さまざまな商品やサービスにおいて、新規ユーザーの獲得やリピーターの数の維持・向上は非常に大きな課題です。しかし、似た商品・サービスは多く、質や機能によって差別化することは難しくなってきました。この傾向は、国内の少子高齢化の影響も相まって、ますます強まると予想されています。
そのような時代に、これからも市場で生き残っていくための鍵となるのがユーザーのファン化です。この記事では、ファン化の概要と既存ユーザーをファン化するためのポイントやマーケティング例、注意点を解説します。
「ファン化」とは?
ファン化とは、ユーザーを自社が提供する商品やサービス、ブランド、もしくは企業そのものに対して深い愛着を持つようになってもらい、より強いつながりを持つユーザーに育てることをいいます。
一般的な商品やサービスをただ利用しているだけのユーザーは、より自分に合うものや、目新しく話題性の高いものがあれば、自社の商品・サービスから離れて新しいものに移ってしまいがちです。
しかし、ファン化はユーザーに対して商品・サービスの機能や品質を求めるだけでなく、愛着を感じてもらうことで、ユーザーが維持・定着できることを目指します。
ユーザーの定着は、ビジネスにおいて重要です。一般的には新規顧客の獲得に力を入れがちですが、ユーザーをただの利用者としてではなく、ファン、つまり商品やサービス、ブランドなどに対する応援者として定着できれば、業績の安定も期待できます。
ただそのためには、ユーザーに適したマーケティング手法を取り入れる必要もあるでしょう。
ファン化のために、顧客ロイヤリティを高めるための基準となる指標や、成功するためのポイントについては、下記記事もご参考してください。
ユーザーをファン化させるメリット
ユーザーが商品やサービスなどに愛着を持ってくれれば、企業には大きなメリットがあるように感じられます。しかし、ファン化のための施策をより正確に立案・実施するには、これらのメリットについてもしっかり把握しておくことが大切です。
ここでは、ユーザーをファン化させると得られるメリットを解説します。
口コミや紹介でサービスや商品を広めてくれる
ファン化の大きなメリットの1つは、気に入った自社のサービスや商品のことを、ユーザー自身が積極的に広めてくれることです。
私たちはインターネットの普及によって、自分の見解や意見を広く世の中に発信する手段を多く手に入れました。Webサイトやブログだけでなく、SNSでは写真や動画などを添付してより手軽に、わかりやすく情報を発信できます。
このようなUGC(User Generated Contents=ユーザー生成コンテンツ)は、広告など企業による発信に比べ他のユーザーの共感を得やすいため、サービスや商品の情報の拡散に効果的です。
ファンはサービスや商品について、「よい」「すばらしい」と感じたことをも同様です。ファンは企業に依頼されていないにもかかわらず、自ら積極的にその性能や機能、よいところや具体的な使い方などの情報を発信してくれます。
企業・ブランド単位でリピート購入してもらえる
商品やサービスのファンになると、同じものを継続して利用する、いわゆるリピート購入してもらえるようになります。
日用品や消耗品のような、使うとなくなったり減ったりする商品にとって、リピート購入は重要です。一般に、新規ユーザーへの販売コストは、既存ユーザーへの販売コストの5倍かかるといわれています。
またファンが興味を抱くのは、気に入った商品やサービスだけではありません。気に入った商品・サービスが含まれるブランドや、企業全体にも興味を持つ傾向があります。
たとえば、スマートフォンメーカーがスマートフォン以外に提供している音楽配信サービス、周辺機器販売、インターネットサービスなどはそのよい例です。
ファンになると、特定の商品やサービスだけでなく、提供する自社の幅広いプロダクトのファンになる可能性もあります。
購入単価向上につながりやすくなる
ファンにとって商品やサービスの利用は、ロイヤリティ(忠誠度)の証です。利用し続けることが重要であり、そのためのコストはある程度「必要経費」のように捉えられやすい傾向があります。
たとえば、他者が同じ機能や性能の商品を発売またはすでに提供していても、多少価格が安いくらいで簡単に他に乗り換える可能性は低いと考えられます。逆にいえば、同等の製品であってもファンであるだけで、高単価に設定することも可能です。
また、これまで興味のなかった他の商品にまで興味を持つようになり、購入する可能性も高まることから、購入単価の向上につながりやすくなるでしょう。
安定的な売上を担保することができる
