「カスタマーマーケティングという分野の先駆者に」 Sansan山田氏が実践するカスタマーマーケティングを徹底解剖

ビジネスの出会い=名刺をクラウド上に蓄積することで、これまで気付かなかったビジネスチャンスを広げ、出会いにイノベーションを生み出すことをミッションとして掲げるSansan株式会社。同社にて、シニアカスタマーマーケティングマネージャーを務める山田ひさのりさんに、カスタマーマーケティング(CM)目線での売り上げ最大化と、その先のコミュニティの目指すゴールについてお話を伺いました。

山田 ひさのり氏
Sansan株式会社 カスタマーサクセス部 シニアカスタマーマーケティングマネージャー
⼤学卒業後、ゲームプログラマーとしてキャリアをスタート。その後Web開発のPG/SEを経て、スタートアップのビジネス開発に興味を持つ。KLab株式会社でモバイルゲームのプロデューサーや新規事業開発の部⻑を歴任後、Sansan株式会社に⼊社。過去培ったエンジニアリングの知識とビジネス開発の経験を活かし、Sansanのプロダクトアライアンスマネージャーとして、SansanAPIの外部公開や、Dynamics CRM / Office365 / Kintone / Marketo / SPEEDA などとのSansan連携を実現。 現在はカスタマーサクセス部に所属し、Sansanのカスタマーサクセス戦略の⽴案や、カスタマーサクセスプラットフォームの構築に従事している。

twitter:@hisyamada

カスタマーマーケティングマネージャーの役割とは

―まずは、山田さんのこれまでのキャリアについて教えて下さい。

僕のキャリアは、最初はコンシュマーゲームのエンジニアからスタートして、そこから、モバイル系のコンテンツの会社に転職しました。そこでは12年程勤めましたが、エンジニアの管理職やセールスのマネージャー、広報、社長直下の新規事業開発など社内異動を幅広くさせて頂き、それで新規事業が好きになりました。そこから、スタートアップもいいかなと思い、ご縁があってSansanに入社しました。

―Sansanに入られてからは何をされていましたか。

最初は開発部門で、コストを抑えつつ、より早く正確に名刺をデータ化するためのシステム基盤を作るPMをやっていました。あの時は自動化が少なくてヒュマンオペレーションが多かったので、オペレーターの人数が非常に多く、作業工程も7~8段階あってという形でした。それで、名刺のデータ化部隊に2年ぐらい従事して、その後は新規事業開発でSansanのAPIの外部公開を主導しました。その後、カスタマーサクセスのテクノロジー文脈を強めたいという話があり、カスタマーサクセス部に異動しました。カスタマーサクセスでは、全方位的な立ち上げ支援業務をメインでやっていました。我々の場合は、サービスの性質上、名刺取り込みをしないとそもそも使われないので、創業後3~4年のカスタマーサクセスの活動は名刺取り込みが主でした。当時社内では、名刺を取り込んでもらうことにすごくコミットする部門という風に思われていたかもしれないです。

―カスタマーサクセスを担当されてから取り組んだことを具体的に教えて頂けますか。

まず、カスタマーサクセスの効率化から進めました。今でもやっている会社は多いと思いますが、メールにサービスの使い方やマニュアルを添付して送るスタイルだと、添付ファイルが行方不明になったりするのでURLで指定した方が良さそうだとか、内容変更時に再度送信するのが非効率だなと思ったので、利用促進用のオウンドメディアを作ろうと決めて、作成したのが初めにやったことです。

―現在のカスタマーマーケティングマネージャーという役職はどういった役割なのでしょうか。

僕のカスタマーサクセスでのミッションはテクノロジーを使ってCSMのサポートをしていくことです。ただ、そのサポートの仕方は様々で、Marketing Automationを使った既存顧客へのメール配信とか、オウンドメディアを有効に使うための仕組み作りとか、どんどんテクノロジーを使った支援の裾野が広がって行ったので、そうこうしているうちに、既存顧客のアップセルやヘルスコアの向上など、既存顧客に対するマスでの接触をまとめて面倒見る部門が必要だろうという話になり、名称としてカスタマーマーケティングという名前になりました。

―営業企画のカスタマー版みたいな感じですね。

そうですね、海外だとカスタマーオペレーションという表現でまとめられていますが、そういう感じです。カスタマーサクセスのメンバー自体は、顧客に向き合えば向き合うほど個別化されていくので、全体的に支援する人間が必要でした。僕はその辺りをずっとやっていたので、カスタマーマーケティングの売り上げを最大化する動きまで含めて見るようになりました。

―日本でそこに対してアプローチしている企業はなかなかないですよね。

進んでいる会社はそういう組織があったり、自主的にそういうことをしているなと思う人はいたりしますが、やはりまだ歴史の問題があると思います。Sansanのサービスは有難いことに12年続いていて、ハイタッチ文脈での顧客接触に10年以上の歴史があるのが強いですね。

