2021年5月28日に開催したオンライン対談イベント『CSの極意は”顧客の自走”にあり。謎に包まれたセールスフォースのカスタマーサクセスを大解剖』では、セールスフォース・ドットコムよりカスタマーサクセスマネージャーの北川博一氏にご登壇いただき、株式会社Asobica取締役CCOの小父内信也氏がモデレーターを務めました。
今回イベントに参加できなかった方にもお楽しみいただけるよう、本レポートではイベントの内容をダイジェストでお届けします。
北川博一 氏(以下、北川) 株式会社セールスフォース・ドットコムカスタマーサクセス 統括本部 サクセスガイド第1部 部長 小父内信也 氏(以下、小父内) 株式会社Asobica 取締役CCO |
イントロダクション
北川:セールスフォースの北川と申します。新卒でオラクルという会社に入社し、その後企業向け学習コンテンツのベンチャーを1年経験してから2008年にセールスフォースに入社しました。そこから13年間カスタマーサクセス(以下CS)一筋で、今はハイタッチ支援を行うチームのマネージャーをしています。
本日の内容を大きく分けて3つご用意しました。まず弊社の取り組みや施策をご紹介して、次に失敗談と改善事例、最後に現在のチャレンジをお話しします。
セールスフォースのカスタマーサクセス
北川:まず現状の取り組みや施策のご紹介からお話ししますが、その前にセールスフォースのお客様やCSの環境についてお伝えします。
Salesforceは業種や企業規模を問わず幅広くご利用いただいているツールで、お客様の分布としてはロングテール型となっています。
製品はCustomer360と言ってお客様との接点を360°管理できるラインナップになっており、アップセル・クロスセルができるような環境になっています。
契約は一部従量課金制ですが基本的にはユーザー数x単価で年間契約する形になっています。
我々CSにおけるチャレンジは2つあります。1つ目はオンボーディングで、自社の業務に合わせて使い始めるにあたって自社用にカスタマイズしたり、データを取り込んだりする作業が必要になり、そこをいかにスムーズに乗り越えて頂くかがキーとなります。
2つ目のチャレンジは定着化で、慣れたエクセルや既存システムからいかに業務をSalesforce上で行ってもらうかがキーとなります。
この2つを乗り越えるといわゆるPDCAがSalesforce上で回り始めて効果を実感いただけるようになるため、更新率が高くなりアップセルやクロスセルも起きる環境になります。
カスタマーサクセス成功の鍵は、顧客の自走化
北川:弊社はThe Modelという言葉を使って各部門でKPIを分担していますが、CSのKPIは更新率です。
ただ会社として掲げている4つのコアバリューの1つにカスタマーサクセスが入っているので、お客様の成功に対して全社をあげて取り組んでいます。
我々CSはカスタマーサクセスを「Salesforceを使ってビジネスで成果をあげてもらうこと」と定義しています。具体的には、お客様ごとに異なるゴールを確認した上で、実際に効果を出しているお客様の事例や活用いただける機能をお客様にご紹介し、その実装と定着のサポートをしています。
CSの最終的な目標はお客様自身で自走化していただくことです。理由は2つありまして、1つはお客様自身で納得してPDCAサイクルが回らないとうまくいかないということ、もう1つは少しでも支援をスケールさせて、多くのお客様をサポートするためです。
お客様がSalesforceをうまく活用できている状態は、Salesforceと業務がリンクして、PDCAが素早く回っている状態です。
お客様を中心としたデータの蓄積が行われ、施策の進捗や結果を可視化し、改善が必要な部分を素早く見つけ、改善のアクションを実施してさらにその効果を検証する、そんな状態を全てのお客様で実現するのが我々のゴールです。
カスタマーサクセスチームが握る3つのKPI
北川:我々が見ているKPIは3つあります。
ます金額ベースでの契約更新率を見ています。毎年の更新後金額/更新前金額が契約更新率になります。ただこちらはあくまで結果なので、途中指標としてヘルススコアとエンゲージメントをKPIとして見ています。
ヘルススコアは、当初は利用状況だけでしたが、契約年数やお客様とのエンゲージメント状況などが契約更新やアップセルに繋がっていることがわかってきたので、現在はそれも含めたヘルススコアになっています。
エンゲージメントは、お客様との打ち合わせやメールだけではなくて動画視聴や資料ダウンロード、ウェブセミナーへの参加、コミュニティでの活動も含めて見ています。
小父内:実際にヘルススコアとチャーンの結果は連動していますか?