ファンに対するリピート購入の増加、購入単価の向上は、企業にとっては安定的な売上を担保することにつながります。
新規ユーザーへの販売は、どのような人なのかまったくわからないユーザーが対象のため、どの程度の売上が見込めるのか見当もつきません。
しかし、ファン化された既存ユーザーの場合は、どれくらい買ってくれるのかについては比較的把握しやすくなります。
企業が、得られた利益を商品・サービスの改良や新規開発に予算をかけやすくなり、さらに業績を上げるために配分することも可能です。
ファン化を促すために必要なポイント
ユーザーをファン化させるといわれ、すぐに具体的な手段が思いつくという人は少ないでしょう。何ごとも新しいことを始めるには、まず現実を知ることが大切です。
ファン化でいうと、ユーザーの理解と、効果的な手段やアプローチを把握する必要があります。
ここでは、ユーザーのファン化を促すために必要なポイントを考えてみましょう。
ユーザーが求めるものを把握する
自社の商品やサービスのファンになってもらうには、まずユーザーがどのような商品・サービスを求めているかを把握することが重要です。
まずは対象となる商品・サービスのユーザーとして、どのような人物像が想定できるか、ペルソナを設定することから始めましょう。
ペルソナ設定ではユーザーを、年齢層や性別、職業、価値観などの項目ごとに具体的に設定します。そして、アンケートや販売データ、接客やカスタマーセンターに寄せられたユーザーの声などを参考にすれば、ユーザーの求めるものを絞り込むことも可能です。
具体的なペルソナ設定は、想定されるユーザーの求めるものに沿った商品・サービスが具体的に絞り込むためには欠かせません。さまざまな情報からユーザーを総合的に捉えてペルソナを設定し、求めるものを具体的に絞り込んでいきましょう。
ユーザー一人ひとりに合わせたアプローチを行う
ユーザーの求めるものを把握するときは「平均的なユーザーが100人いる」のではなく、あくまで「さまざまなものを求めるそれぞれのユーザーを合わせると100人いる」と捉えることが大切です。あくまでユーザーの求めるものは一人ひとり違い、それぞれに合わせたアプローチが必要と考えましょう。
テクノロジーの進歩によってユーザーごとのデータが把握できるようになったため、データを元にユーザー一人ひとりとよい関係を築く、CRM(Customer Relationship Management=顧客関係管理)システムも多く開発されています。
一人ひとりに合わせたきめ細かいサービスや商品を、ユーザーは「自分のために開発された」ように感じ、満足し、提供する企業やブランドに対する信頼度を高めていくのです。
ユーザーに信頼感や親しみを持ってもらう
商品やサービスに対するロイヤリティがどれほど高くても、それを提供する企業やブランドに対して信頼感や親しみを抱くようにならなくては、ファンとはいえないでしょう。これは企業の、ユーザーに対する態度や姿勢が問われているといえます。
たとえば、定期的に継続して利用しているユーザーに「自分は大切にされている、大切に扱われている」と感じてもらうには、次のような取り組みが有効です。
- アフターサービスを充実させ、問い合わせしやすいようカスタマーサービスを整備する
- 定期的な利用で、ボーナスポイントがもらえる、割引があるなどの特典が受けられる
- 誕生月に利用すると、プレゼントがもらえる など
他にも、カスタマーサービスにかけた電話がすぐつながる、電話だけでなくメールやチャットでも問い合わせできる、定期購入では送料が無料になるといったサービスも考えられます。
ユーザーが求めるものを分析する際にあわせて検討することで、よりペルソナがはっきりと見えてくるかもしれません。
ファン化につながるマーケティング手法例
ファン化が自社のメリットになるとしても、今あるユーザーをどのようにすればファン化できるのかがわからなければどうしようもありません。まずはユーザーを特定し、アプローチしたり、ユーザーからの意見を聞いたり、そのような場を作ったりする必要があります。
ここで挙げるのは、ユーザーのファン化につなげられる、マーケティング手法の例です。それぞれの手法の特徴を捉え、ぜひ独自の手法選びに活用してください。
ファンコミュニティの構築
ユーザーとの接点として、何かしらの連絡ができるようなら、ファンコミュニティへの参加を促し、構築するのは有効な手法です。
ユーザーは、企業が発信するテレビや新聞、駅でのポスターなどよりも、実際に商品やサービスを利用したユーザーの評価を重視するユーザーが増えています。
