指して、他の調査では把握しきれないニーズを知るためには、目的の明確化がされていないと方向性が間違う可能性があるでしょう。サービスの改善や新企画の立案など調査の目的を特定し、ターゲット像を明確にしてください。
MROCはユーザーの本心を解像度高く理解し、本音を探りたいときに有効な方法です。しかし、インサイトを知る方法は、MROCだけに限りません。
ソーシャルリスニングや街頭インタビュー、アンケートなど数ある手法の中で、目的の達成に必要な手段を選択しなくてはいけません。
次は十分な調査期間を設け、知見を導き出すために必要なデータを収集するフェーズです。分析の際にデータが足りないと感じたときは無理やり傾向を見つけようと足掻くのではなく、一旦立ち止まり、追加調査を行うほうが実りある成果が得られます。
得られたデータからインサイトを特定する際には、分析に長けた人材を登用することが重要です。正確で信頼性が高い調査結果を得るには、専門的なノウハウや十分な経験が必要となります。分析ツールを導入して収集・分析の効率を高めることも検討したほうがよいでしょう。
オンラインコミュニティを活用したインサイト調査事例
オンラインコミュニティを活用したインサイト調査は決して簡単ではなく、成果を得るには工夫が必要です。やり方がよくわからない場合は事例を参考にし、自社の調査に取り入れられることはないかチェックしてみましょう。
当社のサービス「coorum」でオンラインコミュニティを構築して、インサイト調査を実施した企業の具体例を紹介します。
株式会社エー・ピーホールディングスの事例
飲食チェーン「塚田農場」を経営するエー・ピーホールディングスは、店舗では拾い切れないお客様の意見を集めるため、オンラインコミュニティの構築を決心しました。運営を開始して感じているのは、施策に対する効果をわかりやすく実感できる点です。
たとえば、「季節の白くまアイス」はビジュアルの魅力でお客様の関心を惹き、注文して価格以上の美味しさに気づいてもらうというこだわりを詰め込んだ商品です。
コミュニティ内に投稿される写真からユーザーの満足感が伝わってきて、企業側が意図した通りに受け入れられたと実感する機会を得られています。
導入事例インタビューはこちら▼
店舗では拾いにくい”塚田農場”好きなお客様の色んな声を聞きたい。塚田農場が目指すオンラインコミュニティの姿とは?
株式会社ルネサンスの事例
スポーツクラブや介護リハビリ施設の運営を営む「ルネサンス」はロイヤル顧客の増加とLTVの向上を目的にオンラインコミュニティ「RENAISSANCEColors(ルネサンスカラーズ)」をスタートさせます。
開設前はお客様が何に価値を感じて来店するのかわからないと問題意識を抱いていました。店舗スタッフが直接声をかけても企画の立案にはつながらず、有益な活動に結びつかないとお悩みでした。
オンラインコミュニティの構築後は、お客様はマスターコーチの発信するコンテンツや意見交換が楽しみだと感じていることに気づかされます。サイトでの交流がきっかけに実現した企画も多々あり、インサイトの発見にコミュニティを有効活用されています。
導入事例インタビューはこちら▼
ロイヤル顧客の育成とLTVの向上を目指し、coorumを導入。二人三脚で目指す、リアルとデジタルが融合したコミュニティとは
株式会社ニップンの事例
総合食品メーカー「ニップン」は、健康食品のアマニに特化したコンテンツの配信や意見交換の場となる、ファンコミュニティ「ニップン アマニコミュニティ」を運営中です。
アマニは一時期はテレビに取り上げられて需要が増大しますが、一過性のブームにとどまり、国内市場は右肩下がりで推移しています。
アマニのV字回復を目指すニップンは、継続して接種し続けるコアなユーザーの意見からニーズや不満を探ろうと、オンラインコミュニティの活用を思いつきました。
独自の調査を通じて、アマニを好む消費者の中には健康志向が強い人だけでなく、高カロリー食品やジャンクフードを日常的に摂取するユーザー層もいると気づかされたようです。
ニップンの担当者は、いつの間にか根付いていた常識や価値観に縛られず新たな発見を得られたと、コミュニティ構築の意義を熱弁しています。
導入事例インタビューはこちら▼
「ニップン アマニコミュニティ」で見つけた新たな顧客像と、毎日のアマニ習慣が広がる秘訣とは?
MROCの実施を検討するならcoorumがおすすめ
コミュニティ内のユーザーを対象に、継続的に意見を収集できるMROCはインサイトが明らかになるリサーチ手法です。新商品の開発や製品の改善につながる質の高い調査を実施するには、安定したオンラインコミュニティの存在が必要になります。
「coorum(コーラム)」はノーコーディングで簡単に、ブランドの世界観を表す独自のサイトが出来上がるオンラインコミュニティ専用プラットフォームです。
ユーザー同士のコミュニケーションを促進する機能も充実しています。
MROCによるインサイト調査の実施を検討中の方は、ぜひ利用をご検討ください。