北川:そうですね、相関性は出ていると思います。弊社ではヘルススコアの精度を上げるために定期的にモデルの見直しを行っています。
顧客規模に応じた支援体制
北川:弊社ではハイタッチベースのチームとプログラムベースのチームの2つでお客様を支援しています。
ハイタッチチームが支援するお客様では、契約直後にCS担当がプロジェクトを効果的に進めるポイント紹介や活用のためのリソースをご紹介し、運用が始まったら定着支援を実施、運用が落ち着いた後も定期的にビジネスレビューという形でお客様にとって価値ある方向にプロジェクトが進んでいるかについて意思決定者と会話しています。
プログラムベースでご支援するお客様には、オンボーディングの支援や利用状況のアセスメント、定着支援をプログラムベースで行なっています。
またクイズをクリアしていくとポイントやバッジが取得できるオンライン学習プラットフォームや、お客様同士が相談/情報共有ができるコミュニティもご用意しており、そういったものも活用していただくことでお客様にとって自走しやすいような環境作りをしています。
小父内:満足度アンケートは全員に実施していますか?
北川:はい、全てのご契約頂いているお客様に対して契約後3ヶ月、6ヶ月、その後は6ヶ月おきに実施しています。内容はセールスフォースという会社や製品、対応している営業に対する満足度、サポートしてほしいことがあればそれも聞いています。
小父内:それはヘルススコアにも反映されますか?
北川:ヘルススコアには反映していませんが、満足度が一定基準以下、もしくはお客様が明示的にサポートしてほしいと回答された場合には、営業にToDoが割り振られてお客様にコンタクトする流れになっています。アンケートは自動的に契約期間を見て弊社のマーケティングクラウドのツールから送っています。
12,000人が参加する、ユーザーコミュニティ
北川:ではここから具体的な施策の内容についてお話します。
CS担当が行うハイタッチ支援の内容は、準備・定着・活用というお客様のフェーズによって分かれてきます。
事前準備のフェーズでは、社内の推進体制を整えたり、企画部だけでなく実際に利用する現場チームとコミュニケーションしていただいたり、ゴールをきちんと設定して戦略や活動と紐づけたり、それを分析機能を用いて可視化したりすることが大切だとお話ししています。
定着フェーズでは、3ヶ月を目安に定着プランを作成しご支援していきます。ログイン率やデータの登録件数を目標に設定し、それを簡単に可視化するための無料ツールをお客様にインストールして頂き、状況を可視化しながら伴走していきます。
小父内:この3ヶ月はオンボーディングの期間ということですか?
北川:我々は運用開始までをオンボーディングの期間と設定しています。そのためオンボーディング後運用開始から社内で定着するまでの3ヶ月、というイメージです。
その後、活用フェーズでは、効果が上がっている他社事例をご紹介し、それを受けて同じように活用したいとなればお客様の環境での実装のアドバイスをして運用につなげるサポートを行います。
弊社のロータッチ施策ではコミュニティがうまく機能しています。オフラインのユーザグループとオンラインのコミュニティの2つがあるのですが、歴史的には先にオフラインでお客様が集まって事例を共有する場があり、それが発展してユーザグループになったのですが、その後全社的な施策でオンラインコミュニティをきちんと作ろうということでオンラインコミュニティができました。
小父内:12,000人も参加しているんですね。
北川:そうなんです。ご契約いただいたお客様にお電話をするウェルカムコールで、コミュニティに参加していただいてコミュニティ上のコンテンツをガイドするようにしたところ参加者とともにコミュニティ上での質問が増え、それに回答してくださるユーザーの方が出てきて、コミュニティが自走し始めました。
このコミュニティの自走にはコミュニティリーダーの方の貢献が非常に大きいのですが、MVPプログラムで表彰したり、大きなイベントの基調講演に登壇頂いたり、Trailblazer(開拓者という意味)の文字が入ったパーカーを着た皆様をログイン画面でフィーチャーしたりして、コミュニティリーダーになるメリットをアピールしていました。
