
「マンガを読み始めたらその世界に没頭して、気付いたら時間が経ってしまっていた」という経験は、誰しも一度は経験したことがあるのではないでしょうか。そんな私たちの生活に溶け込んでいる「マンガ」の楽しみ方を広げるコミュニティ「アル」を運営するアル株式会社にて、コミュニティマネージャーを務める久間 美咲さんにお話を伺って来ました。
久間 美咲氏
アル株式会社 プロダクトオーナー / コミュニティマネージャー
Webサービスやアプリの開発ディレクターを経て2015年にコミュニティマネージャーに。株式会社ソウゾウでプロデューサー、株式会社メルカリで広報・コミュニティマネージャーを経て、現在はアル株式会社でマンガ情報サービス「アル」のCXとPOを担当。
―久間さんのこれまでのキャリアを教えて下さい。
私のキャリアは新卒のWeb制作会社でエンジニアとしてスタートして、そこからWebディレクターにシフトしました。その後、数回の転職を経て、2013年に株式会社nanapi(現Supership株式会社)に入社し、リリース直前だった「アンサー」という、匿名のチャットコミュニティの開発ディレクターとコミュニティマネジメントを担当しました。
コミュニティ運営は未経験だったので、当時、上司だった古川健介さん(以下、けんすうさん)からネットコミュニティのことを教わったのがきっかけです。2015年にけんすうさんがコミュニティマネージャーという職種を新設してくれました。
コミュニティマネージャーの在り方は様々ですが、「アンサー」ではサービスの世界観をそのまま機能に落とし込むための開発ディレクター寄りの活動が多く、現在主流なファンを作るためのイベントはあまりやって来ませんでした。そのため、転職時にはコミュニティマネージャーとしての経験を更に積もうと思い、オフラインもオンラインもどちらも出来る株式会社ソウゾウへの入社を決めました。
ソウゾウ入社後は「メルカリ アッテ」というCtoCサービスのプロデューサー兼コミュニティマネージャーを担い、カスタマーサポートのメンバーと、コミュニティとサービス作りの間のようなことをやっていました。例えば、いかに怒られていると感じないように、サービスの禁止事項を伝えるかとか、コミュニティ全体の雰囲気作りを考えて、コンテンツで発信するとかですね。ある程度プロダクト開発が落ち着いた頃には、マーケティングチームに異動して、オフラインの接点を重視したママ向けのイベント運営をほぼ1人で担当していました。イベントは2ヶ月で10回以上開催し、ノウハウやフォーマットはそこで学びました。ソウゾウが解散することになってからは、メルカリ広報チームに異動して、メルカリ アッテでの経験を活かし、お客さま向けの啓発系のPRやTwitterの運用、公式ブログの立ち上げ・運営をしていました。
その後、前述のけんすうさんが作っている新サービスで、「コミュニティ作り」をしませんかと誘って頂き、2019年4月にアル株式会社に入社しました。今は、開発チームでのプロダクトオーナーとカスタマーエクスペリエンス(CX)チームの両方に関わっています。
―2014年からということは、久間さんはコミュニティマネージャーの先駆けの存在ですね。
当時、「コミュニティマネージャー」というワードは、PinterestやInstagram、Yelp等で多少聞くことがあるぐらいだったので、日本ではそうかもしれませんね。だからこそ、コミュニティマネージャーの認知を広げるために、イベント等で話すこともしていました。
ユーザーと一緒に楽しめる状態を重要視

―具体的に、アルのCXチームはどういったことをされているのでしょうか。
大きく2つあります。1つ目はSNSの運用で、Twitterからサービスへの流入増加や新しいチャネルの検討をしています。2つ目は、「アル開発室」という有料の会員コミュニティの運営です。Facebookグループで運営していて、週10本程度のコラムや開発状況を投稿したり、イベント運営をしています。
今は、アルを応援してくれる熱狂的なファンを作るというKey Resultがあるので、そこに向けた活動が中心です。アル開発室は読み物として使って頂くようになっていて、ユーザーさん同士はあまりコミュニケーションさせない設計になっています。
最近はセミオープンなSlackのワークスペースでのコミュニティも始めていて、コラボ企画のコンテンツなどを一緒に作ったりしています。
―まずはアルとユーザーさん個々人との関係性を築くということですね。アルは何故CXを重要視するのでしょうか。
「アル」はマンガに関するサービスを提供していますが、マンガが売れるためには、読者の声が大事になります。ただ、マンガは他のエンターテイメントと比べて、読者が声を発するメリットがわかりづらいことが課題としてあるのです。
例を挙げると、音楽アーティストを応援する場合は、ライブに行けば他の人と一緒に楽しめますし、写真映えもするのでSNSに投稿することが出来ます。一方、マンガを読んでいる瞬間は他の人との交流はなく、写真映えもしません。感想や発見を発信する際にはテキストしか手段がなく、発信するハードルは高くなりますよね。
この状況を踏まえて、アルが目指すマンガ業界全体の盛り上げのためには、ユーザーさんと一緒に楽しめる状態を作っていくのが大事ではないかと思い、CXを重視しています。
いかに最初の雰囲気作りをするか

