【進化を続けるCS】 Sansan・山田さんが考える、最新カスタマーサクセスとは

2023-07-24 イベント

2020年10月1日に開催したオンライン対談イベント『【進化を続けるCS】Sansan·山田流カスタマーサクセスを大解剖』にて、Sansan社の山田ひさのり氏にご登壇いただき、弊社CCOの小父内信也がモデレーターを務めました。
イベントでは、ゲストの山田氏が2020年7月に出版された『カスタマーサクセス実行戦略』の執筆時点からすでに進化しているカスタマーサクセス(以下CS)についてお話を頂いております。

今回イベントに参加できなかった方にもお楽しみ頂けるよう、本レポートではイベントの内容をダイジェストでお届けします。

山田 ひさのり 氏(以下、山田) Twitter: @hisyamada
Sansan株式会社 カスタマーサクセス部 カスタマーサクセス
マーケティングディレクター
小父内 信也(以下、小父内) Twitter: @obushin
株式会社Asobica CCO
インタビュー記事はこちら

山田:
2013年、「世界を変える新たなビジネスを」という考えに共感し、クラウド名刺管理サービス「Sansan」および名刺アプリ「Eight」の開発・提供を行うSansan株式会社に入社しました。現在はSansanのカスタマーサクセス部で、全体戦略の立案と既存顧客とのエンゲージメント強化を担当しています。

2020年7月には、『カスタマーサクセス実行戦略』という本を出版しました。執筆が完了したのは2019年12月頃で、その時点で私が持っている全てのナレッジを投入したつもりでしたが、出版時に見直してみると、「もうこの考え古いかも…」と思われる点がいくつかあります。

本日は、同書執筆時点と今で大きく変わったと感じる4点についてお話しします。Sansanの最新のカスタマーサクセス理論の一部としてご参考いただければ幸いです。

小父内:
Sansanの行っているCSについては書籍で学んでいただけます。今回はその先である、リアルタイムに変化し、進化し続けるCSについてお話しいただきます。繰り返し学習し、改善していくことはCSとして重要であり、CSのあり方そのものです。本を深掘るのではなく、進化し続けるCSということに焦点を当てていただければと思います。

フェーズによって変化する組織

山田:
本の中では、CSの組織がこのような概念図で紹介されています。左側の図は、CSが持つべき組織を表しています。図中のCSMはCSマネージャーが所属してCSを行うことを示しています。そして、主に契約の更新であるRenewal Salesを当社の場合はCS内にて行っており、この営業としての機能も非常に重要です。また、これらのRenewal Salesをしっかりと行いつつもコミュニティ運営やコンテンツを届ける、Customer Marketingの機能もCSには必要です。

この3つの組織で持っている5つの機能を、右の図に表しています。

執筆時点の組織構造1
(Sansan社作成スライド資料より)

CSマネージャーが所属してCSを行うCSM、解約阻止などの営業を行うRenewal Salesの2つは左の図の通りなのですが、Customer Marketingを分解すると、マーケティングとして必要な機能が3つあります。

1つ目はTraining and Communityで、コミュニティの運営や、トレーニングプログラムを作りお客様に届けて行く機能です。オンボーディングだけでなく、オンボーディング後の利用促進の役割もここに含まれています。

2つ目のTechnology and Marketingは、お客様とのコミュニケーションにおいて必要である、コミュニティサイトやメール配信などは全てTechnologyの力が必要であるということを示しています。ここにはTechnology基盤を整え、コンテンツをどのように配置するのかなど、Marketingの要素も必要です。

3つ目は、プロダクトにフィードバックを返していくProduct Feedbackです。

執筆時点の組織構造2
(Sansan社作成スライド資料より)

執筆時点での顧客の分け方では、Small Business、Medium Business、Enterpriseで構成されたピラミッドがあります。その右側にCSM、左側にRenewal Salesと示しているのですが、それぞれ横軸で区切り、CSM側では下からSCS、MCS、ECSとなります。Medium Businessで説明すると、Medium BusinessにRenewal SalesとCSMの両方がいて、お客様を営業面とCS面でフォローしていきます。この2つについては、ピラミッドの層ごとにそれぞれ担当がいますが、下側のCustomer Marketingについては、層ごとではなく全てのお客様に対してサポートを行います。