それから成功したイベントの一つに活用事例コンテストがあります。年に一回お客様に活用事例を発表して頂くというイベントなのですが、CSとしては、我々も参考になる新たな事例が知れたり、解約しようか悩んでいるお客様が、他のすごく活用してくださっているお客様を見て自然とモチベーションを上げてくださったりして、非常にありがたいイベントになっています。
昨年初めてオンラインで開催しましたが、2,000名以上の方に見ていただけてチャットも6,600件とかなり盛り上がっていました。
3つの失敗から学んだこと
担当者への機能支援に集中して失敗
次に、失敗談とそこから学んだことについてお話いたします。まず1つ目は「担当者への機能支援に集中して失敗」です。
Salesforceに熱心な担当者の方がいたら我々も喜んで支援していたのですが、更新のタイミングになると意思決定者の方がしたかったこととは別だったという理由から解約になるケースがそれなりにありました。
小父内:チャンピオンが違うということですね。
北川:仰る通りです。そこでチャンピオンをどう巻き込むか考えた時に、やはりチャンピオンが考えているKPIがSalesforce上で可視化、改善される必要があると思い、お客様にポストイットを使ってKPIを書いていただくワークショップなどをプログラム化したところ、非常に好評だったため、続けています。あとはビジネスレビューを定期的に行うことで意思決定者を巻き込んでいます。
ユーザグループに新規ユーザーが定着しない
北川:続いて2つ目の失敗が「ユーザーグループに新規ユーザーが定着しない」です。
ユーザグループ立ち上げ当初はコアなユーザーの方中心となるのは当然ですが、いつまでたってもコアなユーザーの方しかいないような状況になっていました。
ですので、新しく参加いただいた方々にアンケートをとるとすでにコミュニティが出来上がっていて入りづらい、内容のレベルが高いというようなお声がありました。
そこで我々は場を分けることと、新規ユーザーの方とコアユーザーの方を徐々に融合することを行いました。例えば、利用開始2年目までの方にはルーキー会、それ以降の方はユーザー会、というように会自体を分けてみたり、1つの会の中でも新機能紹介や事例紹介は合同で、ワークショップやディスカッションは初心者、中級者&上級者で分けることでレベル感を合わせました。一方で懇親会ではミックスしてコミュニケーションする場も作って、徐々に融合していきました。
リスクが見えているお客様は本当のリスクではなかった
北川:最後が「リスクが見えているお客様は本当のリスクではなかった」です。
我々は営業からの解約・削減リスクありというアラートを受けて支援を行うこともあるのですが、分析してみると営業からアラートの上がるお客様は総じてヘルススコアが高いことが判明したんです。つまり本当にリスクのある、ヘルススコアが低くて営業も訪問していないお客様には営業からのアラートではタッチできないことがわかり、その層に対して、ヘルススコアをベースにCS独自でアプローチを始めました。
(北川さん作成資料より、抜粋)
より多くのお客様に一貫したカスタマーサクセスを提供
ハイタッチ支援の型化
北川:最後に現在取り組んでいるチャレンジを2つご紹介いたします。1つはハイタッチ支援の型化です。
質を担保しながらより多くのお客様をご支援するために、例えば3ヶ月で6回の支援でどうすればお客様の課題を解決できるか、というように仮想のフレームワークを決めてメソッドを考案しています。
営業部門もカスタマーサクセス視点を持つべく、ノウハウを積極的にシェア
北川:2つ目が営業へのCSノウハウのトランスファーです。
やはりお客様に直接リーチしている営業がCSのノウハウを持っていれば一貫したCSをご提供できるので、ノウハウやコンテンツを積極的に渡しています。ただいきなりCSと同じことを行なってもらうのは難しいので、まずはコンテンツ一覧やメニューを渡して、こういうお客様にはこのメニューを持っていってくださいというようなマニュアル化を行いました。
また、チームによっては定期的に営業とCSで1on1を実施して、お客様の利用状況に応じたに施策のアドバイスをして徐々に営業のCS力を上げていこうとしています。