―久間さんはこれまでに複数社でコミュニティ運営をされていますが、それぞれ、立ち上げ方や意識する部分は違ったのでしょうか。
それぞれのコミュニティによって違う部分はもちろんありますが、私が大事にしていることは同じですね。例えば、最初のコミュニティの雰囲気がその後に影響するので、どうやって最初の雰囲気を作るかというのは重要視しています。
あとは、開発チームの思惑や会社のやりたいことが出て来た時に、それはユーザーさんにとって良いことなのかを同じ目線に立って考えるようにしていますね。その上で、ビジネスとしてユーザーさん目線になり過ぎないことも必要なので、そこは難しいですが、架け橋になることがコミュニティマネージャーの役割だと思って、バランス感を大事にしています。
一方、サービスの側面やユーザーの性質によって、コミュニティの中で注力すべきポイントは違ってくると思います。私が関わってきたコミュニティを例に挙げると、1つ目の「アンサー」は、ユーザーさん同士の投稿でコミュニケーションする形でしたので、投稿数を増やす方法を考えたり、禁止事項にしている連絡先交換などをどうやってスムーズに抑制できるかを考えたりすることが多かったです。
2つ目のメルカリの時は、既にユーザーさんが何百万人もいるなかで、よりメルカリの「楽しさ」や、メルカリの「想い」をユーザーさんに伝えられるかを考えていました。
今運営している「アル」の場合は、ユーザーさんだけでなく、一緒につくる仲間のコミュニティも大切にしています。マンガのレビューやニュースの執筆で支えてくれているライターさんが約40名いるので、彼らがアルを好きになって、応援したいと思ってもらえる関係性やコミュニケーションを考えることが多いです。
―コミュニティの活性化はつまづきやすいところかなと思いますが、久間さんがアンサー時代に取り組まれた「投稿を増やす方法」をもう少し詳しく教えて頂けますか。
とにかく投稿に特化したインターフェースにしました。「投稿までのステップが短いこと」と「誰かからすぐレスが来る状態」を最初につくりました。そうすると、最初のヘビーユーザーさんがその空気を伝播してくれることが多いので、こちらから意図的に盛り上げることが大事だと思います。
それを運営側でやっても良いですし、2〜3人のヘビーユーザーさんに、運営側の想いや協力して欲しい気持ちを伝えて、味方になってもらうことも良いと思います。「アル」の場合だと、ライターさんがそれに近いですね。「アル」の頑張りたいことや応援して欲しいポイントを知ってもらえていると、シェアしてくれる頻度や確度が変わるので、盛り上げに効くのかなと思います。
―他にもコミュニティ運営をするポイントがあれば、お聞きしたいです。
禁止事項などの伝え方で、違反投稿をされた方に個別に連絡することの他に、パブリックな掲示板などの場所で伝えて他の人にも見てもらうようにしたりしたことがあります。
ただ知らなかっただけで悪気があって違反してしまう方ばかりではないので、ルールが浸透するまでの間はあえて投稿を残してルールと運営の姿勢をみてもらうことがありました。
―経験されてきたからこそ分かるポイントですね。もう少しコミュニティの始め方を教えて頂きたいのですが、最初にコミュニティに入ってもらうユーザーさんは、一気に増やすのと少数のヘビーユーザーに入ってもらってそこから育てていくのでは、どちらが良いのでしょうか。
どういうコミュニティで何を目的にするかによってアプローチは変わってくるので、一概には言えないですね。
ただ、「コミュニティ=交流」という前提だと、コストも大きく掛かりますし、ユーザーさんの質やトラブルの問題など考えなければいけないハードルも増えるので、コミュニティ作りの第一歩として、世界観を共有することから始めるのも良いと思いますね。
あとは、「自分以外にもこのサービス使っている人がいる」ということを意識してもらうだけでも良いと思います。例えば、「ユーザーさんの声が入ったFAQが充実していて疑問をすぐに解消出来る」とか、「使い方紹介としてユーザーさんのインタビュー記事を載せる」とか。ユーザーさんの顔が見えるようにすることもコミュニティ作りの一部だと思います。
そういう活動をしていく中で、コミュニティのあり方や目的が明確になれば、どうしたら良いかが見えてくるのではないでしょうか。
周りに助けを求められることが大切

―久間さんが考える、コミュニティマネージャーに向いている人はどういった人でしょうか。
コミュニティに対して熱い想いを持っていることや人が好きなこと、連絡がマメなことは最低限必要な要素だと思いますが、他のコミュニティマネージャーを見ていて、「出来ない」「間に合わない」を周りに言えて、助けを求められることがとても大事だなと思いました。
例えばイベント準備が追いついていない時にちゃんと「準備が追い付いていない」と言えると、周りが「じゃあ、これやりますよ」と手伝ってくれて、段々と「一緒に作る」イベントとなったりしますが、この「一緒に作る」という感覚はコミュニティにおいて大事ですよね。だから、完璧主義な人より、巻き込んで周りに助けを求められる人は、コミュニティマネージャーに向いているなと思います。
―久間さんは、今後の目標やビジョンはありますか。
ユーザーさんと近い距離で働くことやWebサービスを作ることが好きですし、今まで色々なコミュニティマネージャーを経験させてもらってきたので、それを社会に還元したいですね。経験豊富なアルの編集長を見ていて感じるのが、長く必要とされるためには、常に現場に身を置いて、いつでもどんな世代とも仕事ができる人物でないといけないなと感じたので、今はそれを模索しています。