執筆を始めた2019年7月時点では、このようにピラミッドの3方向を囲む、3つの組織と5つの機能が必要だと考えていました。

現在の組織構造
(Sansan社作成スライド資料より)

山田:
こちらが現在の概念図なのですが、売り上げ最大化の観点から、当初CS内で行っていたRenewal Salesは営業部へ吸収され、CSはCS部として独立しました。

Renewal Salesが営業部にいるべきかCS部にいるべきかはよく議論になる話で、当社も両方を味わっており、どちらも良い点悪い点があるため、どちらが良いかはっきりお伝えすることは難しいです。

小父内:
このように変化した要因を教えていただけますか?

山田:
一番の理由は時間感覚の違いです。営業は月単位での売上目標がありますが、CSは月単位でお客様を支援すると考えると時間が短すぎます。お客様には、最低でも四半期、状況によっては半年支援する中で検討いただきます。タイムスパンによって目標、KPIの持たせ方も変わるため、月単位での目標設定だとCSにはフィットしないんです。

小父内:
この図だと、MarketingとTechnologyが別々になっていますね。

山田:
最近のトレンドでもありますが、TechnologyについてはCS Operationsを新設し、そこに任せています。Marketingを行おうとするとメール配信システムなど基盤を整える必要があるため、Technology基盤を整えることとMarketingはセットだと思います。
しかし、コンテンツを作成することとTechnology基盤を整えることはミッションとして考えるとズレがあるため、現在は役割を分けています。

小父内:
これは、会社や事業のフェーズによって異なるのでしょうか?

山田:
異なります。人数が少ない場合は最初の図のように一体の方が良いです。Marketingコンテンツの作成とデリバリーするシステムの構築は、最初はセットで考え、同じ方が対応すべきです。
また、最初の頃はメンバーが二人いると二人ともがCSMとなりがちです。そこを0.5人月分はコンテンツの作成の時間にあてるなどの人的リソースの最適化も必要です。

小父内:
半年で、組織としての違いがこれだけ出てくるのは面白いですね。

山田:
大きな変化の1つが、Technical SupportがCSの中に入ってきたことです。サポートチームは昔、プロダクトの一部だったのですが、CSにあるべきなのではないかと議論になり、現在はここに位置しています。

執筆時点のKPI
(Sansan社作成スライド資料より)

KPIの変化

山田:
執筆時点ではGainsight社が提示しているNet Retention Rateを採用しています(上画像参照)。SaaS業界では、チャーンレートを年間を通して10%以下に抑えるという『10%ルール』と言われるものがあり、月次に直すと約0.8%以下に保つと良いと言われています。

マチュリティレベルの一番初期段階であるREACTIVE、つまり未成熟なCS組織では、約80%がリテンションし、20%がチャーンすると言われています。エクスパンションで積み上げてもリテンション率は合計92%です。この状態だとまだバケツに穴が開いています。グラフの青い部分が100%を超える必要があるため、最低でもINSIGHTS&ACTIONSまでもっていく必要があります。

最終段階であるTRANSFORMATIONでは月次のチャーン率が0.6%以下であり、青い部分も125%なので、既存顧客も含めると25%は成長できるという状態です。

SaaS事業の成績表としてこちらを意識することが重要です。当社は、チャーンはTRANSFORMATION(0.65~0.66%)のフェーズですが、エクスパンションについてはOUTCOMESの状態なのでまだまだ課題はあります。

(Sansan社作成スライド資料より)

上は月次解約率の式なのですが、この式では新規契約が多いと月次解約率は下がってしまいます。新規顧客が獲得できているので、事業としては好調であるという理解で間違ってはいないのですが、CSが新規顧客を連れてくるわけではないので、単純にCSの通知表と言う意味では正しいものではないと私は考えています。