ファンコミュニティを構築し、ユーザーの交流が活発になれば、他のユーザーの評価がより身近なものとして感じられ、結果として販売する機会を広げられるでしょう。
また他のユーザーと身近に交流できることは、商品やサービスの使い方や性質といったそれ自体の理解を深めることにもつながります。今まで試したことのなかった使い方ができるため、ユーザーの利用の幅を広げるのにも効果的です。
さらに商品・サービスのよい点だけでなく、よくない点についてのフィードバックも頻繁に寄せられる可能性があります。そこで得られた情報を検証すれば、これまでとは違ったユーザーの獲得も可能です。
このように、ファンコミュニティをしっかり構築すればファンとの接点だけでなく、信頼感や忌憚のない貴重な意見をもらう機会も増やせます。
SNSの運用
ユーザーとの接点を増やす方法には、SNSを活用し、運用する方法もあります。現代は価値観が多様化しているため、特定の情報源だけに頼るのではなく、複数のタッチポイントを同時に利用することが大切です。
TwitterやInstagram、FacebookといったSNSのそれぞれで、アカウントを開設します。これらのSNSでは、それぞれユーザーの年齢層や属性、コンテンツに特徴があるため、適したサービスを利用することが重要です。
適切なユーザーに、画像や動画など効果的なコンテンツを利用すれば、伝えたいことがきちんと伝えられ、場合によっては一気に数百万ユーザーに届けることもできます。
ファンミーティングの実施
ファンミーティングとは、特定の商品・サービスのユーザーのうち、限られたユーザーだけが参加できる交流の場です。通常、誰でも参加できるのではなく、一部のユーザーにのみ案内され、なかには招待されたユーザー以外は参加できないものもあります。
それだけに参加できたユーザーは、自分が企業から優遇されていると実感できるため、一種のステータスになるともいえるでしょう。
普段は顔を見ることのない、企業のスタッフとユーザーが直接交流できるため、企業にとってはユーザーからの要望についてより深く尋ねたり、正確な情報をしっかり伝えられたりといったメリットがあります。
一方でユーザーにとっても、「さらによい商品にしてほしい」などの気持ちを伝えられる貴重な機会となる、双方にとってメリットが期待できる施策です。
会員制サービス
商品やサービスの性質によっては、会員制度を設け、限定的に特別なサービスを提供するのも有効です。会員制サービスには、たとえば会員のみの限定セールや限定商品の提供などが考えられます。
多くのサービスに用いられているサブスクリプション型サービスも、広い意味では会員制サービスの1つです。サブスクリプション型サービスには、他社サービスへの離脱防止や安定的な売上の確保といったメリットがあります。
自社の商品やサービスで継続的な提供が見込めるようなら、サブスクリプション型サービスを含む会員制サービスの導入も検討してみましょう。
企業のファン化への取り組み事例
ここからは、実際にユーザーのファン化に取り組んだ企業の取り組み事例を紹介します。業種も業態も異なりますが、提供されているのはそれぞれ商品またはサービスに見合ったとされている施策です。
自社に取り入れられるポイントがないか、具体的に想像しながら、参考にできるポイントを探してみましょう。
株式会社カインズの事例
株式会社カインズは、関東地方を中心にホームセンター「CAINZ」を展開している企業です。
株式会社カインズでは、暮らしをよくするために自分でやってみることをすべて「DIY」と捉え、DIYに携わるユーザーをサポートするための取り組みを行っています。
しかし、店舗での「オフライン」のつながりだけでは、ユーザーの実際の活用例や状況が十分把握できていませんでした。
そこで株式会社カインズでは、ユーザーとオンラインでつながるシステムを導入し、すでにあった会員情報とデータを結合してユーザーコミュニティを構築し、ユーザーとオンラインでもつながれるようになっています。
その後、オフラインでのワークショップなどを通じたユーザー同士の交流も増え、オンラインとは互いに補完しあうように利用している状況です。
導入事例インタビューはこちら▼
DIYをライフスタイル(生活文化)に!カインズが取り組む「コミュニティ」の導入背景と展望とは
株式会社コメダの事例
全国にフルサービス型の喫茶店を展開している株式会社コメダは、ファンコミュニティ「さんかく屋根の下」を構築しており、すでに約1万人が会員として登録しています。