カスタマーサクセスの組織の相談で話を聞いていると、ハイタッチで顧客を数年見続けた経験がある人が育って来ないと次のフェーズに行けないなと感じます。顧客のことを3-4年見た経験のあるCSMが、ある程度人数がいることで後工程まで考えたオンボーディングが出来ますから。Sansanの場合は、長い歴史の中で中堅の社員が育ってきて、かつそこで得たノウハウを組織レベルで継承できていることが大きいです。我々が進んでいるというよりも、1人が顧客を長く見てきたというフェーズを経ないとなかなかスケールできる組織を足腰強く作れないのではないかなと思います。

メインのミッションは、既存顧客における商談数の最大化

―カスタマーマーケティングの幅広い職域の中で、メインのミッションはどういったところでしょうか。

既存顧客の商談機会の最大化ですね。SaaSも長いことビジネスをやっていくと、新規の売り上げを既存の売り上げが上回るポイントが必ず存在します。
カスタマーサクセスは1人1人の顧客に寄り添ってエンゲージメントを高めることが出来ますが、一方でスケールしづらいという問題があります。ただ、企業としてはスケールさせることが最終的には求められますので、既存顧客に対してスケールできるアプローチをするというのが大事だと思っています。

―既存顧客の商談機会の最大化は他の企業の方も興味があると思いますが、アプローチの方法を具体的に教えて頂けますか。

具体的には、ユーザー会とは別に既存顧客向けのセミナーを実施しています。トレーニングの一環としてやりつつ、最後はアップセルに繋げるEXITを用意した内容にすることが肝ですね。
例えば、セールスフォース連携機能のトレーニングセミナーを開催したとします。そのセミナーの最後に、連携機能の一歩先として、生産性が上がる有償機能を紹介してクローズすると、「もう少し聞いてみたいな」となるので、営業に相談したい方はアンケートにチェックをして下さいと誘導することでMQL化します。

考え方自体はマーケティングと同じですが、マーケティング部門では実現は難しいでしょう。何故ならマーケティングの立場だと、カスタマーサクセスと比較して、顧客のことを知る機会が少ないからです。顧客のことをしっかり知っていてもフィールドセールスがそこまでやるのは難しいですし、運用オペレーションから入るというのが肝なので、営業企画がやるのも難しいです。なので、カスタマーオペレーションがセミナー自体をデザインして、アップセルのEXITを用意して営業にパスするのが今のところベターだと思っています。あとは、スケール感を手に入れるという文脈でオフラインのセミナーを同時にオンラインでLive中継をしたり、利用率からコンバージョンしそうな人に合うセミナーの案内を送ったりもしています。

愚直に顧客と向き合う重要性

―ここまでお話を聞いて、常に0から1を作り上げられてきたのだなと思ったのですが、そのための知見はどういうところから得ているのでしょうか。

実は、あまりなくて試行錯誤しながらやっています。顧客と向き合えば、自然と次に何が売れるのかが見えてくると思っていて、プラクティスは探しますが、見つからない場合は顧客と向き合うことを愚直にやります。
私の尊敬する経営者の一人に、セブン&アイ・ホールディングス会長の鈴木敏文さんがいるのですが、その方が「顧客が求めるものは自店舗でその顔や行動を見ればわかる。だから私は競合のコンビニに行ったこともない」とおっしゃられていて、すごくカスタマーサクセスっぽいなと感じました。私のレベルだとまだ他社を参考にしますが、その思想は大切だなと思っています。

―なるほど、ここでも顧客を知ることが大切になるのですね。最後に、今後目指しているものがあれば教えて下さい。

まず、カスタマーマーケティングという分野で先駆者になれればなと思っています。テーマ感で言うと、コミュニティとカスタマーマーケティングのメソッドを体系化したいですね。なかなか、まだ正解を見出せていない職域なので、事例ベースではなく、方法論として提案して参考にしてもらうようなアカデミックな形にしたいです。具体的に伝えてしまうと「うちでは参考にならないな」と思われてしまうので、想像力が広がる余地のある抽象化したものを紹介出来たらなと思っています。

あとは、コミュニティのEXITについても考えていますね。これを考えるようになったきっかけに、ユーザーの変化があります。名古屋のトラディショナルな企業が、Sansanを使った成功体験から企業文化を変える土壌が出来たと感謝されたことがありまして。これを聞いた時に、「これかも」と思いました。Sansanをデジタルトランスフォーメーションの促進をするためのサービスとして使ってもらって、それで企業文化が変わったと言われることがコミュニティの価値じゃないかなと。

少し抽象化して考えると、コミュニティからどういうユーザーを輩出したいかというのを考えるべきじゃないかなと思うようになりました。我々で言うと「デジタルトランスフォーメーションに果敢に挑戦して行く人をSansanから輩出する」です。名刺管理とかそういう局所的なところでなく、もっとスケール感が大きな話ですね。Sansan自体で全ての事業課題が解決する訳ではないので、自分たちのツールを足掛かりにして、その先に広がる世界へユーザーさんを羽ばたかせることが出来たらコミュニティのEXITになるのかなと思っています。

小父内信也

株式会社Asobica CCO
2010年、名刺管理システムのSansan株式会社に入社。データ化部門責任者を経て、名刺アプリEightのコミュニティマネージャーへ。現在は、株式会社AsobicaにCCOとして参画中。

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