新規契約の影響を受けないCSの通知表として、月次更新解約率を見ています。
こちらは新規契約の影響はなく、既存顧客がどれだけ更新してくれたのかを見ることができます。季節要因も数年単位で加味した上で、目標数値を持っておき、目標達成できているかを見るようにしています。

どちらが正しいと言うわけではなく、解約率については両方を見る必要があります。
顧客数によらず、どの事業規模でも見た方が良いと思います。

Technical Supportとの融合

山田:
カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違いですが、サポートは問題が発生してから対処する「守り」の姿勢、Reactiveな状態であるのに対して、CSは問題を発生させない「攻め」の姿勢でProactiveです。ただし、ユーザーへの顧客体験としては統一されているべき、という視点から両組織を融合する決定をしました。

カスタマーサポートがプロダクト内にあった場合の主要KPIは、お問い合わせ数の削減、回答時間の短縮、顧客対応の質の向上でした。そこからもう少し、お客様に還元できるものはないのか、CSが介在する意味をもう少し突き詰めるべきではないか?という意見がテクニカルサポートのメンバーから上がってきたのです。

顧客からの問い合わせは月に何百件、何千件とあると思うのですが、ただ迅速に回答するだけで良いのか?困っていることを解決することは大切だが、少し捉え方を変えて、これはお客様の声なのではないかと考えるようになりました。

そして、CSとテクニカルサポートが融合した結果、ただ回答するのではなく、お問い合わせは「やりたいことが実現できない」から発生するという仮定の下、「どうなっていたらその問い合わせがうまれなかったか」の視点を付加し、「お問い合わせの発生起因」を分解する、という視点で考えるように変化しました。

小父内:
単純に打ち返すだけではなく、どうしたらこの問い合わせは発生しなかったのか、どうすればプロダクトとしてうまく機能できたのかを重要視するようになったのですね。

CS+TS融合の例
(Sansan社作成スライド資料より)

全ての問い合わせを4つに分類し、問い合わせ先の機能名とセットでProduct Feedbackとして開始しました。
この施策を始め、2020年8月は約500件の機能要望が出てきたことは大きな成果です。

コミュニティ戦略

山田:
(コロナ前の話ではありますが)最初はオフラインファーストでコミュニティを開始し、人間関係、コミュニティの関心ごとを揃えていくことが重要です。我々の場合は、コミュニティはサクセス事例を生み出す苗床だと位置付け、サクセス事例に出てくるお客様をコミュニティから輩出しようと考えています。

ただ、そのうち「活動は本当に事業貢献しているのか?」と考えるようになりました。
今は、オンラインコミュニティを成功させることがマストだと考えています。

小父内:
コミュニティ自体が間違っているのではなく、どう生かすのか、どこに貢献させるのかを考えるということですね。

山田:
オフラインの場合は、雰囲気重視で関係性は構築できるが、事業貢献につなげるための二次利用がしづらいと思うんです。
オンラインの場合、「コミュニティへの投稿数が多いから興味関心が高まっているのではないか」など、お客様のアクティビティ数値の動きを見て判断することができます。例えば、「この事例に対して何回『いいね』が付いた」や、「顧客間のSNS上の会話で特定の質問が出やすい」などですね。

オフラインで終わるのではなく、オンラインまでつなげないと、二次利用ができないため事業貢献しているとは言いづらいと、現時点で私は考えています。

小父内:
その後の行動に移すことを考えると、ユーザーのアクティビティが可視化されるということがものすごく重要だということですね。
最後に、山田さんにとってCSとは何か教えていただけますか?

山田:
これは私のCS仲間からの受け売りなんですが、「三方良し」だと思っています。CSは、お客さんと自社と社会に対して意味のある活動だと考えています。

三方良しの現代版が私にとってのCSです。

小父内信也

株式会社Asobica CCO
2010年、名刺管理システムのSansan株式会社に入社。データ化部門責任者を経て、名刺アプリEightのコミュニティマネージャーへ。現在は、株式会社AsobicaにCCOとして参画中。

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