もともと店舗の95%がフランチャイズ店であり、店舗ごとにリピートユーザーが付いていたことから、それぞれの店舗のリピートユーザーを店舗の枠を超えて、「コメダのユーザー」としてイベントをスタートしました。
しかし、店舗が全国にあるため、オフラインだけでは参加できるユーザーが限られてしまいます。そこから、オンラインでファンコミュニティを導入しました。
導入後はアクティブユーザーがより明確になり、ユーザーから「運営との会話を楽しみたい」といった声が上がるなど、ユーザーがコミュニティへ積極的に参加している状況です。
導入事例インタビューはこちら▼
「より多くのお客様が交流ができる」コミュニティを。株式会社コメダが運営する「さんかく屋根の下」がcoorumを選んだ理由。
サイボウズ株式会社の事例
ビジネスの現場において、さまざまな業務の課題を解決し、快適にコミュニケーションできることを目的としたグループウェア「kintone」を提供しているのが、サイボウズ株式会社です。
サイボウズ株式会社は、「すごくなくてもいい」をコンセプトに立ち上げたユーザーコミュニティ「キンコミ」を、誰でも気軽に参加できるよう運営しています。
もともと提供しているグループウェアは、ユーザーがカスタマイズすることでより使いやすくするタイプのツールです。それゆえキンコミは、機能があることを知らない、うまく使いこなせずに使いづらいと感じているユーザーに対するサポートとしても大いに活用されています。
キンコミは参加しているユーザーが、別のユーザーの質問や困りごとに回答できるしくみです。導入以前から、SNSなどを使ったオンラインコミュニティには心理的なハードルを感じていたユーザーにとって、キンコミは参加のハードルは低いと評価されています。
下のリンク先で紹介されているのは、ファン化やファンマーケティングの例です。実際に導入し運営しているスタッフのインタビューもあるため、そのメリット、成功のポイントと感じていることなども掲載されています。ぜひ導入の検討に役立ててください。
導入事例インタビューはこちら▼
“すごくなくてもいい” サイボウズ社が提供するユーザーコミュニティ「キンコミ」の参加者が増え続ける理由
ファン化を促す上での注意点
ファン化には多くのメリットもありますが、実現するにはさまざまな点に注意する必要があります。ファン化とは一人ひとりのユーザーに配慮しつつ、それを企業の目的に役立てる施策の1つです。ユーザーと企業の両方に、メリットがなくてはなりません。
ここではユーザーのファン化を促すときの注意すべき点を解説します。
ファン化は長期的に取り組む必要がある
一般に、特定の商品やサービスのユーザーが、高いロイヤリティを持つファンにまでなるには長い時間と多くの労力がかかります。
ファンマーケティングを始めたからといってすぐに効果が現れることはなく、むしろ導入後に調整、変更することの方が多いかもしれません。
しかし、そうして活動してきたこと自体がストーリーとなってユーザーに届けば、その価値観や理念に共感するユーザーが、ファンになってくれる可能性があります。
ファン化の施策は、競合他社との差別化を図るための施策の1つです。そう考えれば、簡単に成し遂げられることではない、難しいことであることがわかります。
距離感を正しく認識する必要がある
ファンコミュニティにおいてファンは、運営するスタッフや創業者・代表者の価値観、人柄などに興味を抱くことがあります。
しかし、コミュニティにおける運営とユーザーの距離感を誤り、本音などをあからさまに発信してしまうと、幻滅され批判する側に回ってしまうこともあるため注意が必要です。
コミュニティでは、立場を忘れた横柄な言動やプライベートな発信は、しばしば炎上の原因になります。運営には炎上させないようなポリシーの策定や、炎上した場合の誠実な対応方法について、具体的に定めておく必要があるでしょう。
ユーザーをファン化させて事業を盛り上げよう
価値観の多様化が進む昨今、企業にも従来のような活動とは違う、ユーザーへの働きかけが重視されるようになってきました。
その1つが、ユーザーをただのユーザーではなく、自社の商品やサービスに深い愛着と高いロイヤリティを持つファンとなってもらうための活動「ファン化」です。
ファン化に活用できるのは、SNSやファンコミュニティの構築など方法は多くありますが、どのようなものでも運営側はユーザーと適切な距離を取り、一定の時間がかかるものと考え焦らずに活動していく必要があります。
とはいえ、ファン化させるのは簡単ではありません。実際の企業の実例を参考に、取り入れられることを自社に取り入れ、現在のユーザーをしっかりフォローしてファン化し、事業全体を盛り上げられるよう上手に活用しましょう。